978話 外伝87話 百花は何か気づかれたのかと考えています。
◇防御的な会話◇
翌日、 百花は、
プレラに渡すプレゼントを持って
ラナムンを訪ねました。
元々、彼は、月に1、2回、
ラナムンを訪問していたので
ラナムンとカルドンは、
百花が訪ねて来ても
不思議に思いませんでした。
百花はプレラに
プレゼントを渡しながら、
なぜ最近、
演武場に遊びに来ないのか。
以前は、クレリスと一緒に遊びに来て
かくれんぼをしたり
鬼ごっこをしたりしたのにと
からかいました。
プレラは、鷲の形をした
おもちゃを抱えながら、
不機嫌そうに首を横に振ると
どこも歩き回りたくない。
このごろ、自分は
とても心が痛くてたまらないと
真剣に答えましたが、
百花は大笑いしました。
自分は深刻なんだと
プレラは再び強く言いましたが、
百花は笑い続けました。
プレラは怒って、
おもちゃを抱えて出て行きました。
扉がバタンと音を立てて閉まると
カルドンは
運んで来たコーヒーカップを
百花の前に置きながら、
プレラはロルド家の令嬢と
喧嘩した後、
随分、気落ちしている。
そんなに気を悪くしないで欲しいと
謝ると、百花は「もちろんです」と
冷静に答えました。
カルドンは安心して部屋を出ました。
ラナムンと二人きりになってからも
百花は、
あれこれ違う話を持ち出すだけで
すぐに本音を見せませんでした。
しばらくして、
ラナムンが少し疲れた様子を見せると
ようやく百花は
プレラ皇女のことが
うまく解決されて良かった。
けれども、ラナムンが、
あまり嬉しそうに見えないのは
心配事があるからだろうか。
大丈夫かと尋ねました。
ラナムンは、
別に心配事はないと否定しましたが
百花は、ラナムンの見た目が、
むしろ以前より、
沈んでいるように見えると
指摘しました。
ラナムンは、
避妊薬と偽の証拠の話を
したくないので、
わざと時計を見ると、
少し疲れた。
プレラが昼食を取る時間も
近づいているので、
そろそろ帰って欲しいと言って
先にソファーから立ち上がりました。
仕方なく百花も立ち上がりました。
彼はラナムンと握手を交わしながら
ずっと、ラナムンは
防御的に話をしていた。
やはり何かあったと考えました。
◇皇帝には言えない◇
2日後。 アトラクシー公爵が
ラナムンを訪ねました。
ラナムンはカルドンだけを残して
他の人たちを全員、外に出した後
偽の証拠が完成したのかと
尋ねました。
アトラクシー公爵は頷きました。
カルドンは怖くて
息も、ろくにできませんでした。
カルドンは、
それを使って・・・
と言いかけましたが、
アトラクシー公爵は、
まだ、様子を見守るといって
カルドンの言葉を遮ると、
疲れ果てた様子で
ソファーに座りました。
そして、ラナムンに、
誰が避妊薬を使ったのか調べたのかと
尋ねました。
ラナムンは、この数日間、
自分があちこち歩き回りながら
調査した内容を
アトラクシー公爵に聞かせました。
ラナムンがミスをして
何か所か省いた部分は
カルドンが補足して説明しました。
話を聞き終えたアトラクシー公爵は
じっくり考え込んだ表情で
しばらく沈黙しました。
ラナムンは、
訳もなくティースプーンで
コーヒーカップだけをかき回し、
父親の考えを邪魔しませんでした。
どれだけ時間が経ったのか。
意外にもアトラクシー公爵は
避妊薬を使ったのは百花のようだと
突拍子もない人を指摘しました。
ラナムンは、
手を止めて顔を上げました。
アトラクシー公爵は眉をしかめ、
依然として
深刻な表情をしていました。
冗談を言っている様子では
ありませんでした。
ラナムンは、
なぜ、突然、彼を指摘するのかと
尋ねると、アトラクシー公爵は、
突然、彼が訪ねて来たからと
答えました。
カルドンは、
元々、百花は、月に1、2回、
突然、やって来るので、
ただの偶然ではないかと
顔色を窺いながら口を挟みました。
しかし、アトラクシー公爵は
それを否定し、ラナムンに、
彼との話を、
よく思い出してみるように。
百花は、
ラナムンが何かに気づいたことを
察して、どこまで分かったのか
調べに来たんだと話しました。
ラナムンは百花と交わした話を
一つ一つ振り返ってみて、
アトラクシー公爵の言葉が
正しいということに気づきました。
顔が真っ青になったカルドンは、
聖騎士団長でありながら、百花は
側室たちに避妊薬を使ったのか。
それが聖騎士のすることかと
非難しました。
アトラクシー公爵は鼻で笑い、
ハーレムに定着して暮らす聖騎士が
普通の聖騎士たちと考えることが
同じだろうかと返事をしました。
それはそうだと、カルドンは
あっという間に頷きました。
ラナムンはアトラクシー公爵に
もし百花が犯人なら、
ゲスターの子供ができたのは
本当に偶然のようだと言いました。
アトラクシー公爵は、
または、百花がしたことが
ゲスターに
通じなかったかのではないかと
返事をしました。
ラナムンは、
百花が犯人だと、皇帝に
知らせるべきかと尋ねましたが
自分で質問をしておいて、
それでいいかどうか分からないと
答えました。
アトラクシー公爵も同意し、
聖職者のくせに、
百花がラナムンに薬を使ったことに
とても腹が立つと怒りましたが
このことを、
皇帝に話していいかどうか
分からないと言いました。
カルドンが理解できずに
ぼんやりしていると、
アトラクシー公爵は舌打ちし、
皇帝はロードで、百花は聖騎士団長。
彼と大神官が皇帝のそばにいるから、
皇帝がロードでも、人々は、
皇帝が伝説の怪物であるロードとは
違うと考える。
ところが、皇帝が百花を追い出したり
遠ざけたりしたら、どうなるか。
事情を知っている
自分たちのような人々は
皇帝を理解する。
しかし、知らない人たちは、
皇帝の意図を誤解しやすいと
説明してやりました。
カルドンが納得すると、
アトラクシー公爵は、
ラナムンのそばで過ごしている
カルドンも、頭をキビキビ
動かさなければならないと
忠告しました。
カルドンは頭を叩いて頷きました。
ラナムンは、ため息をつくと、
本当に困ったことになった。
それに大神官には子供がいないので
百花が攻撃されれば、
何も知らない大神官も一緒に
被害を受けることになる。
大神官を攻撃して
自分たちが得る利益は一つもないと
こぼしました。
カルドンも、大神官に関しては
何も言えませんでした。
大神官は、
ラナムンやプレラが怪我をした時、
何も言わずに現れて
彼らを助けてくれたので、
良心のある人なら、大神官のことを
悪く言うことはできませんでした。
窓越しに、子供たちが
わいわい走りながら
いたずらをして遊ぶ声が
聞こえて来ました。
ハラビーの事件があったけれど、
子供たちは、心配事もなく
楽しそうでした。
反対に部屋の中の3人は
簡単に口を開くことが
できませんでした。
百花のしたことには腹が立つけれど
それを明らかにしようとすると
大神官のことが気になりました。
ほとんど帰る時間になった頃、
アトラクシー公爵は、
「こうしよう」と口を開きました。
◇百花との取引◇
怪物たちを閉じ込めた監獄で、
百花が聖騎士たちの報告を
受けていた時、
部下の一人が駆けつけて来て
目で扉を指しながら、
ラナムンが百花に会いに来たと
告げました。
百花は、数日前、ラナムンが
魂が抜けたように
歩き回っていたのを思い出し、
口元を歪めました。
あれ以降、成果があったのだろうか。
それで訪ねて来たのだろうかと
考えました。
百花は、
ラナムンを応接室に案内するよう
指示すると、
最後まで報告を受けた後、
いくつか指示を終えて
応接室に歩いて行きました。
中に入ってみると、ラナムンは
聖騎士たちが持って来た
コーヒーカップに手もつけずに
背筋を伸ばして座っていました。
百花は、ラナムンが
自分のしたことについて
確かに知っていると確信しました。
百花は静かに微笑みながら
ラナムンの向かい側に座り、
何の用で、ここまで来たのかと
尋ねました。
ラナムンは、
聖水に避妊薬を混ぜるなんて
聖騎士が、
そんなことをしても良いのかと
単刀直入に話しました。
百花は眉をつり上げました。
自分が避妊薬を使ったことを
ラナムンが知って、
ここへ来たということは
推測していたけれど、
ここまで知っているとは
思いませんでした。
百花が、
副作用がないなら、いいではないかと
堂々と開き直ると、
冷淡だったラナムンの表情が
蠢きました。
まともな人なら、
最初からそんなことを
しなかっただろうけれど、
百花が、ここまで
厚かましく出てくるとは
思いませんでした。
百花が聖水に
避妊薬を入れたのだろうと
アトラクシー公爵が推測をした時
ラナムンは、
簡単に信じませんでした。
性格が良くないように見えるけれど
聖騎士だからでした。
ところが、いざ百花本人が
あのように堂々と振る舞うと、
ラナムンは呆れて
言葉が出ないほどでした。
百花は、ため息をつくと、
保安のための聖水なので、
黒魔術師でも、
部屋のどこかに置くと思ったのに
まさか最初から使わなかったとは
思わなかったと呟きました。
ラナムンは
とても厚かましいと言いました。
百花は、
「黒魔術師が?」と尋ねました。
ラナムンは「あなたが」と答え
自分も何年間か、百花の避妊薬に
影響を受けたはずなのに
全く、自分の顔色を窺わないのかと
尋ねました。
百花は、
3人目も欲しかったのかと尋ね
欲張りだいう表情で笑うと、
ラナムンは彼の顔に
コーヒーをかけたくなりました。
大神官が間に挟まっていなければ、
ラナムンはアトラクシー公爵が
何を言ったとしても、
百花が避妊薬を使ったことを
皇帝にすぐに話していました。
彼は、いつも明るく走り回っている
大神官と、
ゲスターの誇らしげな顔を
思い浮かべながら
無理矢理、怒りを抑えました。
ラナムンは、
自分がここに来た理由が分かるかと
尋ねました。
百花は、
脅迫をしに来たわけではなさそうだと
答えるとは、ラナムンは
提案をしに来たと告げました。
百花は頷くと、
ラナムンが飲んでいない
コーヒーカップを持って来て
自分の前に置き、
話してみるようにと促しました。
ラナムンは、
証拠は残っているかと尋ねました。
百花は、
分かっていると思うけれど、
残っていても渡さないと答えました。
ラナムンは、
百花がしたことを、
ゲスターがしたことに変えようと
提案すると、
コーヒーカップを唇の近くに
持って行った百花の手が
途中で止まりました。
百花はラナムンを見ました。
彼の冷たい表情は、この瞬間も
普段と変わりませんでした。
百花は笑い出し、
どうして、そんな提案をするのか。
あの黒魔術師が子供を持つのが
嫌だからなのかと尋ねました。
ラナムンが黙っていると、
百花は、
もちろん自分は
喜んで手を握るつもりだ。
自分は黒魔術師が嫌いだ。
以前、あの黒魔術師のせいで
自分の計画が
台無しになったこともある。
しかし、ラナムンとゲスターは、
そんなに仲が悪くは見えなかったので
気になって聞いてみたと
告げました。
ラナムンは、
最近の出来事を見れば、
そんなことは言えないだろうと
返事をしました。
百花は、
ゲスターがロルド家の令嬢ではなく
プレラ皇女の味方をしなかったかと
尋ねました。
しかし、ラナムンは
自分とゲスターの悪縁について
いちいち説明しませんでした。
その後、2人は
証拠の品を交換する方法と
それをゲスターに
押し付ける方法などについて
話を交わしました。
2人とも、互いに相手を
信じませんでしたが、
少し手を、一度握るだけなので、
信頼までは必要ありませんでした。
◇呼び出されたゲスター◇
ラナムンと百花が
手を組んだことを知らないゲスターは
数日間、新しい世界に
夢中になっていました。
おまけに、彼は、いつもの倍は
寛大になっていました。
1、2、3、4、5が小さかった時に
もう少し詳しく
観察しておけばよかった。
そうすれば、赤ちゃんに
何を準備しておけばいいか、
もっと詳しく分かったはずなのにと
呟くと、ゲスターは、
ギルゴールが持って来た茶碗を
受け取りましたが、
茶から血の匂いがしたので
眉を顰めてギルゴールを見て、
自分は血を飲まないと言いました。
ギルゴールは、
ゲスターとお嬢さんの子供は
誰に似るだろうかと尋ねると
ゲスターは、
誰に似ても関係ない。
世の中で一番完璧な
赤ちゃんだろうからと答えると
ゲスターは微笑み、
ギルゴールの菜園に埋もれている
頭の形の花々を見ました。
ゲスターは、
赤ちゃんにあげるおもちゃは
もう少し気を使って可愛く作る。
あんなに醜い外観にはしないと
言うと、ギルゴールは
あれが醜いのかと尋ねました。
しかし、ゲスターは返事をせず
頬を染めると、再び
一人だけの想像に陥りました。
ギルゴールは、
頭の形の花とゲスターを交互に見て
眉を上げると、
ゲスターがそんなに笑っていると
妙に気分が悪い。もう消えろと
喧嘩するように話していた時、
ザイオールが差し迫った様子で
温室に飛び込んで来て、
皇帝の秘書が、
今、ゲスターを迎えに来ている。
かなり表情がよくないと伝えました。
アトラクシー公爵の
登場するシーンは
ロルド宰相と喧嘩していることが
多いので、
今回のように賢さを発揮する
シーンが、
もって出てくれば良いのにと思います。
ラナムンも、父親を見直したかも。
ラナムンが知っていることでも
知らないことでも、
彼は、ゲスターとロルド宰相に
酷い目に遭わされて来ました。
それでも、ラナムンは
ゲスターへの復讐を考えたことは
なかったかもしれませんが、
守る子供ができた父は強し。
ゲスターを陥れようとするなんて
お話の最初の頃のラナムンからは
想像できませんでした。
でも相手がゲスターなので、
この先、どうなるか心配です。
ラナムンとプレラが
仲睦まじくしている姿を
マンガで見たいと思うのですが
現在、マンガの185話が
原作の211話辺り。
そしてマンガの連載開始から
4年以上経っているので、
この調子で行くと、
マンガの連載が終わるまで
概算で15年はかかるのではないかと
思います。
それまで生きていられるかどうか
心配です。