Quantcast
Channel: 自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き
Viewing all articles
Browse latest Browse all 489

泣いてみろ、乞うてもいい 60話 ネタバレ 先読み 原作 あらすじ 見慣れない目

$
0
0

 

60話 レイラはマティアスの寝室へ連れて行かれました。

 

ふかふかのベッドに背中が当たると

レイラは、ここがどこで、

何が起きようとしているのかを

悟りました。

レイラは、「嫌だ、退いて」と、

怪我をした体の痛みも忘れて

もがきました。

滅多に使わないので、

いつもピンと張られた

離れの寝室の真っ白なシーツが

一瞬にして、しわくちゃになりました。

 

マティアスは、じっとしていろと言って

レイラの腕をつかみました。

怪我をした腕だったのか、

レイラは鋭い悲鳴を上げました。

マティアスは、

反射的に眉を顰めました。

 

握っていた腕を離すと、

レイラは素早く体を捻りました。

そのため、

ベッドの下に落ちそうになった

レイラを、

マティアスは素早く引き寄せました。

それに気づいたレイラは、

再び、もがき始めました。

「放して!」と叫ぶレイラに、

マティアスは、

むやみに動くと痛みが大きくなると

忠告しました。

しかし、レイラは「嫌です!」と叫び

彼を押しやりました。

 

その頑強な拒絶の仕草と悲鳴が

マティアスの神経を

深く傷つけました。

そのためなのか。

彼の忌まわしい従兄、

リエット・フォン・リンドマンへ

向けられるべきだった怒りが

胸に抱いているこの女に向かって

噴き出しました。

 

マティアスが、

しばらく息を整えている間、

レイラは、何とか

彼の胸から逃げ出しました。

乱れたベッドのシーツの上を

這いずって逃げていくレイラを

見下ろしていたマティアスは

ため息のような嘲笑を漏らしました。

 

マティアスは、怪我をした彼女の体が

心配なだけでした。

ある面で、

病的に愚かで潔癖なこの女は、

あの事故と怪我について

決してビル・レマーに

話していないだろう。

それが気になって、

薬を持って離れに来た自分の姿と、

どうにかして、あの女を呼び出すために

情けないことを伝える手紙を書き、

それを結んだ鳩を飛ばした自分の姿が

逃げるレイラの背中の上に

浮かび上がりました。

 

マティアスが再び失笑している間に

レイラは、ベッドの端まで

這って行きました。

しかし、その瞬間、

体が宙に浮きました。

悲鳴を上げる間もなく

起こったことでした。

 

レイラは、

どうか、やめて欲しいと懇願し、

逃れようとして、

必死で手足をバタバタさせてみましたが

無駄でした。

マティアスはレイラの腰の上に座り、

両腕をベッドの上に押し付けました。

 

生きたままピンが刺さった蝶のように

弱々しくバタバタしていたレイラは

すぐに恐ろしい無力感に捕らわれて

泣き始めました。

 

レイラは、

「痛いです。痛過ぎる・・・」と

訴えました。

嘘ではなく、

全身が麻痺したような恐怖の中でも、

背中と肩の痛みは、

ますます生々しくなりました。

そして、

自分はとても具合が悪いと言うと

涙で歪んだ視界に映る

公爵の顔を見つめながら

さらに悲しそうに泣きました。

まるでその姿を鑑賞するかのように、

公爵は微動だにせず

レイラを見下ろしていました。

 

マティアスは、少し首を傾げて

リエットに触れられたのかと

低い声で尋ねました。

無我夢中で、すすり泣いている中でも、

レイラは、本能的に

首を横に振りました。

あんなことを言ったリンドマン侯爵が

嫌いだけれど、この男が、

それを知ってはいけないと思いました。

 

レイラは、

そうではない。 突然近づいて来て、

声をかけられたので、

それが怖くて逃げた。

ただ、それだけだと、

泣き声の合間を縫うように続く

レイラの言葉に、マティアスは

静かに耳を傾けました。

 

落ち着いたかと思ったら、

いつの間にか、また泣きじゃくるを

繰り返していたレイラは、

ある瞬間、静かになりました。

へとへとになり、呆然とした顔が

涙に濡れて輝きました。

 

レイラの腕を握りしめて

押さえ付けていたマティアスの手は

いつのまにか、

小さな手に触れていました。

 

マティアスはレイラに

動かないでと命じると、

自分の指をレイラの指に絡めました。

ぐったりしていたレイラの体が

ビクッとして、固まりました。

マティアスは、

もう少し深く頭を下げて、

痛くはしないと囁きました。

 

レイラは、依然として自分の上に

乗っている男と、その男に、

しっかり束縛されている自分と、

二人だけしかいない

この人里離れた森の中の、

川のほとりの離れのことを

次々と考えました。

 

もしも公爵を押し除けて、

素早く、あの扉の外に逃げたら。

 

しかし、そのつまらない想像は、

さらに大きな絶望を

抱かせるだけでした。

 

レイラは、

馬鹿みたいだと分かっていながら、

「本当ですか?」と

切実に尋ねました。

今、レイラが見つけられる

唯一の希望は、滑稽だけれど

公爵でした。

正確には、完璧に手中に入れても

ただ見守るだけという、

この男が持つ最低限の好意でした。

 

快く答えないマティアスの顔を

レイラは切実な目で見つめました。

泣き止んだけれど、

依然として、濡れている睫毛が

ブルブル震えました。

 

鑑賞するかのように、

その顔を見下ろしていたマティアスは

しばらくして、頷きました。

レイラは安堵したように、

微かなため息をつきました。

 

マティアスは、

レイラから手を離すと、

ジャケットのポケットに

押し込んでおいたハンカチを

取り出しました。

 

レイラは、

両腕が自由になりましたが、

微動だにしませんでした。

ただ、約束を思い出させようと

努力するように、

必死に彼を見つめ続けました。

 

マティアスは、

涙でぐちゃぐちゃになった

レイラの顔を、

ハンカチでゆっくりと拭きました。

驚いたレイラが、

顔を背けようとしましたが、

彼は片手で彼女の顎をつかみ、

自分を見つめさせました。

エメラルド色の瞳は、

濡れると美しさが増しました。

 

マティアスは、

レイラの額の冷や汗を拭うと

ようやく体を起こしました。

死んだように横になり、

その手に耐えていたレイラは、

彼の動きに合わせて

慎重に視線を移しました。

 

ベッドから降りると、マティアスは

テーブルの上に置かれていた

薬品の箱を持って来て、ベッドに座り、

傷を見せるよう促しました。

 

依然としてレイラは、

その姿勢のまま横たわり、

首を横に振ると、

大丈夫。怪我はしていないと

返事をしました。

しかし、

レイラが痛がっていることを

マティアスが指摘すると、

レイラは言葉を濁して、

目を逸らしました。

 

再び目を向けさせる代わりに、

マティアスは、

ブラウスの袖のボタンを外しました。

袖が一気に肘の上まで上がると、

レイラは怯えて、もがきました。

 

マティアスは腕ではないと言うと

膝の上まで上がっているスカートの裾を

今にも持ち上げそうな勢いで

握りました。

 

自分を裸にしてでも

傷を捜し出す勢いの公爵に

血の気が引いたレイラは、

背中が痛いと慌てて叫びました。

そして、肩と背中を、

少し怪我したけれど、治療は・・・と

呟くと、

マティアスはスカートを放して

「脱げ」と命令しました。

レイラは飛び上がるように

体を起こして座りました。

理解したくない言葉を

否定するかのように

首を横に振りましたが、

マティアスは、

意志を曲げる気はなさそうでした。

 

彼は目を細めてレイラを見て、

指の先で箱の端を軽く叩くと、

自分が見るのが嫌なら医者を呼ぶ。

エトマン博士のことだと告げました。

 

その名前にレイラは首を振りました。

この夜、こんな姿で

公爵のベッドの上に

投げ出されている姿を

カイルの父親に見せるより、

川に身を投げた方がマシだと

思いました。

 

マティアスは、

脱ぐか、エトマン博士に会うか

好きに選べと言いました。

今や彼の声は

慈愛に満ちているかのように

優しくなっていました。

結局、一つしかない選択肢を前にして

レイラは、長い間、黙っていました。

多少、退屈な時間でしたが、

マティアスは喜んで待ちました。

すでに泣きそうになっているのに

絶対に泣かないと

意地を張っているかのように

力の入った目。

そして、

自分を疑って恐れているのと同時に

信頼して哀願している美しい目で

自分を見るのが良いと思いました。

 

ギュッと閉じた目を開いたレイラは

ようやく「約束・・・」と呟きました。

口から出せる言葉は、

その一つの単語がすべてでした。

 

公爵は、どんなことをしてでも

自分の望みをかなえることを、

レイラは、

あまりにもよく知っていました。

今までそうだったように、

結局、今もそうなる。

無駄な抵抗と拒否を続けても、

あの男に

耐えなければならない時間だけが

長くなるだけ。

もしかしたら最悪の状況に

陥るかもしれない。

 

このように無力な自分の身の上に

あまりにも呆れて、レイラは、

結局、再び泣き出しました。

静かに流れた涙がブラウスの前立てを

濡らしました。

マティアスは、依然として

その姿のまま座って

レイラを見守っていました。

 

自分が泣いているので、

あなたは、また楽しいのだろう。

レイラは唇を噛み締め、すすり泣き

彼に背を向けて座りました。

ボタンを一つずつ外していくうちに

涙の滴は、さらに熱くなり、

大きくなりました。

それを、あの男に見せないのが

最後のプライドであるかのように、

レイラは頑なに頭を下げたまま

ブラウスを脱ぎました。

 

滑らかな生地が、

それよりも滑らかな肌に沿って

流れたのは、束の間のことでした。

しかし、マティアスの意識の中では、

正常な時間の流れから外れたように

その場面がゆっくりと流れました。

そのためか、

目に入ったすべてのものが

あまりにも鮮明に脳裏に刻まれました。

 

力を入れると折れそうな細い首と肩。

柔らかなラインの背中。

そして、その白くて

か弱い体いっぱいに刻まれた青い痣。

 

しばらく、マティアスは、

その腫れて痣だらけの背中を

ただ眺めていました。

痛いと言って、

子供のように泣いたのも

無理はありませんでした。

真っ白な肌を汚した

染みのような痣は、

肩甲骨から腰まで続いていました。

 

乾いた唾を飲み込む

マティアスの喉が

ゆっくりと蠢きました。

このような状態で飛び起きて

自転車に乗って逃げたレイラに

驚くばかりか、

情けないとさえ思いました。

このままにしていたら、

彼女の胸の奥にだけ隠しておくわけには

いかなかっただろうと思いました。

 

考えがそこまで及ぶと、

一見怒りのような何かが

湧き起こることもありましたが

それを消すように、

マティアスは痣だらけの背中に

手を伸ばしました。

触れるだけで痛いのか、

レイラは悲鳴を上げながら

身を縮めました。

 

マティアスは、

痛みがひどくなったら言えと言うと

怪我の程度を確認するかのように

骨と筋肉を

丹念に触って行きました。

時折、レイラがうめき声を上げると

手を止めて待つこともありました。

 

幸い肩と腕を動かすのに問題がなく

肋骨と脊椎も

損傷していないようでした。

その事実を確認すると、

マティアスの眉間から、

しわが消えました。

 

マティアスは

レイラを呼ぼうとしましたが

痣だらけの肩先を包み込みました。

レイラは、まだ深く頭を下げたまま

震えていました。

 

マティアスは、

怯えた幼い獣をあやすように、

じっと傷ついた女性の体を撫でました。

きちんと食べているのかと思うほど

細い体なのに、手に触れる感触は

とても柔らかで滑らかでした。

改めて、本当に小さい女だと思うと

低いため息が漏れました。

 

マティアスが名前を呼ぶと、

レイラは、

ビクッとして顔を上げました。

その時、暖炉のマントルピースの上に

掛けられている大きな金の鏡に

自分の姿が映っていることに気づき

途方にくれました。

そして、羞恥心と自責の念が消える前に

その鏡の中で公爵と目が合いました。

何度も見た、その青い目が

ふと見慣れない感じがして、

怯えて震えながらも、

その目を避けませんでした。

 

なぜだろう。

レイラは、疑問を投げかけるように

鏡に映ったマティアスの

無垢で澄んだ眼差しを見ました。

 

マティアスは、自嘲気味に嘆きながら

痣ができた肩の上に視線を移しました。

熱くなった息で唇が乾きました。

再び視線を上げて

鏡の中のレイラに向き合ってから、

マティアスは、自分が先に

目を逸らした事実を知りました。

レイラ・ルウェリンを知ってからの

長い間、

一度もなかったことでした。

 

畜生。

罵詈雑言が飛び出しそうでしだが

依然として息遣いは熱いままでした。

マティアスは、

再びため息をつきそうな口を下ろし、

変な気分に背を向けるように、

傷をいたわろうとするように

レイラの肩にキスをしました。

 

いずれにしても、

彼らしくないことでしたが、

どうでも良いと思いました。

 

何とかして体を離そうと

もがくレイラの耳元に、

マティアスは、

大丈夫だと、そっと囁きました。

いつもより低く沈んでいるけれど

微かな熱気がにじみ出る、その声さえ

なじみの薄いものでした。

 

レイラは

これ以上鏡を見ることができず、

慌てて目を下ろしました。

すると、何も纏っていない

腰を包んだ大きな手が見えました。

何とかして、

その手を離そうと努めましたが

無駄でした。

マティアスは、

レイラの手までしっかりと握ったまま

慎重に口を合わせ続けました。

 

レイラは、目をギュッと閉じました。

ズキズキする傷の上に触れる

公爵の唇と息遣いは、

まるで羽毛のように柔らかでした。

f:id:myuieri:20210206060839j:plain

f:id:myuieri:20210206071517p:plain

今まで、マティアスは上から目線で

レイラを嘲ったり、バカにしたり、

非難したり、理解できなかったり、

呆れたような目で

見ていたように思います。

けれども、

レイラが車にぶつかった後、

他の人の前では

ポーカーフェイスだったけれど

本当は、とても心配で心配で、

レイラが無事かどうか

確かめずにはいられなかった。

そして、レイラの体を見たところ

想像以上に、傷が痛々しかったので

レイラに対して哀れな気持ちが

一気に湧いて来たのではないかと

思います。

それと同時に、

レイラの体を見て、触れたことで、

彼女のことが、愛しくて

たまらなくなったのではないかと

思います。

マティアス自身にとっても

馴染みのない気持ちに

罵倒したくなったけれど、

結局、自分の気持ちに

素直に行動したのではないかと

思います。

f:id:myuieri:20210206060839j:plain

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 489

Trending Articles