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泣いてみろ、乞うてもいい 42話 ネタバレ 先読み 原作 あらすじ 二人が幸せになれる場所

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42話 カイルはレイラに逃げようと言いました。

 

カイルのぼんやりとした眼差し。

やつれて青白い顔色、

乱れた髪と身なりを見たレイラの瞳が

揺れ始めました。

 

レイラはカイルに、

「やめて。自分たちは、もう・・」

と抵抗しましたが、カイルは、

どこか、自分たち二人が

幸せになれる場所に行こうと

何も聞こえない人のように呟くと

無理やりレイラの手を

引っ張り始めました。

レイラは全力で抵抗しましたが、

カイルは微動だにせず、

勢いよく歩き出しました。

 

偶然その光景を目撃した

庭園の労働者の一人が、

ビルに向かって、

レイラが連れて行かれると

声高に叫びました。

 

ビルは顔を真っ赤にすると

剪定ばさみを投げ捨て、

カイルを追いかけました。

当惑した労働者たちも

彼の後を追いました。

 

今すぐその手を離せと

ビルの怒りの叫び声が

雷のように鳴り響きました。

そして、レイラが止める間もなく

ビルはカイルの顔に向かって

拳を振り下ろしました。

よろめきながら倒れた瞬間も、

カイルはレイラの手首を

離しませんでした。

そのため、レイラも一緒に

バラの花壇に倒れてしまいました。

 

驚いたビルは、悲鳴のように

レイラの名前を呼びながら近づき

レイラを起こしました。

しかし、レイラの頬と手の甲は

すでに

太いバラの棘に引っかかれて

傷ができていました。

 

何かに取り憑かれたように

ぼんやりしていたカイルの瞳に

徐々に焦点が戻り始めました。

そして、

レイラの血まみれの顔を見たカイルは

死んだ人のような顔色で立ち上がると

レイラに大丈夫かと尋ねました。

彼女は大丈夫だと答えると、

落ち着いて、顔に触れている

カイルの手を押し退け、

彼の方が、余程、怪我をしていると

指摘しました。

 

カイルは否定しましたが、

ようやく血が滲んでいる、

自分のシャツと手の甲を見ました。

頬や首筋からも

鋭い痛みを感じましたが、

そういうのは、

どうでも良いと思いました。

 

レイラはビルおじさんに

大丈夫だと告げて、

再びカイルに近づくと、

目に涙を浮かべながら、

自分たち二人だけが

幸せになれるような所は、

この世にはないと答えました。

レイラの笑顔が微かに震え、

目頭も頬も赤くなっていましたが、

声は落ち着いていました。

 

そして、レイラは

カイルが、こうしていると

自分はとても辛い。

耐えられそうにない。

だから、元気でいて欲しい。

自分も元気でいると話しました。

 

カイルは、レイラなしで

どうしてそんなことができるのかと

反論しましたが、レイラは、

カイルが予定通りに大学に行って

一生懸命勉強して、体に気をつけて

良い医者になって欲しいと頼みました。

 

カイルの苦しそうな顔に向き合っても

レイラは微笑みました。

頬を濡らした涙が光っていました。

 

レイラは、

優しい自分の友達であるカイルの、

そんな姿が見たいと言いました。

いつのまにかカイルも

歯を食いしばったまますすり泣き、

赤くなった目でレイラを眺めました。

 

レイラは、

カイルが元気でいてくれたら

自分も元気でいる。

そのように元気でいて、時間が経てば

自分たちは、また笑って

挨拶できるかも知れないと言いました。

 

カイルの唇から、

堪え切れなくなったすすり泣きが

漏れました。

彼は、すべて自分が悪かった。

自分のせいでレイラが・・・と謝ると

崩れるように花壇に座り込みました。

 

レイラは静かに首を横に振って

カイルの前に跪くと、

そんなことをしないで欲しい。

自分はカイルのことが憎くないのに

どうしてそんなことをするのか。

だから元気でいて欲しいと頼みました。

 

首が絞められた人のように

喘いでたカイルは涙を流しながら

レイラを抱きしめました。

真っ白なレイラのブラウスが

傷から流れた血と涙で

濡れ始めました。

 

続けざまに、

ため息ばかりついていたビルは、

二人の子供を見ることができず、

顔を背けました。

数歩離れた所に立っていた労働者たちも

同様でした。

 

ビルは恨めしそうに

太陽を睨みつけると、

このひどい夏が早く終わりますようにと

切実に願いました。

カイルは、

予定より早く首都へ発ちました。

大学の入学のために

準備することが多いからという

表向きの理由を

誰も信じる人はいませんでした。

 

カイルが出発する朝、レイラは

いつもより早く目を覚ましました。

すると窓枠から

フィービーの鳴き声が

聞こえて来ました。

 

レイラは窓を大きく開けました。

フィービーの足首には

手紙が一枚縛られていました。

レイラはしばらく躊躇った後、

手紙を外しました。

 

レイラ、

僕は今日、首都に向かう。

君と共に行くべき所へ、

卑怯にも、一人で

出発することになった。

これが君と僕のための最善だという

もっともらしい嘘はつかない。

僕は、このように

滅茶苦茶になってしまった

現実を無視して、君を残して、

それでも大丈夫だという

君の言葉に勝てないふりをして、

結局逃げる。ごめんね。

こんな言葉で、

君の傷を癒すことができないことを

よく分かっているけれど、

この言葉を必ず伝えたかった。

お母さんが君を傷つけたことも

それを防いであげられなかった

僕の愚かさも、ごめんね。

すべてのことを

あまりにも簡単に考えて

押し通した愚かさが、

君を傷つけたことを

ようやく分かったような気がする。

でもレイラ、

あまり遅くならないうちに、

必ず君のもとへ戻る。

僕たち二人が幸せになれる場所は

この世にないという君の言葉が

正しいかもしれないけれど、

そんな所がなければ

僕が必ず、そんな所を作り出して、

そこに君を連れて行く。

君に頼まれたように、

その日まで僕は元気に過ごすよ。

だから、君も元気でいてね。

愛する僕のレイラ、さようなら。

 

レイラは、

机の引き出しの奥深くに

手紙をしまうと、

急いで朝食を取りました。

そして、一粒の埃も残さないよう

家中を掃除しました。

 

昼食を終えたビルが再び仕事場に戻ると

仲の良いアルビスの使用人たちが

小屋を訪ねて来ました。

 

モナ夫人は、

お菓子がいっぱい入った籠を

差し出しながら、大丈夫かと、

心配そうに尋ねました。

レイラは「はい」と答えると

笑いながら

その贈り物を受け取りました。

 

レイラはお礼を言った後、

モナ夫人と

一緒に付いて来たメイドだちを

お茶に誘いました。

しかし、メイドたちが、

レイラさえ元気ならいい。

初恋は、元々叶わないものだ。

きっと、カイルよりいい男が・・・

と、くだらないことを並べ立てたので

モナ夫人は、彼女たちを睨みつけ

奥様のお茶の準備をする時間なので

早く帰ろうと言って、

言葉を遮りました。

 

彼女たちを見送ったレイラは

重い籠を持って台所へ行き、

クッキーとケーキを

一つずつ取り出していましたが、

ある瞬間、突然手が止まりました。

カイルのお気に入りの

桃のジャムを塗って焼いたクッキーが

あったからでした。 

 

レイラは、

いつもカイルが座っていた

テーブルの向こう側を

ぼんやりと眺めました。

 

もう、この食卓を

三人が囲んで座る日は

二度と来ないだろう。

 

美味しい食べ物と明かり。

にぎやかな談笑を共にした

数多くの日々が、

がらんとした席の上に

浮び上がって沈みました。

 

ゆっくりと瞬きをしていたレイラは

急いで籠を片付けた後、

小屋を出ました。

そして、裏口の前にかけておいた

古い道具かばんと帽子を持って

森へ続く道に向かいました。

 

レイラは道端に咲いた花の名前や

鳥や昆虫の名前を囁きながら

歩きました。

せっせと歩いていたレイラは

川沿いに立っている

一抱えもある木の前で止まりました。

レイラは、

隠れるように木に登りました。

 

固い枝と木の幹の間に

うずくまって座ったレイラは、

川の水をぼんやりと見下ろしました。

水面が輝いていて目が眩みました。

おっしゃる通りに、

うまく処理されたとヘッセンが告げると

説明がなくても、

その言葉を理解したマティアスは

ゆっくりと頷きました。

視線は、依然として窓越しの川に

向けられていました。

 

今日中に本人にも

電報で通知されるようだと

付け加えることで、

命じられたことについての

報告を終えたヘッセンは、

来週行われる晩餐会や

ブラント伯爵夫妻の訪問など

日常的な報告をし、

マティアスは短い返事を

繰り返しました。

 

自分の仕事を終えたヘッセン

離れを後にしました。

一人残されたマティアスは、

階下に続く階段を

ゆっくりと下りました。

 

離れは、川の上に浮かぶ形で

建てられていて、

ボートの格納庫がある一階の半分は

川とつながっていました。

いつも水の上に浮かんでいる船は

紐を解いて櫓を漕ぐだけで、

いつでも川の向こうへ

進むことができました。

 

マティアスは服を脱いで

川に飛び込むと、

その流れに沿って

ゆっくりと泳いで行きました。 

 

実際に手に入れてみると、

虚しくなるほど、

つまらないものなのに

持っていないものに対する未練は

本来、より大きく、より強靭。

彼女も同じだろうと、

マティアスは息を切らしながら

喜んで承諾しました。

 

一瞬のうちに消えてしまう欲望などに

流されるのはおかしいけれど、

それでも彼女が欲しいという熱望も

素直に受け入れました。

そして今、マティアスは、

いくらでも

そうすることができました。

 

あの、偉そうな初恋を

結局、守れなかった少年は去り、

レイラは残された。

彼の世界のすべてのものが

当然あるべき場所に置かれた。

完璧な秩序でした。

 

マティアスが、再び離れに向かって

泳ぎ始める頃、

徐々に日が暮れ始めました。

川岸に立っている

見慣れた一抱えもある木を見た

マティアスは目を細めました。

何気なく視線を投げかけたそこに

滑稽にも、あの女がいました。

彼は「レイラ」と静かに囁きました。

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もしかしたらカイルは、

99%の確率で、

レイラとの結婚は望めないと

思っているのかもしれません。

けれども、100%ダメだと思ったら

今のカイルは生きていけなくなる。

だから、1%の確率でも、

レイラと幸せになれる場所があると

信じることで、

自分の気持ちを奮い立たせて

何とか首都へ出発できたのではないかと

思いました。

レイラとの結婚は、もう望めないけれど

いつかカイルの心の傷を癒してくれる

素敵な女性と出会えるといいなと

思います。

 

カイルの好きな

桃のジャムを塗って焼いたクッキーと

二度と三人で

食卓を囲むことがないだろうと

レイラが考えるシーンに泣けました。

たぶん、レイラは

木の上で泣いていたのではないかと

思いました。

 

カイルの一途で純粋な愛に比べて

マティアスの愛は

歪んでいるとしか思えないのですが

マティアスもビョルンのように

変わっていくことを期待して

読み続けていこうと思います。

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