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泣いてみろ、乞うてもいい 57話 ネタバレ 先読み 原作 あらすじ 恩返し

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57話 フィービーに危機が迫っています。

 

フィービーが、よく座っている木々を

よく見渡しながら、レイラは森の道を

夢中で走りました。

 

冷たくて湿った空気のせいで

肺が痛くなったけれど、

レイラは止まりませんでした。

銃声が聞こえる度に、

血まみれになった

フィービーの幻影が濃くなりました。

 

もしかしたら

フィービーを撃ったかもしれない。

錆びた鉄の匂いがする息を吐く度に

レイラの恐怖は

大きくなっていきました。

フィービーを撃たないと言っていた

公爵の約束も、

今は無意味に感じられました。

脳裏を過ったのは、

単にレイラを呼び出すためだけに

多くの鳥の命を奪い、

そしてレイラの目の前で再び鳥を撃った

残忍なヘルハルト公爵の

記憶だけでした。

 

どうして、あの男との約束を

信じたのだろうか。

そのような人だということを

よく見て知っていながら、

たかが約束一つに

気を緩めていた自分が、

レイラは耐えられないほど

情けなくなりました。

 

あの男にとって、あの約束が

何だというのか。

何の意味もないはずだし、

あまりにもくだらなくて、

もうとっくに

忘れてしまったかもしれない。

 

川に続く道を走るレイラの目元が

赤くなりました。

フィービーが見つからなかったら、

もう一度、哀願するために

公爵にでも会いたいと思いました。

それは、

役に立たないかもしれないけれど

レイラは、

何でもしなければなりませんでした。

 

その願いが空に届いたのか、

まもなく、レイラは、

森の道の向こう側にいる

公爵とその一行を見つけました。

声が出ないので、レイラは、

馬に乗って立っている

貴族たちの群れに向かって

ひたすら走りました。

 

そのうちの一人が、

白い鳥が座っている木の枝に向かって

銃口を向けていました。

それが、美しい鳥たちの虐殺者、

ヘルハルト公爵であることに、

レイラは、すぐに気がつきました。

 

「フィービー!」

レイラは、悲鳴でも

上げようとしましたが、

彼女の唇から流れ出たのは、

首が絞められた時のような呻き声と

熱い嘆きだけでした。

その間に、公爵が引き金を引き、

冷たい銃声が森を揺らしました。

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リエットはもちろん、他の一行も

面食らった顔で黙っていました。

まるで、

時間が止まってしまったような

状況の中で、マティアス一人だけ、

悠々と銃を下ろしました。

 

やがて、リエットは、

ヘルハルト公爵も誤発するなんて

今日は本当に、

面白い物ばかり見ていると言って

虚しく笑いました。

他の者たちも皆、同様でした。

 

マティアスが撃った弾は、

山鳩が座っていた木の枝の先に

当たりました。

鳥はパタパタ飛び上がり、

小さな木の枝だけが、

ぽたぽたと地面に落ちて来ました。

 

マティアスは、

鳥が飛んで行った空を

チラッと見ました。

白い鳩は、

領地の東側に向かっていました。

 

笑いを抑えきれなくて、

口の中でずっと笑いながら、

マティアスをからかっていたリエットは

道の向こうに、

ぽつんと立っている女性を見て

なせ、あの子がここにいるのかと

尋ねました。

マティアスも、

すぐにリエットが示したその女性を

発見しました。

ぼんやりした表情のレイラが

マティアスを見つめていました。

 

招かれざる客の登場に驚いた侍従たちが

彼女に近づきました。

しかし、その瞬間にもレイラは

いつものような躊躇も警戒心もなく、

まるでこの世に存在するのは、

この世界だけであるかのように、

マティアスを眺めていました。

 

一人の侍従が、

危ない。公爵が狩りに出る日だと

確かにレマーさんに言ったのに・・・

と言って、レイラの腕をつかむと

ようやくレイラは意識を取り戻し

謝りました。

そして、自分が日付を勘違いした。

本当に申し訳ないと

レイラは、依然として

痛くなるほどドキドキしている胸を

抑えながら再び謝罪し、

つま先を見下ろしました。

 

侍従たちは、

「早く出て行け」と警告すると、

すぐに自分たちの場所に戻りました。

公爵は、この些細な騒ぎには

あまり関心がない人のように

馬の手綱を引きました。

 

もう行くべきだと思いながらも、

レイラは、しばらくぼんやりと

その場に留まりました。

公爵は、

フィービーが飛んだ方向とは正反対の

領地の西側に馬を走らせました。

 

両目いっぱいに溜まったまま

流れない涙が、

レイラの目をさらに輝かせました。

その目でレイラは、

はっきりと見ました。

 

レイラは、あの男が、

どのように鳥を撃つかを

よく知っていたので、公爵が

フィービーを撃たなかったということが

分かりました。

彼は、驚いたフィービーが

他人の銃に当たらない場所へ、

遠く遠くへ逃げるように、意図的に

木の枝の先に照準を合わせたのでした。 

 

曲がり角に入る前に

公爵は振り返りました。

お互いが指一本分くらいに小さく見える

遠い距離でしたが、レイラは直感的に

目が合ったということが分かりました。

 

これ以上、公爵の姿が見えなくなると、

レイラも背を向け、

夢中で走って来たその道を

とぼとぼと歩きました。

緊張が解けたせいか、

全身から力が抜けました。

まるでふわふわと漂う

幽霊になったような気がしました。

 

ぼんやりとした頭の中に、

まさに、このような気持ちになった

夜があったと、

微かな記憶が浮かんで来ましたが、

レイラは深く考えませんでした。

そうしてはいけないと思いました。

 

レイラは、

ただ肩にかけたカバンの紐を

しっかり握って、

前だけを見ながら歩きました。

 

視界が再びはっきりした時、

レイラは、いつのまにか

小屋が見える所まで

戻って来ていました。

ポーチの椅子に座り込むと、

長いため息が出ました。

公爵は約束を守った。

その事実は、はっきりしていました。

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トントンと、窓ガラスを叩く音が

静かな部屋の中に響き渡りました。

机の前に座っていたレイラは、

反射的に立ち上がり、窓の前に駆けつけ

「フィービー!」と呼びながら、

大きく窓を開くと、意外にも

ヘルハルト公爵が立っていました。

レイラは、

今にも悲鳴を上げそうな口を

急いで塞ぎました。

帰って来たビルおじさんが、

前庭で薪を割っていたので、

大声を上げれば、すぐさま彼が

駆けつけて来るはずでした。

 

レイラは、

部屋のドアをしっかり閉めた後、

再び開いた窓の前に戻りました。

まだ狩猟服姿の彼からは

微かに血の匂いがしました。

よく見ると、

赤いジャケットの袖と前立てに

血が飛び散った跡が残っていました。

 

マティアスは、

君の鳩はあそこにいると言って

窓枠の反対側の端を見下ろしました。

いつ戻って来たのか、フィービーは

そこにおとなしく座っていました。

 

かっと叫びたい気持ちを抑えながら、

レイラは窓越しに立っている公爵を

眺めました。

彼の馬は、主人の後ろに

静かに立っていました。

その向こうの空は、いつのまにか

公爵の瞳に似た、

最も清くて鮮やかな青い闇に

染まっていました。

 

公爵は、

この恩をどう返すか考えてみたかと

突然、尋ねました。

その質問に、

ぼんやりしていたレイラの意識が

呼び覚まされました。

 

問い返すように見つめるレイラを

見つめながら、公爵が顎の先で

フィービーを差しました。

困惑したレイラは悩んだ末、

公爵が約束を守ったことを

恩と言うことは、

できないのではないかと

返事をしました。

マティアスはクスッと笑いました。

 

レイラは、

もちろん有難いことだと思っていると

言い直すと、マティアスは、

「たかが感謝?」と聞き返しました。

レイラは、公爵が、

約束を守れる名誉ある紳士だと思うと

答えました。

 

マティアスは、

そっと窓に肘を突きながら、

自分が絶対に紳士ではないと

否定したではないかと

言い返しました。

その時は・・・

自分が、あまりにも軽率だったと

レイラは言い訳をしました。

 

レイラは、話せば話すほど

泥沼に陥る気分でしたが、

何とか適当な答えを探そうと

努めました。

 

マティアスは、

紳士だと言ったり、

そうではないと言ったり、

また紳士だと言っているけれど

それでは、君は女王なのかと

尋ねました。

 

レイラは、 小川のほとりで

公爵が紳士なら、自分は女王だと

叫んだのを思い出し、

鼻にしわを寄せました。

覚えていないふりでも

してみたかったけれど、

レイラの頬は

すでに赤くなっていました。

 

腹立ちまぎれに言い放てば

このような恥さらしを

免れないものだけれど、

なぜ、この男の前では

怒りを抑えられないのか

レイラは分かりませんでした。

他のすべての人の前では、嫌でも

いくらでも笑えました。

 

レイラは、

あの日は申し訳なかったと謝り、

約束を守ってくれたことに

本当に感謝している。本気だと

躊躇いながら、お礼を言いました。

その言葉の合間に、

斧を振り下ろすビル・レマーの

気合の入った声が聞こえて来ました。

 

レイラはイライラして

耐えられませんでしたが、

公爵は、あまりにも

のんびりとした表情でした。

 

その時、窓越しに突然近づいて来た

公爵は、レイラの顎をつかむと、

どうしよう、レイラ。

たかが、こんなお世辞を

聞こうと思ったわけではないのにと

言いました。

 

レイラは不吉な予感に襲われ、

後ろに下がりましたが、

いつものように公爵は

彼女より早くて強かったので、

避ける間もなく眼鏡が外され、

ぼやけた視界いっぱいに

公爵の顔が映し出されました。

 

唇が触れ合う感触に驚いたレイラが

首を振ると、マティアスは、

片手いっぱいに髪の毛を握りました。

うめき声が自然に流れ出るほど

眩暈がする痛みのせいで、

レイラが凍りついている間に

熱い舌が深く入り込みました。

 

ビル・レマーの力強い気合を入れる声と

薪の割れる音が

再び聞こえて来ました。

レイラは、

マティアスの肩を押し出しましたが

そうすればするほど、

ますます深く入るばかりでした。

レイラの心の奥深くに

傷痕のように残っている、

昨年の夏のあの日とは少し違って

食い荒らすように飲み込むのではなく

もう少しゆっくりと

優しく粘膜を辿るように

唇と舌を吸い込みました。

 

息をすることができずに

苦しんでいたレイラは、

髪の毛と頬を握った公爵の力が

しばらく緩んだ隙を狙って

首を捻りました。

激しく息をすると、

ミントと入り混じった

獣の血の匂いがして来ました。

レイラは身震いして

唇を噛み締めましたが、

公爵は素直に諦めませんでした。

 

彼は、微かに笑みを浮かべながら

フィービーの命の値段が

この程度なのかと、

ふざけた言い方で尋ねました。

しかし、レイラには、

その言葉の真意を見極めるだけの

余裕が残っていませんでした。

 

全身の血が凍りつくような気分に

包まれたレイラは、

溢れ出る苦しい息に耐えられず、

固く閉ざしていた唇が

再び開いたのも分からないまま。

ただ、じっと

公爵を見つめるだけでした。

じっとレイラを見つめていた

マティアスは、

切羽詰った状態で飛びかかり、

潰すように顎を強く握って

唇を開けた後、

再び舌を押し込みました。

 

むしろ、レイラは、

髪の毛と顔をつかまれるような

痛みを望みましたが、

しっかりと絡まった舌は

あまりにもゆっくりと

執拗な動きを続けました。

それは、ビル·レマーが

さらに何度も気合を入れて

薪を割る間続きました。

 

マティアスが舌を吸い込むたびに

レイラは、喉の奥から

引っ掻かれたような呻き声を

上げなければなりませんでした。

それが、あまりに恐ろしくて

体が意識のコントロールから

外れていました。

 

結局、これ以上力を入れられなくなった

レイラの手が、彼の肩の上に

力なく垂れ下がりました。

うめき声の間に、

すすり泣きが混ざり合う頃になって、

マティアスは、

ようやくレイラを手放しました。

 

今や濃くなった闇の中でも

びしょぬれになった彼の唇が

光りました。

自分の姿も、

あまり変わらないと思うと、

レイラは、このまま

座り込んでしまいたくなりました。

 

冷たい水を持って来てくれないかと

レイラを呼ぶビルおじさんの声が、

魂が抜けていたレイラを

目覚めさせました。

 

早く返事をしなければならないのに

レイラが途方に暮れていると、

マティアスはハンカチで

ゆっくりと唇を拭きました。

そして、依然としてつかんでいる

レイラの顔を引き寄せて、

彼女の濡れた唇も拭いてあげました。

窓枠の向こうに投げておいた

眼鏡までかけてあげた後、

彼はようやくレイラを手放しました。

 

返事がないことを怪しいと思ったのか

薪を割る音が止まりました。

マティアスは、

ブルブル震えるレイラの手に

自分のハンカチを握らせながら

洗濯して持って来てと

ぼそぼそ命令しました。

そして、軽やかに、あまりにも平然と

馬の背中に乗りました。

 

もしかして、何かあったのかと、

家の中の床を

ドンドンと鳴らしながら近づいて来る

ビル叔父さんの足音が聞こえ始めると

レイラは急いで窓を閉め、

カーテンまでしっかりと閉めました。

 

急いで駆けつけてドアを開けると、

その前に立ちはだかった

ビル・レマーが見えました。

 

レイラは、

少し眠っていたと言い訳をして

謝ると、公爵が解いて乱した髪を

急いで整えました。

 

ビルが、

また何かあったのかと思ったと

心配すると、

レイラは、すぐに夕食の準備をすると

返事をしました。

 

ビルは、ほっとしたように微笑むと

そんなに急ぐ必要はない。

ゆっくりやってと言って、

仕事を片付けるために

再び庭に出ました。

 

玄関のドアが閉まる音が聞こえると、

レイラは思わず全身の力が抜けて

その場に座り込んでしまいました。

公爵が握らせた、ハンカチがひらひら、

床の上に落ちました。

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マティアスがフィービーを

撃たなかった。

しかも、他の人たちに

撃たれないようにもしてくれた。

それだけで、レイラは

マティアスに対する感謝の気持ちで

いっぱいのはずなのに、

約束を守ったことを

恩とは言えないと言うのは

どうかと思います。

すぐに恩返しを要求するなんて

マティアスは性急すぎます。

 

マティアスは、狩猟の後、

はやる気持ちを我慢して

すぐにレイラを訪ねることをせず

彼女が自らお礼に来るまで

待てば良かったのにと思います。

そうすれば、レイラの中で、

マティアスへの感謝の気持ちが、

どんどん膨らんでいき、彼に対して、

そっけない態度を取ることなく

心からの笑顔を

見せてくれたのではないかと

思います。

今回のようなことがあれば、

レイラは、マティアスに対して

恐怖心ばかり覚えると思います。

 

恋どころか、

ごく一般的な人間同士の付き合い方も

分かっていないマティアスと

恋に奥手のレイラの仲が、

今後、どのように進展していくのか

全く、検討がつきません。

****************************************

aputa様

初めてのコメントを

ありがとうございます。

 

ぴろろん様、air0113様、DUNE様

ぺこちゃん様、

メロンパンナちゃん様

いつも、たくさんのコメントを

ありがとうございます。

 

こちらのコメント欄も

少しずつ盛り上がって来て

嬉しいです。

お忙しい中、コメントするために

お時間を割いていただき

本当にありがとうございます。

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