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泣いてみろ、乞うてもいい 70話 ネタバレ 先読み 原作 あらすじ 何でもない人

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70話 マティアスのおかげで、ビルおじさんが釈放されましたが・・・

 

よく考えてくれた。

故郷の村にある学校より

良い所はないと、

校長は満面の笑みを浮かべて

言いました。

応接テーブルを挟んで

向かい合って座ったレイラは、

微かに笑みを浮かべながら

視線を落としました。

心変わりしたことが、

とても照れくさそうでした。

 

レイラは、

余計な心配をさせて

本当に申し訳ないと謝りました。

校長は、

ルウェリン先生が

学校に残ってくれるならそれでいいと

返事をしました。

そして、躊躇いながら、

再びテオと会う気は全くないのかと

尋ねました。

 

最初、レイラは

「テオって?」と聞き返しましたが

ようやく雑貨店の息子の名前を

思い出しました。

ちょうどその時、校長の夫人が

茶を運んで来たので、レイラは

苦境から脱することができました。

 

婦人は、

強要しないように。

ルウェリン先生は

とても困っているとたしなめました。

校長は、

強要しているというより、

もったいないからだ。

テオはあまりにも堅実で

いい青年だからと言うと、

未練がましい目で

レイラの顔色を窺いました。

あちらは依然として、

気持ちがあるようでしだが、

レイラは、ただ困った表情を

しているだけでした。

 

エトマン博士の息子との結婚話が

持ち上がったお嬢さんには、

物足りない相手かもしれないけれど

高望みをすれば、

結末が良くないということを

今はよく知っているはずなのに。

 

じっくり考え込んでいた校長は、

ぎこちなく笑うことで

雰囲気を変えました。

 

校長は、来年の行事で

演劇をすることになったら、

ルウェリン先生が

主演を務めたらどうか。

莫大な寄付金が集まりそうだと

軽く冗談を言うと、レイラは

思わず笑ってしまいました。

久しぶりの本物の笑いでした。

 

学校と子供たち、

次の学期の計画について

話を交わしながらお茶を飲んだ後、

レイラは校長の家を出ました。

 

彼女は、寒波に襲われた街を、

ゆっくり歩いて行きました。

肌に刺さるような寒さでしたが

急いでアルビス

帰りたいという気持ちは

ありませんでした。

わけもなく商店街を歩き、

目に入らないショーウインドーを

ぼんやりと眺めていたレイラは

突然、

中央駅の広場で立ち止まりました。

 

このまま、

どこかへ行ってしまったらと

無意味な衝動が湧き起こりましたが

レイラは、

ビルおじさんを置いて、

どこへも行くことはできないし、

たとえビルおじさんを説得して

アルビスを去ったとしても、

明らかに公爵が諦めないことを

知っていました。

 

そのようなやり方で刺激すると、

かえって、もっとひどい目に

遭うかもしれない。

相次ぐ考えを断ち切るように

しばらく目を閉じたレイラは、

力なく踵を返しました。

 

ビルおじさんを、ずっと

アルビスの庭師にしておくという

公爵の本音は明らかでした。

しかし、そうであっても、どうせ

取るに足らない欲望に過ぎない。

結局、手に入れたから

すぐにつまらなくなるだろうし、

そうなれば捨てるだろうと、

レイラは以前よりも

強く確信することができました。

あの夜、

ヘルハルト公爵にとって、

レイラ・ルウェリンが

どんな意味なのかを、

あの男が骨の髄まで

教えてくれたからでした。

 

どうか一日も早く捨ててほしいと

切実に祈りながら

プラタナスの道に入ると、

突然、カイルの手紙のことが

思い浮かびました。

 

愛する俺のレイラ。

いつも同じ書き出しで始まる

数十通の手紙を、あの朝、

レイラは何度も読み返しました。

その多くの手紙が、

なぜ届けられなかったのか、

あえてビルおじさんに聞かなくても

知ることができたし、

そうするしかなかった気持ちまで

理解することができたので、

レイラの悲しみは

さらに深まりました。

 

警察署から帰ってきた翌朝、

食卓の前に座ったビルおじさんは

「ここにあった手紙は・・・?」と

たどたどしく尋ねた後、謝りました。

黙って笑ってばかりいる

レイラを見ていたビルの顔色が

暗くなりました。

 

ビルは、色々な面で、

お前に会わせる顔がないと

呟きました。

冬の青白い日差しのせいか、

ビルの髪は異常に白く見えたし、

本当に白髪が

かなり増えたようでした。

 

ビルは、

もし、レイラが、

まだカイルと同じ気持ちなら、

自分は二人の味方になってやると

言いました。

彼の目には、決然とした意志が

込められていました。

 

ビルは、

お前のためになる道が何かと、

勝手に決めるのも馬鹿げている。

それが今になって分かって

申し訳ないと謝罪を繰り返すともに、

ビルは、

かなり多くの言葉をかけました。

しかし、その言葉は

レイラの意識の奥深くまで届かず、

虚しく、

散り散りになって行きました。

 

結局、レイラが言えたのは、

自分は大丈夫だという、

言葉一つだけでした。

 

レイラはビルに、

朝ご飯を食べようと言いました。

赤くなった目で微笑むレイラを

じっと見つめていたビルは、

これ以上言葉を続けることができず、

ただ頷きました。

その朝、二人は、それぞれの皿を

半分も空けられませんでした。

 

アルビスの門を通る前、

レイラは深呼吸をして

拳を握りました。

 

あなたにとって

私が何でもないように、

私にとっても、

あなたは何でもない。

 

あの夜の記憶が蘇る度に

レイラは、

何でもないあなたに、

私は決して傷つかないと思いました。

 

しきりに足が震えて、拳を握った手に

冷や汗が溜まりましたが、

それでもレイラは止まらずに

足を踏み出しました。

いつもより急いだせいか、

小屋に着いた時は、

息切れしていました。

 

隠れるように家の中に入ると

長い安堵のため息が漏れました。

ビルは、

善処を受けた恩を返すという一念で、

早朝から夜まで、

温室を復旧することだけに

没頭していたため、家は空っぽでした。

レイラはよろめきながら部屋に行き、

ベッドに横になりました。

 

愛する私のレイラ。

しきりに思い浮かぶカイルの手紙を

消そうとして目をつぶると、

あの夜の記憶が

レイラを襲って来ました。

いっそのこと、

大声で泣いてしまいたくなる頃、

窓をトントン叩く音が

聞こえて来ました。

一時はわくわくしたけれど、

今は恐怖になった音でした。

 

レイラは冷たく固まった震える手で

カーテンを開き、窓を開けました。

公爵の手紙を持って来たフィービーが

そこにいました。

あの庭師を、ずっとアルビス

置く必要はないのではないかと

クロディーヌは笑みを湛えたまま

低い声で主張しました。

応接室を囲んでいる全員の視線が

一斉に彼女に向かいました。

 

隣に座っているブラント伯爵夫人が

クロディーヌをたしなめましたが

彼女は、

あの愚かな庭師を善処したのは

立派な決断だけれど、自分は、

あの人をアルビスに置くことが

少し気になる。

一度そんな過ちを犯した愚かな人が

再び、事故を起こさないという

保証はないと主張しました。

 

マティアスは笑みを浮かべた顔で

クロディーヌを見ながら、

令嬢が何を心配しているのか、

よく分かるけれど、

令嬢が愛していたガラスの温室を

整備した庭師が、

まさにビル・レマーなので、

温室を以前のように復旧するのに

あれほどの適任者はいないと

穏やかで落ち着いた口調で言いました。

クロディーヌは、ヘルハルト公爵が、

彼の決定を覆すことは

決してないだろうと感じました。

 

クロディーヌは、

もちろん自分は、

アルビスの天国が大好きなので

昔の姿を取り戻した温室を

見ることができるなら、

あの庭師を

いくらか我慢してやるのも

悪くはないと言って、

この辺で一歩引くことにしました。

ブラント伯爵夫人は、

ようやく安堵の表情を見せました。

 

怪我をした老婦人の健康状態。

使用人の大きな罪を庇った

ヘルハルト家に向けた世間の賛辞。

そして結婚の準備まで。

クロディーヌは、

洗練された話し方と笑顔を失わずに

話を続けました。

レイラ・ルウェリンの名前を

反芻している自分の心の中を

誰にも知らないように。

 

クロディーヌは、マティアスが

レイラを手に入れたに違いないと

確信していました。

彼は欲しいものがあれば、

手段と方法を選ばずに手に入れる

冷血漢でした。

たかがレイラなどが、彼から

逃れるはずがありませんでした。

 

アルビスで起きた事故の話を

聞いた時、クロディーヌは、

愛してやまないガラスの温室が

壊れたという事実を悲しむと同時に

そのことで、庭師がアルビスから

消えることになったという事実に

安堵しました。

庭師と一緒にレイラも

消えることになるからでした。

 

もちろん、アルビスから

追い出されたからといって、

マティアスとの関係が

終わるわけではないということくらい

クロディーヌもよく知っていました。

しかし、それは、

あの二人のことであるだけ。

ただ、クロディーヌは、

まもなく自分の世界になるアルビス

レイラがいないことを願いました。

夫の愛人と同じ領地の中で暮らす

公爵夫人だなんて。

まさかマティアスが、

そのように浅はかで品のないことを

するだろうかと思っていましたが、

このまま手をこまねいていたら

そのような滑稽な目に

遭うかもしれないという不安感が

改めて高まりました。

 

先日、リエットに会った時、

彼は、普段の彼らしくない

慎重な目つきで、

もし自分があなただったら、

マティアスを刺激することはない。

もう終わった仲なら幸いだし、

もしそうでなければ

放っておくのが最善だと思うと

助言しました。

クロディーヌとしては、

理解も同意もできない言葉でした。

 

あれほど大きな事故を起こした庭師を

あえてアルビスに置くという

マティアスの決定が誰のためなのかは

明らかでした。

ヘルハルト公爵を牛耳るなんて、

あの純真な顔とは裏腹に、

男を扱う実力は

並大抵ではないようでした。

 

しきりに

俗悪な考えをするようになる

自分が嫌で、クロディーヌは、

さらに端正で優雅な姿で

晩餐に臨みました。

夕食が終わる頃になると、

口元がぶるぶる震えるほど

激しい疲労感が押し寄せて来ました。

幸い、二人の奥様も

早く寝床に入るという意思を

明らかにしたので、晩餐会は

普段より早い時間に終わりました。

 

娘が泊まる客用寝室を訪ねて来た

ブラント伯爵夫人は、

先程はマティアスの前だったから

止めたけれど、自分も同意見だ。

一体なぜ、

あんな事故を起こした庭師を

使い続けるつもりなのか。

こういう時に見ると、

ヘルハルト一家も、

少し、柔な所があると

不満そうに言いました。

 

窓越しに、壊れたガラスの温室と

広い庭を眺めていたクロディーヌは

冷静な笑みを浮かべながら振り返ると

心配しないように。

あの庭師がアルビスに留まるのは

長くても来年の夏までだからと

言いました。

 

その言葉に驚いたブラント伯爵夫人は

それは、どういうことなのか。

まさか、老婦人とマティアスが

信任している庭師を

解雇でもするつもりなのかと

尋ねましたが、

クロディーヌは平然と、

新しい公爵夫人には

新しい庭師が必要だと言いました。

離れの応接室に入ったマティアスに

近づいたヘッセンは、

命令どおりに準備をしたと

声を低くして告げました。

マティアスは、

銀色のとても大きな

ドーム型ディッシュが置かれている

テーブルをチラッと見ました。

 

マティアスはヘッセンを労うと

いつものように

ソファーに寄りかかって座りました。

ヘッセンは、

今日届いた郵便物を渡した後、

退きました。

 

大半が、

年末に開かれる各種パーティー

社交行事の招待状でした。

中には、来年初めに、

帝国北部を巡回する予定の

皇太子夫妻のアルビス訪問を

知らせる手紙もありました。

 

マティアスは、

ジャケットに挿していた

万年筆を取り出し、

几帳面に返事を書き始めました。

サインまで終えた後、

ペンの蓋を閉めると、

虚しい笑いが漏れました。

レイラ・ルウェリン。

蓋に刻まれた金色の名前が

ほのかな光の中で輝きました。

 

マティアスは、秋から、

当たり前のように

ずっとペンを持ち歩いていました。

しばらくは面白半分で、その後は、

特に意識しなくなりました。

 

どうして、しきりに

自分の物を盗むのかと

息巻いていたレイラのことが

思い浮かぶと、

間違いなく笑いが出ました。

本当にカラスなのかという

荒唐無稽な質問も同様でした。

 

指の間に挟んだペンを回しながら

マティアスは腕時計を確認しました。

そろそろだろうと、ふと思った瞬間

聞き慣れたノックの音が

聞こえて来ました。

 

マティアスは、

ペンを元の場所に戻すと、

さっと立ち上がって

玄関に向かいました。

開いたドアの向こうには、

予想通り、

彼の女レイラが立っていました。

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クロディーヌは、レイラが

マティアスをそそのかしたと

思っているのでしょうけれど、

必死にマティアスから

逃げようと頑張っているレイラを

あの手この手を使って

邪魔をしているのはマティアス。

もっとも、クロディーヌが

それを知っていたからといって

レイラへの憎しみが

消えるわけではないのでしょうけれど。

 

逃げようとしても追いかけてくる

マティアス。

自分にとって彼は何でもないから

傷つかない。

一日でも早く捨てて欲しいと

祈ることで、必死に

心の冷静を保とうとするレイラが

哀れです。

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