972話 外伝81話 ラティルが再び妊娠したようです。
◇大笑い◇
ラナムンは、
声のトーンを微かに上げて
誰と誰が、
その推測をしているのかと
尋ねました。
カルドンは、その口調の変化に
すぐに気づき、訝しげに
ラナムンを振り返りました。
なぜ、笑っているのか。
坊ちゃんの赤ちゃんである確率が
高いのだろうかと考えました。
秘書は、
この話題について、他の人たちと
まだ話したことがないので
分からない。
皇帝が妊娠した時の症状を
先日、見かけたので、
自分一人で推測してみた。
違う可能性もあると答えました。
秘書が戻ると、ラナムンは
大っぴらに笑いを爆発させました。
その姿を、
ぼんやりと見ていたカルドンは、
そんなに嬉しいのか。
もしかして、
坊ちゃんの子供である確率が
高いのかと尋ねました。
ラナムンは、
自分の記憶が正しくて、
皇帝が本当に妊娠したのなら、
ゲスターも
父親候補の一人だろうと答えました。
それを聞いたカルドンの顔にも
徐々に痛快の色が広がりました。
彼も堪え切れず、
一緒に笑いこけました。
ロルド家は、
アトラクシー家を攻撃するために
自分たちの道も
断つことになるからでした。
ラナムンは、
おそらく、この知らせを聞けば
お腹が痛くて
気が狂いそうになるだろう。
まともに食事ができるかどうかも
分からないと言うと、
ラナムンは笑いを堪えながら
拳を握りました。
彼は本気で、今回、ラティルが、
妊娠していることを願いました。
ロルド家が、自分たちのしたことを
後悔することを切望しました。
実は、ラナムンにとって、
アトラクシー公爵と
ロルド宰相の戦いは
自分から一歩離れた話でした。
二人が仲が悪いことは
知っているけれど、
それを深刻に受け止めたことは
ありませんでした。
しかし、二人の不和が、
今回、自分の子供に
悪い影響を及ぼすと、
考えが変わりました。
ラナムンは、
家に帰って、この知らせを
両親に伝えるよう、
カルドンに指示しました。
彼は、すぐに行って来ると
答えました。
ラナムンは、
一番目の皇女を、後継者候補から
脱落させることを止めるなと
言うように。
そして、後継者を二番目の皇女、
三番目の皇子、四番目の皇子の
三人のうちの一人に固定するように
誘導させろと指示しました。
カルドンは、
すぐにマントを持って外に出ました。
ラナムンは
一人用ソファーに座り、
深呼吸しました。
ロルド家は、
彼らの家門から後継者が出ないので、
後継者が出ないよう企んだ。
それが、彼らにも
影響を及ぼすということが
分かったら、ロルド家では
どのように出てくるだろうかと
考えました。
◇寵愛される皇女◇
カルドンが訪ねた時、
アトラクシー公爵の顔色は
真っ青になるほどでしたが、
カルドンが話し終えた時は、
とても良かった、おめでたいと言って
テーブルまで叩きながら
笑っていました。
アトラクシー公爵夫人も
口角を上げました。
カルドンは、その様子に安心し、
自分はこれで失礼すると
挨拶しました。
アトラクシー公爵は、
忙しいだろうから早く帰れと言うと
金貨一枚をカルドンの手に握らせ、
彼を労いました。
カルドンには、
いつも苦労をかけるという
アトラクシー公爵に、カルドンは
坊ちゃんを世話するのが
自分の仕事だと返事をすると
お辞儀をして、退出しました。
書斎に二人きりになると、
公爵夫人も嬉しそうな笑みを
隠しませんでした。
彼女は、
いずれにせよプレラは
心を痛めるだろうから、
彼女にあげる珍しいおもちゃを
手に入れて来るよう
言わなければならないと
明るい声で提案しました。
公爵も同意しました。
公爵夫人は公爵に近づいて
彼の手を握り締めながら、
心は痛むけれど、このことで皇帝は
さらにプレラを
大事にするようになるだろう。
そうすれば、
後継者になれなくても
後継者より、
もっと寵愛される皇女になり、
以前の皇帝のように、宮殿で
より良く過ごすことができる。
皇帝は皇女時代に、
とても自由に楽しく過ごしていたと
言いました。
アトラクシー公爵は
そうであって欲しいと返事をしました。
公爵夫人は、
皇帝がプレラを一番愛するなら、
プレラのために、三番目の皇子を
後継者にしようとするかもしれない。
そうでなくても、
プレラが独立する時に
大きく気を遣ってくれるだろうと
言いました。
アトラクシー公爵は、
「そしてラナムンにも」と言うと
妻の手の甲にキスをしました。
◇ラナムンの思惑◇
アトラクシー公爵夫妻の予想が
当たりました。
その日の夜、ラティルは
ラナムンを訪ね、部屋に入るや否や、
ラナムンを抱きしめました。
そして「大丈夫?」と尋ねると
ラナムンは皇帝の首筋に鼻を当てて
首を横に振りました。
普段なら硬い声で
大丈夫だと言うはずでしたが、
今日は
そうしたくありませんでした。
ラナムンは、
「とても大変です」と呟きながら
さらに、ラティルに密着しました。
ラナムンが、いつもと違って
このようにしがみつくと、
ラティルは胸がドキッとしました。
ラティルは、ラナムンの広い背中を
ひたすら擦りました。
ラティルはラナムンに
何か食べたのかと尋ねました。
ラナムンは、
食欲がなくて、何も食べられなかった。
プレラは一日中泣いている。
先にロルドさんが自分を押したのに
なぜ、自分一人が
悪いことになっているのかと
悔しがっていると答えました。
プレラは、自分の力について
よく知らないから、
猶更、そう思うだろうと
ラティルは言いました。
彼女はラナムンを
テーブルまで連れて行くと
鐘を鳴らしました。
カルドンが入ってくると、ラティルは
夜に食べても負担にならない
消化しやすい食べ物と
ホットミルクを持って来るよう
指示しました。
カルドンが出て行くと、
ラティルはラナムンの隣に座り
彼の手を握りました。
彼の手の甲に浮かんでいる血管から
彼の速い心臓の鼓動が感じられました。
ラティルは
ラナムンの大きな手を擦りました。
ラナムンは、
再びラティルの肩に頭を乗せて
目を閉じました。
彼の長い睫毛を上から見ると、
ラティルは、
さらにイライラしました。
自尊心の強いラナムンが
これ程までになるなんて、
一体、どれだけ心を痛めているのかと
思いました。
カルドンが食べ物を持って来て
テーブルに用意して出て行った後、
ラナムンは
ラティルの肩から頭を離しました。
そして、
実は柱が折れたのが
一番目の皇女のせいなのか
二番目の皇女のせいなのか
定かではない。
しかし、ここで、
二番目の皇女の力まで明らかにすれば
一人で苦労するところを
二人で苦労することになるだけ。
分けたところで、
重荷が減るわけではないので
口を閉じているけれど、
プレラが一人で
苦しんでいる姿を見る度に
胸が張り裂けそうだと
打ち明けました。
それを聞いたラティルは、
プレラとラナムンに
とても申し訳ないと思いました。
ラティルはラナムンに
フォークを握らせようとしましたが
それを下ろして
彼を再び抱きしめました。
ラナムンは、あらゆる方向から
娘と自分に対する
ラティルの罪悪感を刺激しました。
子供四人が喧嘩した責任を
自分の娘一人が
負うことになったので、この程度は
しなければなりませんでした。
その効果はありました。
ラティルは、その夜、
ラナムンの寝室で寝ました。
朝、起きるとプレラを連れて来させ
子供と三人で朝食も取りました。
昨日ずっと泣いていて、
瞼がパンパンに腫れたプレラは
母陛下が、
自分を憎んでいないことを知ると、
恨めしいのか、
さらにワンワン泣きました。
プレラは、
自分を先に押したのはハラビーだ。
それに、
柱を壊したのは自分ではない。
自分はこんなに小さいのに、
どうして、あんなものを壊せるのか。
自分はあの子が本当に嫌いだ。
ずっと、あの子と一緒に
勉強しなければならないのか。
あの子の顔は見たくないと訴えました。
ラティルは、
もちろん、あの子は
もうプレラの勉強友達はできない。
今後、あの子を
宮殿に呼ぶことはないだろうと
告げました。
プレラは、
何度も何度も約束をしてから、
辛うじて、キノコスープを
数匙すくいました
◇プレラが悪い◇
ハラビー・ロルドは
とても食欲がありました。
ずっと年下の弟をいじめて、
自分で選んだ友達を無視する。
そんな悪い皇女が
罰を受けるなんて!
しかも、その皇女のせいで
自分は死にかけた。
両親は、その知らせを聞いてから
小言を止め、歯が腐ると言って
数個しか食べさせてくれなかった
チョコレートを、
たくさん持って来てくれました。
しかし、その楽しい気分は、
老公爵の先生が出した宿題を
している途中で壊れました。
なぜ、それを続けるのか。
もうやらなくてもいい。
不吉な物だから捨てるようにと言う
乳母の言葉に、
ハラビーは目を丸くして、
それはどういう意味なのかと
尋ねました。
乳母は、もうハラビーが、
一番目の皇女の
勉強友達ではないことと、
老公爵は皇族を教える人なので、
ハラビーは、もうそこで
授業を受けられない。
だから、老公爵が出した宿題をする
必要はないと答えました。
ハラビーは、
直ちに伯父を訪ねました。
ロルド宰相は、側近たちと集まって
お茶を飲みながら、今回の事案を
きちんと推し進める準備を
していたところでした。
ところが、
しばらく話した後に振り向くと、
柱の後ろに、大怪我をした姪が
立っていました。
宰相は微笑みながら、
朝直は取ったかと尋ね、
随分、良くなったようと言いました。
ハラビーは、
自分が一番目の皇女の
勉強友達でなくなったのは
本当なのか。
そして、三番目の皇子も
後継者になれなくなるというのは
どういう意味なのかと尋ねました。
ロルド宰相が目配せすると、
すぐに乳母が近づいて来て、
ハラビーを引っ張り、
向こうでチョコレートを食べよう。
とても美味しいからと誘いました。
しかし、
ハラビーは乳母を振り切り、
宰相の目の前まで走って行くと、
三番目の皇子は
自分と喧嘩しなかった。
一番目の皇女は
三番目の皇子も殴って自分も殴った。
三番目の皇子は、今まで
自分の味方をしてくれた。
それなのに、伯父様が
皇子にそんなことしたら
どうすればいいのか。
三番目の皇子は、
自分のことをどう思うだろうか。
なぜ三番目の皇子をいじめるのかと
子供が泣きわめいて怒ると、
宰相の寛大な表情が
ゆっくりと固まっていきました。
乳母は怖くなって、
すぐにハラビーを抱き上げると
居間に逃げました。
しかし、降ろすや否やハラビーは、
再び宰相の所へ戻って
泣き叫びました。
宰相は頭を悩ませました。
ゲスターは幼い頃から
一度も駄々をこねたことがなく、
どれだけおとなしかったか
分かりませんでした。
そのため、宰相は、
ハラビーが、人前で
駄々をこねる姿を見せると、
呆れました。
彼は今まで、ハラビーも
ゲスターのように
おとなしい子だと思っていました。
長男は、少し問題を起こしましたが、
自分の子供なので、叱って
罰することができました。
ところが、
この子は弟の子供なので、
そうすることもできませんでした。
結局、知らせを聞いた宰相の弟が
急いで駆けつけて来て、
子供を連れて行きました。
彼は、
一番目の皇女と三番目の皇子は
父親が同じだ。
側室のカルレインが
養育しているだけで、
実父は両方とも側室のラナムンだ。
ハラビーが一番目の皇女と
あれだけ大喧嘩をしたのに、
ラナムンと皇帝が
お前と三番目の皇子を
一緒に遊ばせるだろうか。
ハラビーが皇女と、
あれだけ大喧嘩した瞬間に、
三番目の皇子は、
もうハラビーの友達に
なれなくなった。
伯父が、わざと三番目の皇子を
攻撃しているのではなく、
ハラビーを守るために
こうしているんだと
言い聞かせました。
ハラビーは、しばらく考えた末に
それでは、これは全て
プレラ皇女のせいなのだと
結論を出しました。
父親は、
良いことだけを考えるように。
ハラビーを嫌う一番目の皇女が
皇帝の座に就いたら、
これほど恐ろしいことはない。
しかし、一番目の皇女は
皇帝になる可能性が
なくなっただろうから、
それでいいと話しました。
◇怪しい助け船◇
どのような流れになろうとも、
一番目の皇女は、
後継者の座から落ちると
皆が思っていた時、 思いがけず
誰も予想していなかった人物が
現れました。
ラナムンは、その知らせを聞いて
飛び起きました。
ラナムンは、秘書に
ゲスターが皇帝を訪ねて
一番目の皇女を
許してくれと言ったというのは
どういうことなのかと尋ねました。
秘書は、
ゲスターは、まだ執務室にいる。
なぜ急にそうなったのかは
分からないけれど、ゲスターは、
柱がプレラのせいで壊れたのが
確かではないのに、プレラに
その罪を着せてはいけないと
言っていたと答えました。
ラナムンは
心臓がドキッとしました。
他の人なら、
ありがたいことだけれど、
ゲスターが、そのように言うのが
気になりました。
ラナムンは、
もしかしてゲスターが
何かを察知して、
そうしたのかと疑いました。
ラナムンが大笑いをするという
珍しいシーン。今まで、
一度も出て来なかったように
思います。
それだけロルド家を
ギャフンと言わせることが
できるかと思うと、
痛快なのだと思います。
また、ラティルの前で
わざと意気消沈している姿を
見せるのも珍しいと思います。
ラティルと結婚して、子供が生まれて
人間味が増していくラナムンが
素敵だと思いました。