886話 ラティルはザイシンと初めての夜を過ごしています。
◇意地悪なラティル◇
ラティルは、
ザイシンが力を入れて
筋肉を膨らませる度に、
そうしなくても、
十分、素敵な体をしているのに、
なぜ、あんなに体を
もっと大きくするのだろうかと
いつも気になっていました。
ラティルは、
まだザイシンの心理を
知ることができませんでした、
しかし、彼が作り上げた筋肉は
触れた時の感触が本当に良いのは
確かでした。
ラティルは、
彼の膨らんだ筋肉の上に
一度ずつキスをしながら
自分とこういうことをするために
運動したのかと尋ねました。
顔を真っ赤にして、
いいえ、違います。
と首を横に振ったザイシンは
ラティルが
唇ではない部位にキスすると
いや・・・そうです。
陛下のおっしゃる通りです。
と言葉を変えました。
ラティルは、
ザイシンが運動する時、
自分のことを考えているかと
尋ねました。
ザイシンは、
皇帝のことを考えている。
皇帝のことだけを考えていると
答えました。
ラティルは、
それでも大丈夫なのかと尋ねました。
そして、肌は柔らかいけれど、
中身がしっかりしている
ザイシンの体が不思議で、
あちこち、休まずに触りました。
他の側室たちも筋肉は多かったけれど
これだけふっくらとした筋肉は
寝ているだけで不思議でした。
ラティルが彼を少し強く握ると、
ザイシンは泣くように
呻き声を上げました。
ザイシンは、
皇帝の手がとても熱い。
皇帝の手の中で
自分が溶けてしまいそうだと
訴えました。
ラティルは、
違う、 全く逆だと返事をし
低い声で笑いました。
ザイシンはあちこち体をひねり、
自分もラティルに触ってみたいのか
手をしきりに動かし、
陛下、私も。 私も陛下を・・・
と訴えました。
ラティルは、
彼が望むようにしてあげてもいいと
思いましたが、
意地悪な気持ちになりました。
ラティルは彼の腕を膝で押さえて
首を横に振ると、
神官は祈らなければならない。
手を合わせなければいけないと
言いました。
ザイシンの純真な目尻に涙が滲むと
ラティルは意地悪な楽しさを
覚えました。
ラティルはザイシンに
何を祈るのかと尋ねて
彼の上に乗って座ると、
ザイシンの目が大きく揺れました。
これは彼が想像できなかった
感覚でした。
ザイシンは、これまで
運動以上に彼を高揚させる
何かがあることを
期待していませんでした。
そして、
運動はいつでもできるけれど、
これは皇帝が許可してくれなければ
できないのではないか。
このような経験をした後、
彼は以前のように
生きることができるだろうかと
恐怖を感じました。
ザイシンは、本能的に
すぐに方向を変えたくて、
思わず腕を振りました。
しかし、ラティルが膝で
巧みに押した腕は、
痛くはないけれど、
びくともしませんでした。
皇帝はロードで間違いない。
力が本当に強い。
気が気でないザイシンは
お腹を蠢かしました。
そして、
いいですね。 大好きです。
と言った後に、
腕を放して欲しいと頼みました。
ラティルは、
そのように祈るのかと尋ねました。
ザイシンは、
陛下と一つにさせてくれた
神様に感謝を・・・
と答えました。
ラティルは恍惚となりました。
ザイシンが包み隠さず見せる
純粋な喜びと快感は
見る人の気分まで良くさせました。
ラティルは、
神様にそんなことを
祈ってもいいのかと尋ねました。
ザイシンは、
できる。当然できると答えました。
ラティルが
本当に?
と聞き返すと、
ザイシンは「はい、はい」と
答えましたが、
とても小さい声で「たぶん」と
付け加えると、
ラティルは笑い出して
彼を噛みました。
◇名残惜しい◇
翌朝、目覚めると、
すでに朝食を取る時間が
過ぎていました。
ああ、なんてことだ。
今日は、
重要な会議がある日でした。
ラティルは、
ぼんやりと時計を見ながら顔を擦り、
自分が寝坊した原因に気づいて
横を見ました。
あの愛らしい筋肉の塊の胸に
抱かれていると、
居心地が良かったからでした。
彼は、一晩中ラティルに腕枕をして
寝たにもかかわらず、
一緒に、スースーよく寝ていました。
どうやら神聖力のおかげのようでした。
大きな虎のぬいぐるみのようだ。
ラティルは彼の顔をもみもみすると
額にキスをして立ち上がり
急いで服を着ました。
扉が閉まる音がすると、
ザイシンは一気に目を開けました。
彼は、まだ温かみのある隣の場所を、
残念な目で見つめながら自責しました。
目を開けて起き上がり
行ってらっしゃいと言えばよかった。
それとも、もう少し一緒にいようと
言えばよかったのか。 それとも・・・
あらゆる名残惜しさが
押し寄せて来ました。
ザイシンは、皇帝が彼のそばで
もう少し横になっていたり、
一緒に朝食を取ったり、
あるいは起こしてくれると
思っていました。でも、こんなに
サッと行ってしまうなんて。
それでも、額にキスをしてから
帰ったので、 ザイシンは
力を出して体を起こし、
めちゃくちゃに散らばった
彼の神官服を確認してから
ベッドに倒れ込みました。
◇微妙な発言◇
ラティルは
急いで自分の部屋に戻ると
素早く体を洗い、いつもより
フォーマルな服装をしました。
会談することになっていました。
ザイシンと愛を分かち合うことは
ラティルが予定していたことでは
ありませんでした。
元々、彼女は
ザイシンと夕食だけ共にした後、
部屋に帰ってぐっすり眠り、
朝はいつもより早く起きて
議題を事前に確認し、余裕を持って
会議に出席するつもりでした。
やっとのことで
時間前に準備を終えたラティルは、
朝食を省略して、
すぐに会議場の中へ入りました。
しかし、会議の開始時間より
5分早く来たにもかかわらず、
すでに他の出席者は
全員集まっていました。
多くの人々の視線が、
同時に自分に注がれましたが、
ラティルは平気なふりをして
上座に歩いて行き、座りました。
しかし、上座に座るや否や、
タリウムの皇帝は
ちょうどいい時間に来た。
さすがに時間を守ることに
徹底していると、
微妙なことを言いました。
ラティルは気分が悪いというより
彼は勇気があると、
心から感心しました。
タリウム皇帝の座に就いても
年齢が若い。
後継者としての教育期間が短い。
皇帝の座に就くまでの過程が
正しくないなど、様々な理由で
先代皇帝同様に、きちんとラティルを
もてなしてくれるという人は
少数でした。
しかし、
ラティルがロードであることが
明らかになった後は、
そのような人の数が確実に増えました。
陰で、以前よりもっと酷いことを
言っているけれど、
一応、ラティルの前では
皆、沈黙していました。
あのように目の前で文句をつける人も
とても久しぶりでした。
不思議と腹も立たなかったので、
ラティルは彼の言葉を聞き流し
侍従長を見ながら
始めましょう。
と言いました。
◇気分の悪くなる言葉◇
初めに文句を言われた時、
言い返すべきだったのか。
会議が始まって30分後。
微妙に不愉快なことを言った時の
自分の対処の仕方を
少し後悔しました。
それとなく気分の悪い言葉でしたが
露骨に苦言を呈するには、
逃げ道が多そうだったので、
そのまま見過ごしました。
しかし、その時、
ラティルを甘く見たのか、
その後も頻繁に
ラティルの言うことに反対しました。
怪物の数が
どんどん増えている状況で、
いつまでも侵入に
備えてばかりいるのでは大変なので
まず、怪物を掃討しようという
意見が出た時、ラティルは、
怪物といっても、
人々に友好的でない怪物がいたり、
人々に関心がない怪物がいる。
今、人々は、
敵対的な怪物を相手にするだけでも
実は少し手に負えない状況だ。
タリウムを除けば、
国単位で国民の保護が可能な所は
ないのではないか。
それなのに、そんな中、
敵対的でない怪物まで
相手にしようとするのかと
反対意見を述べました。
他の人が聞けば
気分の悪くなる言葉でしたが
ラティルの言うことは事実でした。
他の国々にも、
もちろん強い人が多いけれど、
彼らは、自分たちや
自分が守りたい団体、勢力などを
保護することに止まるだけでした。
タリウムのように
全国民を保護できる勢力は
カリセンにも、
まだありませんでした。
ところが、そんな中、
じっとしている怪物たちまで
巻き込むだなんて。
ラティルが考えるには
とんでもなく強欲でした。
しかし、これは
ラティル自身の考えなので、
他国の人々は反対意見を
出すことができる。
彼女も、
ここまでは理解しました。
しかし、ラティルは
あまりにも気分が悪くなりました。
彼は、
怪物の中で、どれが友好的で
どれが友好的ではないのか、
どうやって区別するのか。
友好的な怪物が、
将来も友好的であるという
保証はあるのかと尋ねました。
ラティルは、
記録と経験があると答えました。
よく訓練された犬でも、
気分が悪ければ人を噛み殺すと
反論した後、ラティルが
怪物を信じていることに呆れ、
彼女が、それとなく
怪物を中心に話をしていると
非難しました。
その言葉に、ラティルが
眉をつり上げて
彼は、すぐ後ろに下がり、
どうでもいい、どうでもいい。
タリウム皇帝の言うことは
すべて正しい。
タリウム皇帝は、
この分野の専門家だからと
また、気分の悪いことを言いました。
タリウム側の大臣たちが
同時に彼をじっと見つめましたが、
少しも屈しませんでした。
問題は、プイエスの
他の外務省高官たちでした。
プイエスの他の官吏たちも皆、
あのように振る舞えば、
国対国単位で制裁でもするだろう。
しかし、あの外務大臣が
一言一言、口を開く度に、
他の官吏たちは、
生きる屍のようになっていきました。
そうしているうちに
怪物に対する 議題が終わり
黒魔術師の話が出た時、
ラティルが、少し黒魔術師たちの
肩を持つような発言をした瞬間、
タリウムの皇帝の側室の中に、
黒魔術師がいたと思ったけれど、
その黒魔術師は、
他の黒魔術師とは少し違うようだ。
しかし、今まで、
大多数の黒魔術師が
良いことよりも悪いことを
より多くしているのが現状ではないか。
今回も皇帝は不公平な振る舞いを
しているけれどと言うと、
ついにラティルの忍耐心は
ズタズタに切れてしまいました。
ラティルは返事の代わりに
手で扉を指差しました。
ラティルの合図を理解できず、
訝し気な顔をしました。
すると、ラティルは
再び扉を指差して、
「出て行け」と冷たく指示しました。
まさか会談の席で、ラティルが
一国を代表してきた自分に
こんなことを言うとは
思わなかったのか、
初めて当惑した表情になりました。
彼は「本当に?」と尋ねると、
ラティルは、
3回言わなければならないのかと
返事をしました。
ラティルが若いせいで
腹立ちまぎれに、
このようにしているようだけれど
気分が悪いという理由で
他国の代表をむやみに追い出すのは
外交的な礼儀を大きく欠いている。
自分の言うことに気分を悪くしたのなら
ここで自分に文句を言って欲しいと
訴えました。
そして、自分はここで
教師に仕えているのかと
皮肉を言いました。
しかし、ラティルが
扉を指差してばかりいると、
ラティルを冷ややかな目で見た後
パッと立ち上がり、素早く挨拶をして
出て行ってしまいました。
ラティルは、外務大臣が出て、
扉まで確実に閉まった後、
他国の大臣たちに
黒魔術師に関する話を続けました。
ラティルは、
自分の側室が黒魔術師だという理由で
すべての黒魔術師が良い人だと
主張するわけではない。
自分と戦った敵の中にも
黒魔術師が多かった。
自分が言いたいのは、
白魔術師も黒魔術師と同じくらい
危険なのに、
統制されているということ。
白魔術師たちも事故を起こしたら
とても危険だ。
それで、自分たちだけで
危険等級まで付与している。
自分は黒魔術師たちにも、
そのようなシステムが必要だと思う。
黒魔術師たちは、
今まで規律の外にいて、
問題を起こしても
自分たちで収拾する方法が
なかったのではないかと話しました。
会談が終わり、
他の国の大臣たちが退いた後、
ラティルは疲れ果てて
テーブルの上にぐったりとなりました。
侍従長は、
ラティルを書類の束で扇ぎながら
陛下、大丈夫ですか?
と尋ねました。
ラティルは、
心配していたことが起こったと
答えました。
侍従長が、
ゲスター様のことかと尋ねると、
ラティルは、
自分が何を言っても
ロードだからだ、
側室の中に黒魔術師がいるからだと、
こんな風に受け止められてしまうと
嘆きました。
ラティルは落ち込んで
半分目を閉じました。
このような点を心配して、
ラティルは、
自分がロードであることを明かさずに
雰囲気を変えようとしました。
しかし、すでに自分が
ロードであることを知られている今
改めて残念がっても
仕方がありませんでした。
侍従長は、
髪の毛まで元気がなさそうな
ラティルを見下ろしながら、
時間が経てば、皆、
皇帝の言った通りであることが
分かるだろう。
あまり深く考えなくてもいいと
慰めるように話しました。
ラティルは、
元々、あのような性格なのかと
尋ねました。
侍従長は、
それは分からないけれど、
家族の中の誰かが、
通りすがりの怪物に
命を奪われたと聞いた。
戦ったわけでもなく、
通り過ぎるのを見て隠れていたのに
死んでしまったと答えました。
ラティルは口を開けて
侍従長を見つめると、
再び、うなだれました。
ラティルは、侍従長の話を聞いて、
さらに心配が大きくなりました。
ラティルは、
自分がロードなのに、
怖がらずに飛びつく人の中には、
すでに怪物や黒魔術師のせいで
被害を受け、
絶対に退く気のない人たちが
多いのではないかと呟きました。
果たして、そのような人たちを
説得できるのか。
ラティルは頭が痛くなり
眉を顰めました。
確実なのは、
さらに多くの怪物が侵入し
さらに被害が大きくなるほど、
あのような人たちの数も増えていき、
そうなると、結局、再び世の中は
変わらないという点でした。
◇困惑するゲスター◇
その晩、ラティルが、
その深刻な問題を
じっくり考えるために
一人で夕食を食べていた時、
意外にもゲスターが
非常に困惑した表情で
訪ねて来ました。
ラティルは、
彼の手に握られた物を見て、
どうしたのかと尋ねました。
とりあえず、宮殿の中は
平和になったけれど、
外に目を向ければ、まだまだ、
ラティルに敵対的な人はいる。
ロードに対しても黒魔術に対しても
怪物に対しても、
人々に染みついている
恐怖や憎しみや恨みは
そう簡単に消えるものではない。
ラティルは焦ることなく、一歩一歩
信頼を築き上げていくしか
ないのではないかと思います。