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28話 エルナはイザベルに招待されましたが・・・
もうすぐ親戚の家へ行った
子爵夫妻と二人の息子が
帰ってくる時間なのに、
エルナが帰ってくる気配がないので
リサは、じっとしていられず、
邸宅の裏手の通りを
ウロウロしていました。
王宮でも酷い目に遭ったら
どうしようと、リサは
しきりに思い浮かんで来る
不吉な考えを消すのが困難でした。
むしろ、お嬢さんに
知らせなければ良かったと
後悔もしましたが、
王妃の命を、
そのような形で誤魔化したら、
さらに、大きな苦境に立たされたかも
しれませんでした。
エルナに仕えるメイドを
探している人が
裏通りで待っているという
伝言を受けた時は、
エルナの周りをうろついている
情けない蕩児が、
また現れたのだろうと思いました。
ところが、意外にも
リサの目の前に現れたのは、
厳しい表情をした
シュベリン宮のメイドでした。
彼女は拉致でもするかのように
静かに、迅速に
エルナを連れて行きました。
リサの同行は許されなかったけれど
こんなに気を揉むのなら、
一度でも、ついて行くと
無理強いすれば良かったと思いました。
そんな後悔をしていると、
道の向こうから、
エルナを乗せた王室の馬車が
姿を現しました。
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夜が更ける頃、
エルナは、はさみを下ろし、
花びらでいっぱいの机を
ぼんやりと見下ろしました。
どんな花を作る予定だったのか
思い出すまでに、
もう少し時間が必要でした。
ようやく思い出した
「バラ」という名前を囁きながら、
エルナはズキズキする手を揉みました。
満開のつるバラで覆われたパーゴラ。
白いレースで覆われた
テーブルの向こうにあった
非現実的な顔の記憶も
その後に続きました。
自分の孫娘が、王妃殿下と
二人だけで話したことを知ったら
おばあ様は、
どんな顔をするだろうか、
すぐにでも祖母に送る手紙を
書きたかった衝動は、
しばらくして、
あっけなく消えました。
孫娘が王妃に会った理由が
全王国の非難を受けて離婚した
彼女の息子であるビョルン王子との
スキャンダルのせいだということを
知れば、おばあ様は
気絶してしまうかも
しれないからでした。
手の痛みがなかなか治まらないので、
エルナは立ち上がり、窓を開けて
窓枠にもたれかかり、
庭を見下ろしました。
春が始まる頃は、
人里離れた田舎の村で
平凡な日々を送っていたのに。
一夜にして祖父を失い、
家を奪われる羽目になり、
父と取り引きをして今日に至るまで
まるで夢を見ているような気分で、
依然として、実感できませんでした。
そして、王妃との会話を振り返ると、
深いため息が自然に出ました。
エルナは、頭の中が真っ白になり
冷や汗が流れたけれど、
誤解を解くために、
ビョルン王子に初めて会った日から
今日までの全てのことを、
偽ることなく、
真実を歪曲したりすることなく
できるだけ詳しく説明しました。
黙々とエルナの話を
傾聴していた王妃が、
ビョルンが本当に
それを望んでいたということかと
初めて疑問を示したのは、
鹿の角のトロフィー代を
弁償することにしたことを
打ち明けた時でした。
疑われているという考えに
焦ったエルナは、
何とか潔白を証明するために
造花を売って借金を返す約束まで
告白しました。
貴族の家の娘が
そのようなことをする事実が
どのように受け取られるか
遅ればせながら悟りましたが、
すでに口にした言葉を
取り戻す術はありませんでした。
ハルディさんが
造花を作って、それを売って、
そのお金で
トロフィー代を弁償することを
ビョルンが快諾したという意味かと
聞き返す王妃の声からは
隠しきれない当惑感が
滲み出ていました。
本当に、あの子が
そうだったということですよねと
最後に質問すると、
王妃は気抜けしたように笑いました。
幸い、それ以上の追及はなく
エルナが離宮を離れるまで、
王妃が巧みに日常的な話をし
エルナは丁寧に返事をしました。
きちんと釈明できたのだろうかと
悩みに悩んでみましたが、
明確な結論を出すことは困難でした。
王妃の慈しみ深いようで厳しく、
冷たそうでありながらも優しい姿は
王子に似ていました。
淡い金髪と、繊細だけれど
シャープなラインの顔もそうでした。
突然鮮明になった彼の記憶を消すように
窓を閉めたエルナは
慌てて机の前に戻りました。
まだ手がズキズキしましたが、
仕事ができないほどの痛みでは
ありませんでした。
無駄な感傷に浸っていると
さらに憂鬱になるけれど
仕事をすれば
借金を減らすことができる。
エルナはその信念に従い
手を動かしました。
王子のトロフィー代に
パーベルから借りるお金まで加わると
この都市にいる
全ての淑女たちの帽子を飾るほど
多くの花を
作らなければならないかもしれない。
どれだけ長い時間がかかるか
想像してみると
気が遠くなりそうでしたが、
これがエルナが見出した
唯一の解決策なので、
最善を尽くしてみるつもりでした。
耐えなければならない現実は
いつも大きすぎて手に負えず
自分にあまり親切でない人生に
エルナはもう慣れていました。
時には途方に暮れて、悲しくて
惨めになることもあるだろう。
けれども、自分を諦めない限り、
人生は悪い方向にだけ
流れないということも、
エルナはよく知っていました。
作っておいた花びらを
全て使い果たすと、いつの間にか
深夜12時を過ぎていました。
後片付を終え、手を丁寧に洗った後、
ベッドに横になったエルナは、
ひどく疲れているせいで、
余計な考えに悩まされることなく
眠ることができました。
その夜、エルナは夢の中で
宮殿のように大きな造花を作りました。
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エルナと一緒に
ハルディ一家が観客席に入ると
「ほら!現れた!」と、ペーターが
喜びの嘆声を上げました。
結局そうなると思ったと言う
レナードは、
戦々恐々とした群れを
あざ笑いながらも、
ほっとした表情を浮かべました。
もしエルナが現れなかったら
自分たちは、
苦労して無駄なことをした馬鹿者に
転落するところでした。
ペーターは、
ハルディさんが船遊びをするのに
支障がなさそうで良かったと
言いました。
自分の船に乗せる自信があるのかと
言われ、嘲弄の目で見られても
ペーターは屈しませんでした。
賭けに参加した人々の中で、
エルナに最も多くの手紙と
プレゼントを送ったのは彼で、
当然、最も多くの返事を
受け取ったのも彼でした。
自分の健康を心配してくれる手紙には
感謝の意を表す返事を送りました。
拒絶の意を含んでいましたが、
字が目に見えて大きく
太くなったのを見れば、
それとなく余地を残したことが
明らかでした。
ビョルンと
スキャンダルまで起こした女を、
誘惑できると思っているのかと
言われても、ペーターは、
それはビョルンが
前妻を挑発しようと
ハルディさんを利用しただけ。
自分は違う。
自分たちは感情的な交流をした仲だと
言い返しました。
そしてうず高く積まれた
手紙の返事のことを考えると、
ペーターは、すでにエルナと
同じ船に乗っているような
気がしました。
クスクス笑ったレナードは
ライバルが来たと言って
シュベリン宮殿の庭園と続く道を
指差しました。
選手として競技に参加する
レオニード皇太子を除く
すべての王子と王女、
そして国王夫妻が
貴賓席に入場しているところでした。
一番高い位置にある
王家の席に着席したビョルンに
近づいたペーターは
「あそこを見て。 来たよ。」と
声をかけました。
そして、
ルイーゼ王女の厳しい視線を気にせず
ビョルンの隣に座りました。
彼は、ペーターが指差した方へ
視線を向けると、
白いドレスを着た女性がいました。
一目で、エルナ、
自分のストレートフラッシュだと
気づいたビョルンは、ペーターの
くだらない冗談を聞き流しながら
ぼんやりと彼女を見下ろしました。
周りを見回しながら見物していた
エルナが、
まもなく彼らを発見すると、
ビクッとし、
気まずそうに黙礼をしました。
二人も礼儀正しい挨拶で
返事をしました。
健康が優れなかったというのが
嘘ではなかったのか、
以前より顔色が青ざめていました。
それでも、依然として女性は美しく
今夜で役目を終えて
消える存在という事実が
少し、もったいない気がしました。
どこに視線を置けばいいか分からず
困っていたエルナは、
再び正面を向きました。
かなり遠く離れていても、
女性の頬が赤くなったことを
感じることができました。
ずっと未練がましく
エルナの後ろ姿を眺めていたペーターは
もし、自分が、真剣にハルディさんに
交際を申し込めば・・・と
言いかけましたが、
失笑しながら首を横に振り、
「死ぬだろう」と言葉を続け、
父親であるベルゲン伯爵を
じっと見つめました。
若い頃、
かなり有名なボクシング選手だった
彼は、数年前、メイドに溺れて
正気を失っていた長男を殴って
悔い改めさせました。
父親が自分の命を奪うと言って
ペーターが諦めの
ため息をついている間に、
レース開始の案内が聞こえて来ました。
興奮が混じった沈黙が
観客席を圧倒した頃、
エルナが慎重に振り返りました。
静寂の中、二人の目が合いました。
驚いたエルナとは違い、
彼女を見つめるビョルンの瞳は
深くて静かでした。
試合が始まり、
騒々しい歓声が上がっても、
それを知らないかのように
二人は見つめ合っていました。
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ペーターは、
本気でエルナのことが好きなので
他の人よりも多く
手紙やプレゼント送ったけれど
彼女と結婚できない事実も
知っている。
だから、せめて掛け金だけでも
手に入れたいと思っているような
気がしました。
けれども、
一人で空回りしているだけで
ペーターの気持ちは
全くエルナに届いていなくて、
断りの意思が強いことを示すために
わざと太字にしたのに、
それに気づかないペーターが
哀れで同情してしまいました。
エルナとビョルンが
見つめ合うシーン。
二人が互いに惹かれ合っている
証拠に思えるのに、
マンガで省かれていたのが
本当に残念でした。
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いつも、たくさんのコメントを
ありがとうございます。
皆様からの温かいお言葉を
思い出しながら、
明日も、記事を更新したいと思います。
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