61話 ビョルンはエルナを抱きしめました。
ビョルンは、自分について
狂人のようだと、
比較的、客観的な評価をしました。
女を初めて知ったばかりのように
暴れている姿を、他に説明する方法は
なさそうだからでした。
こうするつもりはなかったのに、
こうなってしまった。
むやみに、
この女の中に入りたかった。
エルナを抱いた瞬間。
いや、もしかしたら
甘く名前を呼ぶその声を
聞いた瞬間からだったのかも。
まあ、いずれにせよ、
どちらでもいい。
雑念を消したビョルンは、
自嘲と欲望が入り混じった目で
揺れている女性を見下ろし、
柔らかい髪の毛を握った手に
力を込めました。
しきりに首を動かして、
視線を避けていたエルナは、
小さく悲鳴を上げながら
彼と向き合いました。
ビョルンは、
教わった通りに、
自分を見なければと言うと、
怯えている顔を見て、
力いっぱい腰を押し上げました。
エルナは、
彼の意のままに揺れながら
嬌声を上げました。
しかし、
確かに興奮している顔なのに、
眼差しが深く沈んでいました。
一体なぜ?
疑問を湛えたビョルンの目が
鋭くなりました。
服を脱ぐ余裕もなく
飛びかかった自分の姿が
滑稽なだけに、
今日に限って、
固くなっている妻に対する苛立ちも
高まっていました。
ため息をついたビョルンは、
しばらく体を離した後、
妻をうつ伏せに寝かせました。
エルナは、ぼんやりとした顔で
ビョルンを見て、名前を呼びました。
彼は返事もせずに、
妻の後ろに座りました。
その行動の意味に気づいたエルナが
急いで起き上がろうとした時、
ビョルンは、
すでに彼女の中にいました。
しばらく息を整えていたビョルンは
欲望の限り動き出しました。
どうせ獣のように
飛びかかっているのに、
改めて体面を保とうとするのも
滑稽なことでした。
腰を押し上げる度に、
エルナは、
もう堪えきれない呻き声を上げて
揺れました。
ビョルンは、それが気に入りました。
腰を押し上げる度に揺れ動く
白い体と髪の毛を見下ろす
ビョルンの目に、
次第に満足感がこもり始めました。
この女の上に重なって見えた
グレディスが忘れられ、
どうしても、
振り放すことのできなかった
ごちゃごちゃした気持ちが
きれいに消え、残ったのは、
目の前にいる女が与える
充溢感だけでした。
一番奥まで押し込んだビョルンは、
しばらく動きを止めたまま、
もっと、いやらしく声を上げてみてと
命令しました。
エルナは、
激しく首を横に振りましたが、
それほど大きな効果がある
抵抗ではありませんでした。
エルナは、
そんなことはできない。
嫌ですと訴えましたが、
ビョルンは、
そんなはずがないと答えました。
激しい腕力に勝てず、
しきりに崩れるエルナを
しっかりと抱いたビョルンは、
首筋を噛みちぎるように
口を合わせながら
スピードを上げていきました。
今やエルナのうめき声は、
泣き声とははっきり違う水気で
いっぱいになり始めました。
だらりと垂れ下がった細い体を
引き寄せて抱いた彼は、
上手ではないかと、
良い子を褒めるように
優しく囁きました。
エルナは、まだ震えていましたが、
それは、もう気になりませんでした。
ビョルンは、
やや、サディスティックな欲望に
駆られて動き始めました。
エルナは力なく揺れながらも
着実に中を締め付けて来ました。
興奮に勝てなくなったビョルンは
低いうめき声を上げました。
もうこれ以上、
声を出せないような気がした瞬間
エルナは、金切り声の混じった
鋭い悲鳴を上げました。
ビョルンは身を屈め、
意地悪ないたずらをしていた時とは
全く違い、
獲物の息の根を止めるように
首筋を噛みました。
エルナは、
苦しそうにシーツを掴みました。
エルナは、その痛みと、
背中に触れる服の感触と
荒い息づかい。
自分の意志を裏切る体の感覚が
なんとなく気に障りました。
しかし、
それ以上に心を苦しめているのは
自分自身でした。
帰って来たビョルンを見て、
子供のように喜んでしまい、
話したいことが、たくさんあり
こんな瞬間にも、
この男を憎めない
愚かなエルナ・デナイスタでした。
むやみに吐き出す他人の言葉に
振り回される必要はないし、
こんなことになるとは知らずに
選んだ結婚ではないことを
分かっていました。
そして、この新婚旅行が
単なる新婚旅行だけではなく、
グレディス王女の国では、
自分は見えない影に
ならなければならないことも
すでに覚悟していました。
だから大丈夫。
大丈夫でなければいけないのに。
エルナは喉元にこみ上げて来た
泣き声を堪えながら目を閉じました。
お前は、きっとうまくやれると言う
祖母の優しい声が浮かんで来ました。
深夜、大海原を眺めながら
強くなろうと誓ったことも
思い出してみました。
その間、
自分が刻みつけた歯形の上に
長く口を合わせていたビョルンが
エルナを仰向けにしました。
何か言おうとして唇を動かす
エルナを眺めながら、
ビョルンはタイを放り投げました。
そして、足首を握りしめ、
両足を大きく広げて
深く入り込みました。
ほとんどすべて抜き、
力いっぱい、また突き刺すと、
エルナは、すすり泣きに近い
うめき声を上げながら
腰を捻りました。
白い首筋と揺れる肩と胸には、
彼の歯形と赤い鬱血が
鮮明に刻まれていました。
エルナを見下ろすビョルンの口元に
満足げな笑みが広がりました。
私のストレートフラッシュ。
微かな酔いが混じった充溢感を
楽しみながら、
ビョルンは満足げに
自分の花嫁の方へ身を屈め、
汗で濡れた髪を
払ってあげようとしました。
ところが、
エルナは驚いて目を閉じました。
一瞬、すべての熱気が
冷めてしまうような気がするほど、
鮮明な恐怖が浮び上がった顔でした。
ビョルンはエルナの頬を撫でると
彼女は寒気でもしたかのように
震え始めました。
まるで、女に手を出す
犬畜生のような気分に襲われた瞬間
ビョルンは、
ふと嫌な名前を思い出しました。
ウォルター・ハルディ。
ベッドの上で、
決して思い出したくない顔が
雨が降りしきる夏の夜、
父親に殴られて
めちゃくちゃになった姿で
駅前広場に座り込んでいた
女性の記憶と重なりました。
ビョルンは、
少しぼんやりした顔で
怯えた妻を見ました。
あの男に対する新たな軽蔑と共に、
うんざりする自己恥辱感が
押し寄せて来ました。
まさか、
そんなことをした父親を見るように
今まで自分を見て来たのか。
しかし、エルナは大丈夫だと言って
起き上がろうとしていたビョルンの肩に
手を触れました。
エルナは、嫌ではない。
そういうことではない。
ただ、少し・・・・と言うと、
適当な言葉を見つけられず
慎重に手を上げて
ビョルンの頬を包み込みました。
普段とは違って、
非常に荒々しい彼と、
強い酒の匂いが呼び起こした恐怖に
しばらく襲われましたが、
だからといって、
ビョルンが嫌で怖いわけでは
決してありませんでした。
自分を
傷つける男ではないということを
よく知っているからでした。
エルナはビョルンを呼ぶと、
もう少し勇気を出して
彼の頭を撫でてみました。
ビョルンは眉を顰めて
エルナを見るだけで、
その手を振り払いませんでした。
エルナは勇気を出して、
もう少し、ゆっくり、
ほんの少しだけ、
ゆっくりしてもらえないかと
頼みました。
指先が、
まだ微かに震えていましたが、
酒に酔った父親に
殴られていた日の記憶は、
これ以上、エルナを
苦しめることができませんでした。
じっとエルナの目を見つめていた
ビョルンは、空笑いと共に
長いため息をつきました。
この状況が、 この女が。
何よりこの馬鹿げた瞬間が
そんなに嫌ではない自分が
馬鹿げていると思いました。
ビョルンは返事の代わりに
自分の頬に触れている
エルナの手を握り、手首の上に、
そっと口を合わせました。
海の向こうに置いてきた
ムカつくウォルター・ハルディ。
そして結婚市場に投げ込まれた
この女性に、
よだれを垂らしながら横行した
数多くの犬野郎。
その顔が思い浮かぶ瞬間にも、
依然として、欲望が
熱烈になることができるというのが
呆れるほどでした。
長いキスを終えたビョルンが
顔を上げると、
エルナはお礼を言って、
静かな笑みを浮かべました。
そして、ぎこちないけれど、
かなり大胆な仕草で、いきなり、
彼の首筋を抱き締めました。
そして、もう大丈夫だという
自分の覚悟を証明するかのように
彼を抱いた腕に力を加えました。
それから、エルナは無邪気な声で
「続けてください」と
挑発的な言葉を囁きました。
しばらく、
ぼんやりしていたビョルンは、
ため息をついて
笑ってしまいました。
酔うほど飲んでいない酒に
酔ってしまったようでした。
それほど、悪くはない気分でした。
焦って、
荒々しく始まったことは、
一層親密になった雰囲気の中で
終わりました。
ビョルンは、呼吸が落ち着いて
体が冷めるまで、
エルナの中に、そのまま留まりました。
ほんのりと赤い顔にキスをし、
乱れた髪の毛を
撫でてみたりもしました。
その度に、
エルナは恥ずかしがって
視線を避けました。
不埒な誘惑をしたくせに、
今になって淑女の真似をするなんて。
無知から来る妻の両面性が、
不埒だけれど、可愛いと思いました。
改めて恥ずかしがるエルナを
残したまま、ビョルンは
それくらいで起き上がりました。
するとエルナは、
いきなり彼を捕まえました。
ビョルンは、
自分の腕にぶら下がっている
小さな女性を見下ろしました。
「行かないで、ビョルン」と言う
エルナの目は震えていたけれど、
声は澄んで、はっきりしていました。
彼女は、
ここで、一緒に寝てくれないかと
頼みました。
また、その話。
ビョルンは、
大したことないというように笑うと、
駄々をこねる妻の頬にキスをし、
寝るようにと言いました。
しかし、エルナは、
一緒に寝ようと訴えました。
普段なら、この辺で
意地を張るのを止めるエルナが、
なぜか、なかなか引き下がる気配を
見せませんでした。
ビョルンはため息をつくと、
自分のシャツの裾を
両手でつかんでいるエルナに向かって
自分は他の誰かと一緒に寝るのは
不便だと言いました。
エルナは自分もだと答えました。
ビョルンは、
それならば、互いに、
楽な道を選べばいいと言いました。
しかし、エルナは、
自分たちは夫婦なので、
少し不便でも、
一緒にいるべきではないか。
結婚は二人が一緒に
茨の道を歩いていく旅だと
言うではないかと主張しました。
ビョルンは、
誰がそんな戯言を言うのかと
尋ねました。
エルナは、大司教様だと答えました。
今にも泣きそうな顔をしていても、
エルナは、しつこく
しがみついていました。
ビョルンは、
徐々にこみ上げてきた苛立ちも
一瞬、忘れて、
クスッと笑ってしまいました。
ビョルンは、
それは、一生、茨の道を
歩くことのない者の
もっともらしい詭弁だと
言い返しました。
しかし、エルナは、
大司教様も神様と結婚したと
慎重に、
でたらめなことを言いました。
ビョルンは、思わず言葉が詰まり、
短いため息をつきました。
自分のことではないと
よく戯言を言っていた大司教のベッドに
茨をぎっしり、
敷き詰めたい気分でした。
エルナは、
少しだけ努力してみようと
提案しました。
ビョルンは、
なぜ、そうしなければならないのかと
尋ねました。
エルナは、
あなたは私の夫だからと
待ってましたとばかりに答えました。
ビョルンは、
夫って一体何なのかと、
真剣に尋ねました。
しばらく考え込むかと思いきや、
エルナは、
家族であり、一番親しい友達であり
恋人でもあり、
一生を共にするパートナーであり、
頼りがいであり、
夢であり、希望であり、愛だと、
すらすらと答えました。
ビョルンは、
あの老人のベッドに、
茨を敷き詰めることを
本気で決意しながら、
それも大司教が言ったのかと
尋ねました。
エルナは否定し、
これは純粋な自分の見解だと
告げました。
宗教と王室の戦争に
発展するところだった
その決意は、幸いにも
エルナのすました返事のおかげで
失敗に終わりました。
それは、
少し宗教的な信仰ではないかと
聞き返そうとしましたが、
無垢な信頼がこもった
エルナの眼差しのせいで、
ビョルンは、
思わず笑ってしまいました。
しばらく天井を見上げて立っていた
ビョルンは、諦めた顔で
長いため息をつきました。
彼が怒ると思ったのか、
エルナはビクッとしましたが、
彼の腕をしっかりと握りしめて
離しませんでした。
ビョルンは、
一緒に寝るだけでは足りなくて
一緒にお風呂に入るつもりなのかと
尋ねました。
驚いたエルナは、
ようやく彼を放して、謝ると、
もう行ってと促しました。
ついに自分の意志を貫き通して
喜んでいる顔が、
薄暗い闇の中でも明るく輝きました。
かなり癪に触ってイライラしながらも
可愛くて呆れた女を
じっと見下ろしていたビョルンは
衝動的にエルナを抱きました。
得るものなしに与えるのは、
どうしても悔しいので、
彼も一つくらいは、
得をしてみるつもりでした。
その意図に気づいたエルナが
もがき始めましたが、
ビョルンは気にせず
浴室に向かいました。
茨の道が始まった秋の夜でした。
今回も赤面ものの激しい回でした(^^;)
エルナは、
メイドたちの陰口を聞いた後だったので
今回、ビョルンを受け入れることに
抵抗があったのではないかと思います。
けれども、彼に抗うことはできないし
たとえ夜だけでも、
ビョルンと一緒に過ごせることが
嬉しかったのだと思います。
しかし、事を終えた後、
ビョルンが去ってしまうと、
本当に、自分は、
そのためだけの存在だと思えて
悲しくて切なくなってしまう。
エルナは、
そのような気持ちを払拭するために、
今回は、一緒に寝て欲しいと
しつこくねだったのだと思います。
同じベッドで、
二人で朝を迎えてお茶を飲むことが
夫婦としての証のように
思えたのかもしれません。
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いつも、たくさんのコメントを
ありがとうございます。
DUNE様、パル様、キヨキヨ様
midy様、メロンパンナちゃん様
「妃殿下は本当に早い」という
リサの言葉の意味について、
一緒に、考えていただき
ありがとうございます。
皆様も同じ意見だったので
ほっとしました。
エルナは、
カレンやメイドたちの言葉に
かなり傷ついていると思いますが
DUNE様のおっしゃる通り、
無駄に騒いだり、
ブルブルメソメソしたり
しないのですよね。
その分、一人で
深刻に悩み、考え込んでしまうので、
余計に辛くなるのでしょうけれど。
それがエルナの良いところであり
損な性格でもあると思います。
さて、残すところ、
あと8話となりました(涙)
皆様からのコメントを楽しむ場が
なくなってしまうのは、
本当に残念で悲しいので、
皆様と、これからもお話をするため
Discordという
コミュニケーションツールに
コミュニティを作ることにしました。
https://www.sungrove.co.jp/discord/
最近、話題になった犯罪の容疑者が
Discordを使っていたと聞いて
ドキッとしましたが、
それは、基本、料金が無料で
匿名性が高いからだと思います。
プライバシー・安全設定をすれば、
不特定多数の人から
連絡が来ることはないですし
このコミュニティには、
私が招待した方しか
参加できないようにしますので、
不信なURLにアクセスしたり
知らない人からのファイルを
開かないようにすれば
問題ないと思います。
私自身、あるコミュニティの
通信手段として、以前、
Discordを使ったことがありますが、
特に問題はありませんでした。
ただ、私自身がコミュニティサーバーを
作るのは初めてなので、
戸惑うことが多々ありそうですが、
ご参加いただけると嬉しいです。
参加をご希望の方は、
スマホですと画面の下の方の
リンクという項目のお問い合わせから
私にメールアドレスを
お知らせください。
お知らせいただいたメールアドレスを
悪用することはありませんが、
ご心配な方は、
このためだけにメールアドレスを
作成していただければと思います。
ご連絡をいただきましたら、
招待URLをお送りいたします。