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878話 ラティルたちが閉じ込められた洞窟の中にプレラがいました。
◇ヘトヘト◇
ラティルがプレラと出会う前。
メラディムとタッシール、白魔術師、
ゲスターが、
消えた皇帝とラナムンを探す方法を
真剣に議論している時刻。
カルレインは
3人の子供の世話をするのに
疲れ切っていました。
カルレインは500年間、
さまざまな仕事をしながら
多様な経験を積んできた吸血鬼でしたが
その間、父親の経験は
ありませんでした。
ラナムンとの賭けで得た
3番目の子供さえ、養育し始めて
まだ半月も経っていない状況でした。
そんな中、追加で
2人の子供の世話をするようになると、
カルレインは
ワカメ一本を武器としてもらって、
怪物の群れの間に
投げ出されたような気分でした。
1番目、そこに座っていなさい。
2番目、そのそばに座っていなさい。
むやみに歩き回るな。
いや、そこは座るところじゃない。
畜生。座るなと言っているのに、
なぜ、あえて座って転ぶのか。
皇女たち。
お腹がいっぱいになったら
ふざけないで皿を下ろせ。
おい、1番目。 食べ物を床にこぼすな。
2番目、真似するな。
1番目、床に横になるな。
2番目? 何を拾って食べているのか。
カルレインが、
子供たち3人の間を
あちこち歩き回りながら
傭兵たちに命令するように
指示している間、下女たちは
クスクス笑いながら
その姿を見物しました。
食事を終えて帰って来た乳母たちは
カルレインが
ヘトヘトになった姿を見て、
お腹を抱えて笑っていました。
そのようにして何時間か過ごすと
カルレインはソファーに座り、
額を手で押さえました。
3人の子供が、順番に
泣いたり悲鳴を上げたりする声を
聞いていると、
魂が半分ほど、砕けそうになりました。
皇子1人の時は、
少し寝て、起きて泣いて、
また寝て、起きて泣くの
繰り返しだったので大丈夫でした。
ところが、子供2人が、
そばで悲鳴のような声を出して
遊んでいるので、
皇子は寝そうになりながらも
何度も目を覚まして泣いていました。
見かねたアイギネス伯爵夫人は、
カルレインに近づくと、
このままでは、
皇子が全く眠ることができない。
どうしてもカルレインが1人で
赤ちゃんを見なければならないのか。
他の側室の中に、
助けてくれる人がいないのかと
尋ねました。
カルレインは、
いないと思うと答えました。
アイギネス伯爵夫人は、
カルレインは皇子だけを見て、
皇女2人は、他の側室が
世話をした方が良いように見える。
皇女たちは退屈しているし、
皇子は、まともに寝ることができないと
主張しました。
カルレインは、
タッシールの忠告を思い出しました。
彼は、誰かが自分たちを
バラバラにしようとしていると言って、
子供たちの面倒を見て欲しいと
頼みました。
子供3人を、あえて集めておいたのも
力が分散するのを防ぐためだろうと
思いました。
ギルゴールは
ハーレムに行っていると聞いた。
しかし、そうでなくても、
ギルゴールに、
子供たちを預けたくはない。
ザイシンは、子供たちの面倒を
よく見ることができるだろうけれど
2番目の皇女が
吸血鬼の特性を持っているという点が
引っかかりました。
メラディムも、
人間の子供の世話には疎いだろうし
クライン皇子は、とんでもないと
考えているうちに、
ついにカルレインの頭の中に
適切な誰かが浮かび上がりました。
カルレインはアイギネス伯爵夫人に
シピサの居場所を知っているかと
尋ねました。
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◇血の匂い◇
アイギネス伯爵夫人は、
シピサの居場所を知りませんでしたが
あちこちに
問い合わせてくれたおかげで
シピサが来てくれました。
カルレインはシピサにだけ
タッシールが聞かせてくれた事情を
こっそり話してから、
皇女2人を連れて、
しばらく遊んで来ることができるかと
尋ねました。
シピサは、
しばらく幼い妹2人の世話を
することができるかと思うと、
少し嬉しくなり、
「そうします」とカルレインの提案を
快く受け入れました。
カルレインはシピサに、
木の近くには行かず、
プレイルームで遊ぶように伝えました。
シピサは、分かったと答えると
皇女2人を、
片腕に1人ずつ抱えながら
外に出ました。
プレイルームは
どっちに行くんだっけ?
こっち?
あっち!
あ、こっちだよね?
あっちあっち!
シピサは
道をよく知っているのに、
訳もなく知らないふりをして
あちこち迷いながら歩き回り、
その度に皇女2人は浮かれて
むやみに方向を示しました。
皇女たちの下女2人も
後について行き、
その姿を見て笑いました。
シピサは、
妹たちの面倒をよく見てくれたと
後で母親に褒められるかと思うと
ウキウキしました。
この間、プレラに
全てのプレゼントをあげたせいで
クレリスが怪我をしたことを、
今度こそ、挽回できそうでした。
しかし、ある大きな木のそばを
通り過ぎた時、
シピサの楽しい気分は
一瞬、揺らぎました。
彼は反射的に首を回して
木を見ました。
木・・・
カルレインは木とプレラが
話していたと言っていました。
この前、シピサは、
馴染みのある気配を感じて
やって来た所に、
アリシャが隠れながら
プレラの方を見ていたことと、
プレラが木の前に
一人で立っていたことを
思い出しました。
もしかしてカルレインは、
その時のことを
話してくれたのだろうかと
考えました。
その木は普通の木でしたが、
この前、シピサが感じたのは
確かに議長の気でした。
モヤモヤしたシピサは、足を止めて、
木をチラチラ見ていると、
シピ?どうしたの?
とプレラが彼の肩を軽く叩いて
尋ねました。
シピサは、
議長ではないだろう。
もう、そうしないと言ったからと
考えると、
一瞬、浮かんだ疑いを捨て、
さあ、着きました!
と明るく叫びながら
プレイルームに入りました。
シピサが皇女2人を降ろすと、
子供たちは、
再びキャアキャア笑いながら、
遊具が集まっている場所を指差し
滑り台、滑り台!
シピ、滑り台!
とシピサに向かって叫びました。
シピサは子供たちに付いて
そこへ歩いて行きました。
しかし、一度気になると、
引き続き、木のことが気になりました。
結局、約30分後、
子供2人が遊ぶ姿を見ていたシピサは、
下女たちの方に近づくと、
10分以内に戻ってくるので、
子供たちを、
よく見ていてくれないかと
頼みました。
下女たちが承知すると、彼は1人で
プレイルームの外に出ました。
彼が向かったのは、
先日アリシャとプレラがいた
大きな木の近くでした。
シピサは木の前に近づくと、
木の周りを歩き回りながら
注意深く観察しましたが、
やはり普通の木でした。
アリシャという人間が
誤って伝えたのではないだろうか。
木をあちこち見回したシピサは
首を傾げながら
プレイルームに戻りました。
しかし、扉を開ける前、
彼は取っ手から
反射的に手を離しました。
中から強い血の匂いが
漂って来ていました。
誰か怪我をしたの?
シピサは急いで扉を開けました。
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◇幻影?◇
プレラ?
どこか怪我したの?
プレラの服のあちこちに
血が付いていたので
ラティルは当惑して尋ねました。
その間、ラナムンは
プレラの元へ駆けつけて
子供を調べました。
怪我はしていないようでした。
ラナムンは、
子供に傷が見えないことを
確認しながらも、プレラに
どこか具合の悪い所はないかと
慎重に尋ねました。
ラティルもクリーミーを置いて、
プレラのそばに近づきました。
しかし、プレラは、
両親が近づいても、
近づいて来なくても、
ぼんやりと立っているだけでした。
子供は、
驚くべき光景を目撃した人のように
魂が抜けたように
じっとしているだけで、
何を言っても
返事がありませんでした。
ラナムンは
何度かプレラに話しかけた後、
この子が変だと急いで言いました。
プレラは、ぺらぺらと
よく喋る子供でした。
休まずに喋るせいで、
アトラクシー公爵が
「ラナムンと性格が似ていない」と
半分、ホッとし、
半分、残念がるほどでした。
しかし、今のプレラは
カルレインよりも無口でした。
その上、魂が消えたように
表情が尋常ではありませんでした。
プレラ、プレラ、
お母様が分かる?
ラティルが膝を曲げて
子供と目を合わせて呼んでも、
プレラは反応しませんでした。
この子、どうしたんだ?
とクリムゾンが近づいて
プレラの腕を触っても、彼女は
タヌキ! タヌキ!
と叫びませんでした。
ラナムンは、
早くここから出なければいけないと
言うと、
まずプレラを抱き上げました。
なぜ、子供が、
このような様子なのかは
分からないけれど、急いでザイシンに
見せなければならないようでした。
ラティルは頷きましたが、
自分たちが行こうとしていた方向から
再び争う声がすると、
ビクッとして振り返りました。
あちらにも人がいるようだけれど。
始めに到着した所へ
行こうとしたラナムンと
クリーミーを抱いている
ラティルの視線が
空中でぶつかりました。
どうしよう。
ラティルは、
魂のない、子供の人形のように
ぼんやりしているプレラを見て
イライラしました。
子供の状態を見ると、
早く中心へ行って、抜け出さなければ
ならないようでしたが、
だからといって、
ここにいるかもしれない部下たちを
むやみに放っておくことも困難でした。
百花とアニャ、吸血鬼の2人なら
何とか持ちこたえているだろうけれど
他の行方不明者13人は皆人間でした。
ラナムンは、
魂の抜けたプレラを抱きしめたまま
口をつぐんで開きませんでした。
ラティルは苛立たし気に
ラナムンとプレラ、
声が聞こえてくる方向を交互に見ると
クリーミーを下ろしました。
そして、
ラナムンがプレラを連れて
先に中心に行くように。
クリーミーはラナムンと一緒に行き
もし敵が現れたら、結界を張って、
ラナムンとプレラを隠してと
指示しました。
陛下は?
ラナムンは目を見開き、
子供を抱いていない方の手で
ラティルの腕を握りました。
彼女は彼の手の甲の血管を
見下ろしながら、
自分は早く移動できるので、
声がする方まで
できるだけ早く走って行って、
また中心に戻って来ると答えました。
ラナムンは、
危険だと反論しましたが、
ラティルは、
だからといって、プレラを連れて
戦いの現場に行くことはできないと
言い返すと、ラナムンは、
自分が行って来るので、
皇帝がプレラと一緒に中心へ行ってと
提案しました。
しかし、クリーミーが
ラナムンは遅いと指摘すると
ラナムンの瞳が揺れました。
ラティルは
ラナムンが意地を張る前に
彼の腕を2、3回叩いて
音のする方へ走って行きました。
ところが、しばらく走っても
引き続き、争う声は
同じような大きさで
聞こえてくるだけで、
争っている人たちは現れませんでした。
争う声が、
これ以上、大きくなることも
ありませんでした。
幻聴かな?
ラティルは、
訝しく思いながらも走り続け、
ふと良くない可能性が
浮び上がって来て戸惑いました。
プレラは
本物のプレラなのだろうか。
幻影である可能性はないのだろうか?
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◇脱出◇
ラナムンは、
プレラに絶えず話しかけながら、
皇帝が戻って来るのを
イライラしながら待ちました。
クリーミーは欠伸をしながら
気楽そうに岩の上に
横たわっていましたが、
ラナムンは、少しも安心することが
できませんでした。
降ろして。
プレラが小さな声で呟きました。
プレラ、正気に戻ったの?
ラナムンは驚いて子供を見ました。
魂が抜けたように
ぼんやりと空中を見ていた子供の目に
焦点が戻っていました。
ラナムンはプレラに、
何があったのか。
どうやって、ここへ来たのかと
尋ねました。
宮殿の中で、安全で楽しく
過ごさなければならない子供が
1人で遠く離れた所に
来ているかと思うと
心が痛みました。
プレラは、
とりあえず降ろしてと
元気のない声で呟きました。
ラナムンがプレラを降ろすと、
彼女はクリーミーが横たわっている
岩の近くへ行き、しゃがみました。
それから、
何日も眠れなかった人のように、
また目を閉じました。
どうしてここに来たのかと
ラナムンは再び子供に尋ねましたが、
プレラは答えず、眠っているように
再び静かになるだけでした。
ラナムンは息が詰まる思いでしたが
子供を促すこともできず、
唇だけ噛みました。
その時、
誰かの足音が近づいて来ました。
ラナムンが振り向くと、
皇帝が走って来ていました。
ラティルは、
声のする方へ行ってみたけれど
誰もいなかった。
声も、一向に近くならないのを見ると
幻聴ではないかと思い、戻って来たと
話すと、プレラの方をチラッと見て
彼女の様子を尋ねました。
ラナムンは、
少し話したけれど、
また静かになったと答えました。
ラティルは、
何て言ったのかと尋ねると、
ラナムンは、
「降ろして」と答えました。
ラティルは先程の推測を思い出して
チラッとプレラを見ました。
しかし、心配に陥っているラナムンに
プレラは本当にプレラなのかと
質問することはできませんでした。
ラティルは、
宮殿に戻ればわかるだろう。
幻影なら、そこまで付いて来ることは
できないだろうと思いながら
天井に向かって
メラディム!
と叫びました。
その瞬間、壁を突き破って
白いイタチが一匹、
すっと姿を現しました。
イタチはラティルを見ると、
少しの間、穴に戻りましたが
まもなく再び姿を現しました。
ラナムンがプレラを抱き上げると、
ラティルもクリーミーを抱きながら
どこへ行けばいいのかと尋ねました。
ここへと、イタチは答えると、
再び穴の中に入りました。
まさか、あの小さな穴の中を
付いて来いというのかと、
ラティルは戸惑いましたが、穴は、
人が1人ずつ歩いていくほどの大きさに
次第に広がって行きました。
付いて来てと言うイタチに、
ラティルは、
これは大丈夫なのかと
聞きたかったけれど、
広い穴ができるや否や
天井の上にある輝く糸のようなものが、
むやみに蠢く姿が
尋常ではありませんでした。
「行こう」と、ラティルは
ラナムンを押し込んで
急いで穴の中に入りました。
そのようにして、曲がりくねった道を
移動しているうちに、
いつの間にか彼らは
村の隅に立っていました。
意外だったのは、そこにゲスターが
立っているという点でした。
ゲスター、どこへ行っていたの?
ゲスターまで発見すると、
ラティルはプレラを見た後、
ずっと落ち着かなかった気持ちが
少し落ち着きました。
しかし、ゲスターは、
ラティルを見るや否や、
今すぐ、宮殿に
戻らなければならないと
深刻な表情で話しました。
安否を確認もせずに、
すぐに戻らなければと言ったことに
ラティルの心臓はドキッとしました。
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剣の代わりにワカメ1本という表現で
カルレインの無力さが窺い知れました。
カルレインが
ギルゴールに子供を
任せたくないと思ったのは
ただ意地を
張っているだけなのではないかと
思いました。
タッシールがカルレインに
子供を頼んだのは、
3人の子供が一緒にいた方がいいと
思ったからでしょうけれど、
子育て経験のないタッシールは
幼子3人を同時に預かることが
どれだけ大変なことなのか
想像できなかったのかもしれません。
プレラだけはザイシンに預けても
良かったのではないかと思います。
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