973話 外伝82話 ゲスターがプレラに罪を着せてはいけないと言った目的は何?
◇疑惑◇
秘書がこの話を
伝えに来たということは、
ゲスターが人払いせずに
ラティルに
頼んでいるということでした。
ラナムンは、
何となく気にかかったので、
自分も行ってみることにし、
すぐに上着を着ました。
カルドンは、
ゲスターが上着を着るのを
手伝いながら、
自分もゲスターのことは嫌いだけれど
今は、自分たちにとって良い状況だ。
もちろん、ロルド家が
地団駄を踏んで後悔する姿を
見られないのは残念だけれど
ロルド家に一泡吹かせるために、
一番目の皇女に損をさせることは
できないのではないかと尋ねました。
そんなことは分かっていると思い
ラナムンは、もどかしくなりました。
しかし、
カルドンの言葉通りにするためには、
プレラの寿命問題が
あってはなりませんでした。
しかし、カルドンに、
どうせプレラは後継者になりにくいと
言うことはできませんでした。
ラナムンは、
とりあえず行こうと言いました。
◇ラナムンの思惑◇
ラナムンは、
ゲスターが絶対に良い意味で
ラティルを訪ねたのではないと
確信していました。
他の人が一番目の皇女を
許してほしいと頼んだなら
ありがたいことだけれど、
ゲスターのすることには、
何か陰険な下心がありそうでした。
しかし、ラナムンの警戒心とは異なり
ゲスターは大きな計略があって
ラティルを訪ねたわけでは
ありませんでした。
もちろん、最初から
計略がなかったわけでは
ありませんでしたが。
ゲスターは、
自分に子供がいないので、
誰が後継者になろうと
気にしませんでした。
ある側室の子供だから、
少しでも情が湧くとか、
情が湧かないとかいうことも
ありませんでした。
しかし、ラナムンが
同情されるのは嫌だったので
それで来ただけでした。
一番目の皇女が許されれば、
皇帝がラナムンに申し訳ないと思って
彼に良くしてあげることも
なくなるからでした。
ゲスターは、
七歳で喧嘩しない子供が
どこにいるのか。
プレラがとても可哀想だと
人前で堂々と話し、苦しそうにすると
秘書と侍従たちは
その言葉に揺れました。
実際、七歳で、
友達と一度も喧嘩しなかった人が
どこにいるだろうか。
大人のロルド伯爵と
アトラクシー公爵も
毎日喧嘩をしているのに、
七歳の子供たちは
喧嘩をしたらダメなのだろうか。
一番目の皇女と三番目の皇子の
仲が悪いことも指摘したけれど、
同母兄と異母兄弟と
仲が悪かった皇帝だって
今では、とても立派な皇帝になって
国をよく治めていると思いました。
ラティルも、
ゲスターは本当に優しいと、
感動して呟きました。
ゲスターが猫をかぶるのは
よく知っているけれど、
それでも感動しました。
ゲスターは、
被害を受けたロルド家の人でした。
ゲスターの言うことが
アトラクシー家の主張と同じでも
言葉の重さが違いました。
ゲスターは、
プレラが濡れ衣を着せられて
悔しがっているもしれないのに
それを知りながら
見過ごしてはいけないと思うと
訴えました。
ゲスターが一つ一つ話す言葉に
秘書と侍従たちは恥ずかしくなり
視線を落としました。
ラティルは我慢できずに
ゲスターを抱きしめると、
自分はあまりにもせっかちだったと
言いました。
ゲスターは、
父と叔父とも話してみる。
ヘビラと三番目の皇子は友達なので
あの子も、事が大きくなることを
望んでいないと思うと言いました。
トゥーリは後ろで
ヘビラではなくハラビだと
静かに叫びましたが、
幸い、皆ゲスターが
失言をしたとしか思いませんでした。
ラナムンが訪ねて来たのは、
雰囲気がとても和やかになり、
ゲスターが用事をほとんど終えて
帰ろうとした時でした。
ラティルは、ラナムンを見るや否や
ちょうどいい所に来た。
ゲスタがプレラのために
頼みに来てくれたと、
すぐに教えました。
あのプライドの高い人が
自分の口から
苦しいと言うほどだったので
ラナムンも、このことを知ったら
安心すると思ったからでした。
ラナムンはお礼を言いましたが
彼は安心するどころか、依然として
ゲスターが何を考えて、
自分を助けるふりをしているのか
疑っていました。
しかし、それをここで露わにすれば
自分だけが心が狭くて
恩知らずのように見えることも
分かっていました。
ラナムンは、
無理矢理、口角を上げました。
ゲスターは、
プレラは皇帝の娘なので、当然、
助けてあげなければならない。
それに赤ちゃんの時から、
あの子が大きくなる姿を見ているので
自分もあの子が、
優しい子だということを
知っていると言いました。
ゲスターが静かに語る言葉に
秘書と侍従たちは改めて感動しました。
カルドンでさえ感嘆しました。
何となく気に障るのは
ラナムンだけでした。
とにかく、ゲスターは公に
自分の立場を明らかにしました。
ラナムンは、
自分の疑いを表に出す代わりに、
この状況を利用することにしました。
ゲスターが何を知っていて
ああするのであれ、
何も知らずに、ああするのであれ、
ゲスターに隙を見せることは
できませんでした。
ラナムンはラティルに
しばらく人払いをして欲しいと
頼みました。
ラティルは承知し、執務室の中は
ラティルとラナムンとゲスターの
三人だけになりました。
ゲスターは、当然、自分は
ここに残ってもいいというように
自然にラティルと腕を組んで
ラナムンと向かい合いました。
ラナムンは、
「ロルド家の人々は皆今一つだ」
という父親の言葉に共感しました。
しかし、落ち着いて話し始めました。
ラナムンはラティルに、
どのみち、一番目の皇女が
後継者になるのは
確かに難しいと言いました。
ゲスターは、
どうして、そう思うのかと
話に割り込みましたが、
ラナムンは彼を無視し、
この件が
一番目の皇女のせいではないかも
しれないというゲスターの言葉を
受け入れながらも、
一番目の皇女に責任を負わせると
皇帝が先に発表する。
そして、二番目の皇女、
三番目の皇子、四番目の皇子の中から
後継者を選ぶことにすれば、
すぐに後継者を決める必要もなく、
ロルド家の人々も
落ち着かせることができ、
プレラの評判も、
大きく悪くはならないだろうと
提案しました。
ラナムンは、
プレラが後継者になれない可能性は
大きいので、
それをロルド家のせいにしてしまおう。
七歳の時に起きた原因不明なことで
後継者の座から追い出されたとすれば
皇女の奇異な力を恐れる人の中にも
あまりにもひどい仕打ちだと
同情する人が出てくるだろう。
無条件に怪物扱いされるよりは
その方がましだ。
その上、後継者を
二番目、三番目、四番目の
いずれかに決めてしまえば、
以後、ゲスターの子供が生まれても
その子は無条件に、
後継者候補から除外される。
最初から、
今回の事件が起こらなかったら
一番良かっただろうけれど
すでに起きた以上、
これが、少しでも被害を減らし、
ロルド家に反撃する対応策でした。
よさそうに聞こえるけど
ゲスターは大丈夫かと、
ラティルは頷きながらも、
ゲスターに確認しました。
人前で、自分の立場を
明らかにしてくれたことを見れば
同意する可能性が大きかったけれど
それでも念のため、
確認しなければなりませんでした。
ゲスターは、
大丈夫。
プレラを救うことができるなら
当然だと、
少しも躊躇せずに答えました。
ラティルは彼の手を
しっかり握りました。
くっ付いた二つの手を見たラナムンは
腹が立ちましたが、
冷ややかな表情の下に
感情を隠しました。
このように進めていけば、
ゲスターとロルド家は
物事が思い通りに運んだからといって
喜ぶことはないだろうと
思いました。
◇想定外◇
ゲスターは、レッサーパンダ二匹と
グリフィンをお風呂に入れるために
浴槽に水をいっぱい満たした後、
桃の香りがする泡の入浴剤を
たくさん溶かしました。
それから、
飴を一つずつ口にくわえさせて
浴槽に入れると、
三匹の毛むくじゃらは
浮かれて浴槽の中を
ふわふわと漂いながら遊びました。
ゲスターは、
飴を先に食べた順に抱き上げ、
石鹸でごしごしこすって
毛を洗いました。
グリフィンとランブリーは
のんびりと、ゲスターの手に
身を任せました。
クリーミーは、
まだ少し恥ずかしかっていたけれど
目を閉じて、洗ってもらっている間、
じっとしていました。
風呂から上がると、
ゲスターは毛むくじゃらたちを
大きなタオルで包み、
ソファーに座らせました。
毛むくじゃらたちは、
トゥーリがあらかじめ持ってきた
氷を入れたジュースを飲みました。
ゲスターは
自分の前をチョロチョロする奴らが
汚いのを見たくないだけでしたが
三匹とも毛がとても柔らかくて
お腹の肉も柔らかいので、
洗っていると
楽しかったりもしました。
いわば、これはゲスターの趣味でした。
しかし、トゥーリはその姿を見て
涙が出そうになりました。
動物たちをあんなに気遣うなんて
どれだけ寂しいのか。
トゥーリは時々、
ゲスターが動物たちに
話しかけていた姿を思い出すと、
さらに憂鬱になりました。
話し相手がいないから
動物たちとも
話をしようとしているのかと
思ったトゥーリは、
終いには泣きじゃくって
廊下に出ました。
その間、ゲスターは
ビスケットを取り出して
食べながら、
ラナムンは何かおかしいと
呟きました。
グリフィンは
飲み終わったコップを置きながら
クスクス笑うと、
変なのは、お前の侍従だ。
あいつは、いつもお前を
ワカメのように見ているけれど
大丈夫なのかと尋ねました。
しかし、ゲスターは無視して
ずっと一人で呟きました。
おかしい。
どうして、彼はしきりに
一番目の皇女が後継者になれないと
言うのだろうか。
前世のせい?
不利ではあるが
不可能なことではない。
それに一番目の皇女が
後継者候補に入れば
彼の子供が後継者になる可能性が
半分で、一番目の皇女が抜けたら
1/3ではないか。
確率が低くなるのに、あえて
一人落とす必要があるのだろうか?
変だ、おかしいと、
ゲスターはしばらく考えました。
そうするうちに毛むくじゃらの毛が
ほとんど乾いて、静電気のせいで
四方に広がる頃、
ついにゲスターは、
ラナムンが、しきりに
二番目の皇女、三番目の皇子、
四番目の皇子の三人を
あらかじめ後継者に
決めようとしたことと、
関連があるのではないかという
結論に至りました。
ゲスターはしばらく悩んだ末、
毛むくじゃらを置いて、
一人で狐の穴の中に消えました。
毛むくじゃらたちは
互いに見つめ合った後、
ゲスターが残していったビスケットを
食べました。
消えたゲスターが再び現れた所は、
議長とコーヒーを飲んでいる
ギルゴールの隣でした。
ギルゴールは、突然、ゲスターが
テーブルの横に立っていると
びっくりしたと言って眉を顰めました。
なぜ、一緒に
コーヒーを飲んでいるのかと
尋ねるゲスターを、
議長は好奇心に満ちた目で
上から下まで見下ろしましたが
ゲスターは議長を見向きもせず、
ギルゴールに、一緒に皇帝の所へ
行って欲しいのだけれど
大丈夫かと尋ねました。
ギルゴールは、
お嬢さんが自分を呼んでいるのかと
尋ねると、ゲスターは「うん」と
瞬きせずに嘘をつきました。
ギルゴールは、
どういうことかと思いながら
ゲスターの腕をつかみました。
二人があっという間にいなくなると、
議長はコーヒーが半分残っている
コーヒーカップを持って
台所へ歩いて行きました。
ゲスターが向かった所は
ラティルの部屋の中でした。
一人で昼食を取っていたラティルは
びっくりしてミルクを
こぼしそうになりました。
ラティルはギルゴールとゲスターを
交互に見ました。
なぜ、急に二人が一緒に来たのか。
しかも狐の穴で?
ゲスターは人々が驚くことを恐れて
宮殿の中では狐の穴を
あまり使いませんでした。
ところが、ギルゴールは
ラティルをあちこち見た後、
にっこり笑い、
お祝いしてもらいたくて呼んだのかと
尋ねました。
ラティルは、どういうことかと思い
目をパチパチさせながら
ギルゴールに「お祝い?」と聞き返すと
彼は片方の眉を上げ、
子供ができたことをお祝いするために
呼んだのではないのかと尋ねて
ゲスターを見ました。
それから、ギルゴールは、
お嬢さんが自分を
呼んだのではないのかと尋ねました。
しかし、ゲスターはギルゴールを
見ていませんでした。
ラティルもゲスターが嘘をついて
ギルゴールを連れて来たことを
気にしませんでした。
ラティルは予期せぬ知らせに驚き、
ギルゴールの腕を振りながら
本当なのかと尋ねました。
ギルゴールは、
そうだけれど、自分は騙されて
来たようだとぼやきました。
しかし、ラティルは、
「なんてこと! とても嬉しい!」
と叫ぶと、
ギルゴールを抱きしめました。
彼は、何かもう一言、
言おうとしましたが
口をつぐみました。
ゲスターは、
ラティルがギルゴールを
抱擁するために
後ろを向いている間、
唇をあからさまに捻りました。
予想はしていたけれど、
ラナムンの企みを確認すると
さらに不愉快でした。
やはり、最近、
黙って見ていたせいで、
怖いもの知らずになっている。
また潰してやる時になったと
ゲスターは考えました。
彼はラティルの子供が
自分の子供だとは
考えもしませんでした。
その瞬間、ラティルは
ゲスターの背中を突然叩き、
父親はゲスターだ。
それを知ってギルゴールを
連れて来たんだと言いました。
その言葉と同時に
ゲスターの魂が飛んでいきました。
返事がないので、ラティルは驚いて
ゲスタの表情を見ました。
ゲスターは完全に壊れていました。
どのような経緯で
ギルゴールが議長と
コーヒーを飲む仲になったのかは
分かりませんが、
アリタルの話を分かち合えるのは
議長だけ。
まだ、わだかまりは
残っているかもしれませんが
ギルゴールと議長が
時々会って話をする
茶飲み友達になっていたらいいなと
思いました。