974話 外伝83話 ラティルはゲスターが子供の父親だと告げました。
◇予想外◇
ラティルはゲスタの目の前で手を振り
「生きているよね?」と尋ねました。
ゲスターの目は
焦点が合っていませんでした。
ゲスターが
何の返事もできないでいると、
ギルゴールが
彼を蹴飛ばそうとしました。
足が当たる前に、ゲスターは
反射的に手を動かしました。
ギルゴールの足を掴んだゲスターは
無意識のうちにギルゴールの足を
折ろうとしましたが、
ラティルと目が合うと
正気に戻りました。
彼は素早く手から力を抜きました。
しかし表情も手も、
まだギクシャクしていて、
つい泣きべそをかいてしまいました。
ラティルは当惑して
彼の腕を叩くと
もしかして父親になりたくないのか。
それなら、
クラインとかザイシンもいるからと
言うと、ゲスターは
「いえ、なりたいです!」と
慌てて叫びました。
大変なことになりそうな話だ。
ギルゴールは事態を見守ると、
鼻で笑って行ってしまいました。
ラティルはゲスターの顔を
注意深く見て、
ようやく正気に戻ったかと
尋ねました。
ゲスターは、
先程は、とても驚いたと言って
ラティルに謝りました。
ラティルは、
もう大丈夫かと尋ねました。
ゲスターは、
まだ、心臓が、
あまりにもドキドキしていると
答えました。
ラティルは大笑いし、
知っていてギルゴールを
連れて来たのではなかったのかと
からかいました。
もちろん、ゲスターは
ラティルの妊娠を推測していました。
しかし、自分の子供だとは
全く思いませんでした。
しかし、考えてみれば
愚かなことでした。
よくよく計算してみると、
ラティルが妊娠した時期に
彼女は忙しすぎて、側室たちを
ほとんど訪ねることが
できませんでした。
ゲスターは、
あまりにも混乱していると言って
よろめくと、ラティルは
すぐに彼を支えました。
そして慰めの言葉を
かけようとしましたが、
ラティルとゲスターは
同時に違和感を覚えました。
いつものように
猫をかぶっているゲスターは、
今、自分は、
こんなことをしている場合ではないと
思いました。
ラティルも、
ひとまずゲスターを支えてみたけれど
妊娠しているのは彼ではなく
自分なのにと思いました。
ゲスターは、これを認知するや否や、
すぐに足に力を入れて
ラティルを自分の懐に入れました。
ラティルは思わず姿勢を変えましたが
我慢できずに笑い出しました。
ラティルは、
何をしているのか。
自分は元気だと言いました。
◇喜び、一転怒り◇
ゲスターは、
慌ただしく廊下を歩きました。
いつも落ち着いて歩くゲスターが
普段の倍、速く歩くと、
人々は何かあったのかと思い、
足を止めて覗き込みました。
一番驚いたのは、
ゲスターが部屋にいると思った
トゥーリでした。
部屋の中に行ったら、
ゲスターはいなくて、
動物三匹だけが
ソファーに並んで座っていました。
慌てて
ゲスターを探しに出たトゥーリは
ゲスターが
よろめきながら歩いて来る姿を
発見すると、
息が詰まりそうになるほど
走って来ました。
彼はゲスターの真っ赤な顔を見て
驚いて飛び上がりました。
トゥーリは、
ゲスターの顔が赤いので、
どこか具合が悪いのか。
熱があるようだと言って
ゲスターの額に手を当てて
泣きべそをかきました。
ゲスターは
トゥーリの手を引っ張りながら、
消え入りそうな声で、
赤ちゃんができたと呟きました。
「えっ?」
トゥーリは、
すぐには理解できませんでした。
ゲスターはトゥーリの耳をつかみ
自分が父親になるかもしれないと
囁きました。
トゥーリは目を丸くし、
自分は三匹とも
オスだと思っていたけれど、
鳥が妊娠したのか。
それとも、レッサーパンダが
妊娠したのかと尋ねました。
ゲスターは面食らって
トゥーリをぼんやりと見ました。
トゥーリも一緒に
魂が抜けたように
ゲスターを見ました。
遅ればせながら彼は
「まさか・・!」と口を開きました。
ゲスターは唇を噛み締めて
頷きました。
トゥーリは自分の失言に気づき
やたらと口を叩くと、
自分は狂ったようだ。
この口が狂ったようだ。
赤ちゃんが降って来るなんてと
トゥーリが
しどろもどろになると
ゲスターの顔が
一層赤くなりました。
トゥーリは
一人でしゃべり続けた後
確かなのかと尋ねました。
ゲスターは、
よく分からないと答えました。
もどかしくなったトゥーリは、
坊ちゃんがよく分からなかったら
どうするのかと叫びましたが
きっと妊娠した。
坊ちゃんの時が来たと言い直すと
どっと涙を流しました。
通りかかった宮廷人たちは
何かと思って眺めました。
トゥーリは我慢できず、
ハンカチを取り出して振りながら
うちの坊ちゃんが妊娠したと
大声で叫びました。
ゲスターは顔を真っ赤にして
トゥーリを止めましたが、
彼は半分魂が抜けて、
自分が何を叫んでいるのかも
分かりませんでした。
通りかかったクラインは
その姿を見て舌打ちし、
とうとう、あいつらは
おかしくなったと言いました。
アクシアンは、
皇子は気を引き締めて欲しい。
嫉妬しているからといって
安心して、そうしてはいけないと
頼みました。
クラインは首を横に振りながら
歩き続けました。
彼らが通り過ぎてから、
しばらくしてトゥーリは
自分の失言に気づきました。
二人はさっさと逃げ出すようにして
自分たちの住居に戻りました。
すでに三匹の毛むくじゃらの姿はなく
彼らが巻いていたタオル三枚だけが
ソファーの上に散らばっていました。
普段ならトゥーリは
悲鳴を上げていたところでしたが
彼は、毛があちこちについた
タオルを見ても、
自分たちは、これから
何をしなければならないのかと
ニコニコしながら尋ねました。
ゲスターは目をパチパチさせながら
「何をする?」と聞き返しました。
トゥーリは
ベビー用品など、
用意するものはないのかと尋ねました。
ゲスターは、
しばらく目を丸くしました。
彼の頭の上に、いくつかの物が
泡のように浮かび上がりました。
すぐに彼は興奮しながら、
当然だ。すべり台を
もっと作らなければならない。
他の子供たちにあげたものより
もっと大きくて、もっと巨大なものを
と答えました。
トゥーリは、
大きすぎると怪我をすると反論すると
ゲスターは、
ぬいぐるみも作って、
服も作らなければと言いました。
トゥーリは、
ゆりかごも探さなければと
提案しました。
ゲスターは、
ゆりかごは、どんな木で作るのかと
尋ねました。
二人は何を準備すべきか議論するために
その場で、夕方まで騒ぎました。
どれほど夢中になっていたのか
トゥーリは、自分のお腹が
グーグー鳴る音がすると、
ゲスターに、
夕食も持って来ていなかったことを
思い出しました。
トゥーリは、ゲスターに謝り
何を食べるかと尋ねました。
ゲスターは首を横に振り、
ソファに座り込むと、
食欲がないと言いました。
トゥーリは、
それでも食べなければならない。
坊ちゃんが健康であってこそ、
子供の面倒もよく見られる。
坊ちゃんは体が弱いではないかと
言いましたが、言った後で、
坊ちゃんの体は弱かったのだろうかと
疑問に思いました。
逆にゲスターは、
その言葉に気が変わり、
何でもいいので持って来てと
指示しました。
トゥーリが出て行くと、
ゲスターは興奮し、後ろ手を組んで
部屋の中を行ったり来たりしました。
扉を見ると飛び出したかったし、
窓を見ると飛び越えたいと思いました。
すぐにラティルの所へ行って
二人の未来について話したいと
思った瞬間、ゲスターは
急いでトゥーリを追いかけて
彼を呼び止めました。
トゥーリは、すぐに戻って来て
どうしたのかと尋ねました。
ゲスターは、
今日、良い知らせを聞いたので
皇帝が来るかもしれない。
だから念のために、
食事は二人前持って来てと
指示ました。
トゥーリは、
それを思いつかなかった。
そうすると返事をすると
嬉しそうに走り去りました。
ゲスターはその姿を見て
心臓を押さえました。
彼は他の子供たちには
興味がありませんでした。
しかし、
自分とラトラシルの子供なら、
とても興味がありました。
子供は黒魔術でも
作れないからでした。
ゲスターは、子供に黒魔術を教えた後
一緒に研究することを考えると、
とても興奮しました。
ところが、いくら待っても
ラティルが来ないと、
ゲスターの興奮も
次第に冷めて行きました。
トゥーリが持ってきた食べ物から
最初は湯気が上がっていましたが
徐々に減っていき、今では、
全く見えなくなりました。
トゥーリは、
ゲスターの表情がますます曇ると、
顔色を窺いながら、
また温めて来ようか。
それとも先に食べるかと尋ねました。
ゲスターは、
皇帝は忙しいようだと答えました。
トゥーリは、
他のことは分からないけれど
仕事は熱心だからと言いました。
ゲスターは時計を見ました。
ラティルの夕食の時間でした。
急な案件が突然現れなければ、
ラティルは、
この時間に一人で食事をしたり、
側室を呼んで食事をしました。
ゲスターは、
皇帝が執務室にいるか確認して来て。
食事をしたかどうかも。
まだ食事を済ませていないなら
おやつを持って
自分がそちらへ行こうと思うと
指示しました。
トゥーリが出て行くと、
ゲスターは
クッションをいじりながら
目を細めました。
まさか、ラトラシルは
今日のような日に、
他の男の所へ行くことはないだろうと
呟きました。
しばらくしてトゥーリが
急いで部屋に戻って来ました。
しかし、トゥーリは戻って来ても
すぐに口を開くことが
できませんでした。
ゲスターは抱き抱えていたクッションを
横に片づけながら、
皇帝はどこにいるのかと
慈しみ深く尋ねました。
トゥーリが返事を躊躇っていると
ゲスターの表情が固まりました。
トゥーリは、
ずっと騙すことはできなかったので
皇帝はラナムンの所へ行った。
執務室まで行く必要もなかった。
すでにラナムンの住居の周りに、
皇帝の近衛騎士たちが
立っていたからと
無理矢理、明るく話しました。
トゥーリは、
たぶんラナムンを
慰めに行ったのだと思う。
早く食事をするように。
いえ、食べ物を温めて来ると言うと
冷めた食べ物の皿を持って
外に出ました。
扉が閉まるや否や、
ゲスターはクッションを持ち上げて
壁に投げつけました。
◇本音は隠す◇
ラティルは、
ゲスターが自分を待っているとは
思いませんでした。
ラティルが、
今、ラナムンを訪ねて来たのは
良い知らせを伝えるためでした。
ラティルは、
とてもタイミング良く
新しい赤ちゃんができた。
これで後継者の件は
自然に後回しにできる。
プレラを後継者候補から
除外することも、
うやむやにできると言いました。
すでにラナムンは、
ラティルより先に知っていたので、
それほど
驚くことはありませんでした。
しかし、ラナムンの表情は
いつも、そこそこだったので、
ラティルは、彼が驚かなくても
疑うことなく話を続けました。
プレラが後継者になる可能性は
低いけれど、
他の口実で、なれない方がマシだ。
このような事故に巻き込まれて
資格が剥奪されれば、
子供が傷つくのではないかと言って
ニッコリ笑うと、ラナムンは
無理やり口角を上げました。
彼は、
プレラが傷つきにくくなるので
幸いだと言いました。
実際、彼は、そう思ったけれど
今回、ロルド家が
自分の首を絞めずに済んだことは
残念でした。
しかし、ラナムンは、
もうこのような本音を
ラティルの前で
表わしてはならないということを
知っていました。
他の人の前では大丈夫だけれど
ラティルの前ではダメでした。
◇子供ための策略◇
ゲスターは夜遅くまで起きていて、
机の前に座り、
本を熱心に読みました。
トゥーリは濃いコーヒーを
机の上に置きながら、
この続きを読むのは明日にして
今日は、もう寝るように。
このままだと健康を害すると
心配しましたが、ゲスターは
先に寝るように。
これだけ見てから寝ると
返事をしました。
トゥーリは、
ゲスターが読んでいる本を
見ましたが、
古代語で書かれているので
一文字も読めませんでした。
トゥーリは、
どんな内容が書かれているので
そんなに熱心に読んでいるのかと
尋ねました。
ゲスターは、
自然に病気にさせる方法と
心の中で呟きながら、
ただ、勉強しているだけだと
答えると、照れくさそうに笑い、
トゥーリが持って来た
コーヒーカップを握りました。
トゥーリはため息をつくと、
坊ちゃんは、
きっといい父親になる。
ラナムンは子供を甘やかすだけで
サーナットは
二番目の皇女が勉強好きなのに、
しきりに剣を教えたがっている。
カルレインは、
子供に厳しくながらも放っておくし、
タッシールは忙しくて
四番目の皇子に
きちんと会う時間もない。
メラディムは、
まあ、言うまでもない。
坊ちゃんは、厳格でありながらも
優しくて賢い父親になると
言いました。
ゲスターは、
そうならなければと答えながら、
心の中で
皇帝の父親にならなければならないと
呟きました。
ゲスターは、再び本に目を向け
何時間も子供の将来について
考え尽くしました。
彼は子供に黒魔術を習わせる。
黒魔術の基礎と現代の学問を
少しずつ教えて、
子供が頭が良くなければ、
きちんと帝王学も
勉強させなければならない。
行く手を阻む者たちを
一人一人排除すれば
後継者になるだろう。
そして、後にラトラシルが
皇帝の仕事をしたくなくなった時、
皇帝の座を譲位し、
自分は皇帝と二人で旅行しながら
平和で楽しく生きていけばいい。
完璧だ。
しかし、しばらく微笑んでいた
ゲスターは、
再び表情を固めました。
この楽しい未来のためには、
何人かの側室を、
まず片付けておかなければ
なりませんでした。
また、ラトラシルが、
これを知らないようにする
必要がありました。
ゲスターは、
どうすればいいのかと考えました。
ゲスターに子供ができたら
少しは性質が穏やかになるかと
思いましたが、
やはりゲスターはゲスター。
子供ができれば、新たな野望ができ
策略を巡らすことになるのですね。
子供まで黒魔術師にして、
他の側室たちや子供たちを
苦しめる未来は見たくないです。