968話 外伝77話 子供たちの大喧嘩の結末はいかに?
◇母の叱責◇
ラティルは、
いつもより厳しい声で、
子供たちが喧嘩をした理由は、
すでに老公爵から聞いていると
話しました。
プレラは、そっと
ラナムンの後ろに隠れました。
カルレインは口を出すかどうか
しばらく悩みましたが、
このことが誰の過ちなのか
もう一度、客観的に考えてみて、
口をつぐむことに決めました。
ラティルはため息をつくと
老公爵は
レアンを教えたことがある人なので
自分の子供たちが
このように喧嘩をすると、
レアンと自分の子供たちを
比較すると話しましたが、
ふと自分が、
あまりにもレアンを意識しているように
聞こえるのではないかと思い
眉を顰めました。
しかし、仕方がありませんでした。
事が起こる前まで、
ラティルにとってレアンは
完璧で理想的な
後継者だったからでした。
ラティルは子供たち一人一人の肩を
叩きながら、
プレラが二番目の皇女と仲がいいのは
知っている。
でも今回は遊びに行ったのではなく
勉強しに行ったんだと諭しました。
そして、クレリスには、
プレラと三番目の皇子が
喧嘩をしている時に、割り込んで、
大喧嘩にならないようにするなと
注意しました。
それから、ラティルはカイレッタに
小言を言おうとしましたが、
いつの間にか三番目の皇子は
カルレインにくっついて
眠っていました。
こっくりこっくりしている子供を見ると
ラティルは、
心が少しくじけそうになりました。
実際、三番目の皇子は、
上の二人の姉と同じレベルで叱るには
まだ幼すぎました。
しかし、一緒に喧嘩をしたのに、
上の二人の子供だけを
叱ることはできませんでした。
子供たちは、
自分たちの年齢のことを考えずに
差別を受けたと誤解するだろうし、
姉たちが理解してくれても、
三番目の皇子は、自分だけが
特別待遇を受けていると
考えるかもしれないと思いました。
カルレインは、
そんなラティルの視線に気づき、
うとうとしている
三番目の皇子の瞼を
そっと持ち上げました。
ラナムンは、その姿に
眉を顰めましたが、
三番目の皇子は、一気に目を覚まし
ラティルを見て飛び上がりました。
しかし、少し驚いただけで
子供はラティルを
怖がりませんでした。
そして、すぐに落ち着くと、
可愛い表情をし、ラティルに向かって
にっこりと笑いました。
この状況を可愛い笑顔で
免れようとしているようでした。
その姿に、プレラは、
「また、あれは!」と
文句を言いました。
ラティルは、
間違っていながらも
堂々としている三番目の皇子を見ると
自然にため息が出ました。
しかし、このまま見過ごすことなく、
先ほど二人の姉にしたように、
他人に姉の悪口を言うことは、
とても悪い行動だと、
厳しく注意しました。
三番目の皇子は膨れっ面で頭を下げ、
一番上の姉と二番目の姉は、
毎日、自分の悪口を言っているのにと
抗議しました。
その姿は確かに可愛かったけれど
可愛いで済ますわけには
いきませんでした。
ラティルは、
自分たちは家族だ。
家族同士なら喧嘩しても
仲直りできるけれど、
他人を巻き込んでいけない。
姉たちの悪口を言いたければ
家族に言えと言うと、
三番目の皇子は、
カルレインの大きな手に
自分の額を埋めて
返事を拒否しました。
これにラティルが
一言、言おうとした瞬間、
思いがけずギルゴールが近づいて来て
帰りは一緒に行こうと誘いました。
◇仲間外れ◇
ラティルは、
ギルゴールと一緒に寝室に戻りながら
最近、ギルゴールは
議長と怪物狩りに行っていたのか。
ずっと姿が見えなかったと
尋ねました。
実際、最近のギルゴールは、
静かに温室を行き来しているのか
よく、姿を見ませんでした。
彼が子供たちを叱っている途中に
突然割り込むのは
明らかに異例でした。
ギルゴールは、
手に持った猫じゃらしで、
ラティルの鼻を軽く叩くと、
このまま
見過ごしてもいいのだけれど、
自分はお嬢さんに似ている姿に
少し弱いと言いました。
ラティルは、
自分に似ているって、
第三皇子のこと?と聞き返すと
呆れて笑いながら、
まさか、自分が三番目の皇子を
叱らないようにするために
割り込んで来たのかと尋ねました。
ギルゴールは「うん」と答えました。
ラティルは当惑して
ギルゴールを見ると、
彼が三番目の子を
そんなに大事にしていたのかと
尋ねました。
ギルゴールは、
自分は子供たちを皆可愛がっている。
それに自分は責任感があると
答えました。
ラティルは、その答えに驚き、
ギルゴールに
責任感などというものがあるのかと
尋ねました。
ギルゴールは、
「あるとしたら?」と聞き返しました。
ラティルはギルゴールの視線を避けて
彼の猫じゃらしを、訳もなく、
手でこねくり回しました。
ギルゴールは鼻で笑うと、
三番目の赤ちゃんに、
一番目の赤ちゃんの友達と
先に親しくなってしまえと
言ったのは自分なので、
途中で割り込んだと打ち明けました。
ラティルは、ギルゴールが
自分の失言を忘れてくれることを願って
ずっと猫じゃらしを
こねくり回していましたが、
どうしてそんな助言をしたのかと
尋ねました。
ギルゴールは、三番目が
仲間になれないでいたからと
答えました。
ラティルは衝撃を受けた目で
ギルゴールを見ました。
実は彼が三番目の皇子に、
プレラの友人と
親しくなれと言ったのには、
もう一つ理由がありました。
しかし、彼は、あえて
その話をしませんでした。
部屋に戻ったラティルは、
四番目の皇子が遊んで
置いていった昆布のおもちゃを
いじりながら、
ボーッとしました。
自分勝手なギルゴールが
助けてくれるほど
三番目の皇子は
仲間外れになっているのかと
考えました。
ラティルは悩んだ末、
侍女長を呼ぶと、
彼女の目から見て、三番目の皇子が
仲間外れになっていると思うかと
尋ねました。
侍女長は皇帝の意図を把握できず
すぐに返事ができませんでした。
ラティルは、
侍女長の見たままを言えばいいと
付け加えると、侍女長は、
自分が見たところ、
皇帝の周りの人々は
三番目の皇子を一番可愛がっている。
自分も、四番目の皇子より
可愛がっている。
仲間外れになっていないと答えました。
ラティルは、
そうでしょう?
自分が見てもそうだと答えました。
侍女長は、
それならば、どうして聞いたのかと
尋ねました。
彼女は、さらにラティルの意図を
理解するのが難しくなりました。
ラティルは
侍女長たちもそうだし、
秘書や侍従、他の宮廷人たちも
三番目の皇子を
一番可愛がっているようだ。
それでもやはり
仲間外れになっているということは
子供たちの間でのことだろうかと
尋ねました。
前後の事情を知らない侍女長は
全くラティルの言葉を
理解できないでいると、
ラティルは躊躇いながら
ギルゴールの言葉を
率直に打ち明けました。
かつてのラティルなら、
決して侍女長に、
これほどまでの本音を
見せなかったはずでした。
しかし、ラティルは
カルレインとの偽の未来を見た後、
侍女たちに対して
少し寛大な心を持つようになりました。
侍女長は、皇帝が自分に
真剣に助言を求めると、興奮しながら
大人たちは三番目の皇子を
一番可愛がっている。
自分の考えでも、ギルゴール様の言う
仲間外れになっているというのは
子供たちの間の関係のようだと
話しました。
ラティルは頭が痛くなり
拳で、自分のこめかみを叩きました。
自分も三番目が
兄弟姉妹と仲良く過ごせないことは
知っている。
一番目と二番目は、
三番目が生まれる前に、
すでに仲が良かったし、
四番目と五番目は
双子のように大きくなったせいで
三番目と付き合うのが難しかった。
だからといって、カルレインは
子供を、あちこち連れ回す
性格ではないと、ぼやきました。
侍女長は、
そんなに心配しなくても大丈夫。
一般家庭でも、全ての兄弟姉妹が
仲が良いわけではないと慰めました。
ラティルは、
自分も皇女時代があったから、
分かっている。
大人たちが、
誰と親しくなれと、いくら頼んでも
言うことを聞かなかった。
やはり子供の立場と親の立場は
違うようだというと、
深いため息をつきました。
兄弟姉妹と仲が悪かったラティルは
自分の子供たちは、
ある程度は仲良くして欲しいと
願いました。
仲良くなれなくても、
血を見るような仲ではないことを
願いました。
ラティルは、もう、こんなに
喧嘩ばかりしているのに、
後になって、
どれだけ疎遠になるだろうかと
嘆くと、侍女長は、
幼い時に喧嘩しても、大きくなったら
仲良くなったりもすると慰めました。
それから、侍女長は、
いくつかの、
もっと良い話をしましたが
ラティルの表情は歪んだままでした。
侍女長は、
皇帝の眉を顰めた額を見ながら
自分の全ての経験を思い起こし、
皇帝に言うべき適切な言葉を
考えました。
皇帝は、即位して以来、
初めて自分に
悩みを打ち明けていました。
このような時、
このあやふやな関係を
早く回復させなければ
なりませんでした。
幸い、侍女長は
子供を育てたことがあり、
甥姪も多いため、すぐに、
もっともらしいアイデアを
思いつきました。
侍女長は、
皇女と皇子が一緒に力を合わせて
協力する何かを
作ってみてはどうかと提案しました。
ラティルは当惑しながら
仕事?一番年上のプレラが
満7歳なのに、
仕事を任せろというのかと尋ねると
侍女長は爆笑し、
当然、子供たちが苦労することなく
遊び感覚でできる、
適切なことでなければならないと
答えました。
◇老公爵の提案◇
ラティルは夜遅くまで
子供たちが力を合わせて
やるべきことについて悩みました。
しかし、明け方に早起きするまで
これといった良い考えが
思いつきませんでした。
ラティルは、午前の業務をしに
執務室に行った時、タッシールに
一番目と二番目と三番目が
仲良くなれるよう、
力を合わせて、できる何かを
考えてみるよう、
側室たちに伝えてと頼みました。
タッシールは、
昨日の件に関して報告を受けていたので
笑いを噴き出しながら、
一番目の皇女様と
三番目の皇子様のためですね?
伝えるだけでいいのか。
このタッシールが考えてみるのが
一番早いと思うと、からかうと、
ラティルは何も考えずに
タッシールが手を出さなくてもいい。
その大切な頭は他の所に
使わなければならないと
返事をしました。
他の側室たちの頭は
大切ではないのかと、
秘書たちは同時に考えました。
タッシールも、自分の頭が
一番大切だということは
否定しませんでした。
その代わり、彼はラティルの、
耳元に垂れている髪の毛を
後ろに送りながら、
側室ではなく、老公爵に
考えさせたらどうか。
老公爵は、三人の子供の授業を
してくれているし、
前の代から、ずっと皇孫たちの
授業をしてきたので、
適切な方法を
色々と知っているはずだと
答えました。
ラティルは
タッシールの提案を受け入れ、
昼休みに客間で過ごしている
老公爵を訪ねて
一緒に食事をしようと誘いました。
ラティルは老公爵が好きな食べ物で
もてなしながら、
彼に今回のことを相談しました。
老公爵は快く受け入れただけでなく
ロルド家の令嬢も
一緒に参加させたいと提案しました。
ラティルは、初日からプレラが
ロルド家の令嬢と喧嘩をしたため、
プレラの勉強の友達を
変えるつもりだったので
その提案に戸惑いました。
ラティルはゲスターの従妹に
怒ったわけではなく、
皆、子供だったので、
喧嘩は十分、あり得ることでした。
しかし、とにかくその子は
プレラの勉強友達として来たので
プレラと
仲良く過ごすことができないのに、
あえてそばに置く必要は
ありませんでした。
しかし、老公爵は首を横に振り、
今すぐ変えるのはダメだと
反対しました。
ラティルは、
子供がストレスを受けるのではないかと
反論しましたが、老公爵は、
ロルド家の令嬢が、
最初の友達でなければ大丈夫。
しかし、初めての友達なので、
トラブルが起きてすぐに
友達を変えてしまえば、
それが習慣になってしまう。
友達と仲直りする方法や
トラブルを解決する方法も
学ばなければならない。
努力しても、どうしてもだめなら、
その時に変えてもいい。
それに四人で喧嘩をしたので、
仲直りも四人一緒に
努力した方がいいと勧めました。
老公爵にここまで言われたら、
ラティルも、これ以上
拒否することはできませんでした。
老公爵は、
子供たちにどんな仕事を任せるかは
自分も考えた後に伝えると言うと、
老公爵は食事に熱中し、
ラティルも軽い話題だけを持ち出して
食事をしました。
そして数日後。 老公爵は、
もうすぐゲスターの誕生日だけれど、
彼の誕生日プレゼントを
子供たちに、
一緒に準備させたらどうかと
提案しました。
ちょうどロルド家の令嬢は
ゲスターの従弟なので、
参加する名分もあると言いました。
ラティルは、
効果があるだろうかと思いながらも
許可し、子供一人当りに
秘書一人を付けて、
何を準備しても助けてやってという
指示まで下しました。
その後の出来事を知っていたら、
ラティルは決して老公爵の提案を
許さなかったはずでした。
老公爵は何歳か分かりませんが
亀の甲より年の功。
それに長年の教師としての
経験が加わった
ラティルへの助言は
とても適切だったと思います。
おそらく、ラティルは、
不真面目な生徒だったので、
大人になった今でも、
老公爵には頭が上がらないかも。
老公爵は老公爵で、
不真面目な生徒が、皇帝として
自分の前にいることを
感慨深い目で見ているかもしれません。