975話 外伝84話 ラティルは国務会議の時間に、自分の妊娠の知らせを伝えました。
◇危ない家門◇
ラティルは、
事がこうなったので、後継者の件は
後でまた話すことにしようと
指示しました。
それを聞いた大臣たちは
派閥ごとに表情が変わりました。
ラティルは、
ロルド宰相の派閥が
集まっている所を見つめながら
ゲスターも、
確かでないことでプレラを疑って
後継者の資格を剥奪するという
罰を下すのは不当だと言った。
ロルド宰相は、
ゲスターを本当に善良に育てたねと
褒めました。
ロルド宰相は口角を上げて
感謝するように黙礼しました。
それから、ラティルは
別の方に顔を向けると、
だから一番目の皇女の
後継者資格に関することも、
後で後継者を決める時に
また議論してみることにすると
言いました。
ロルド宰相は
何も言えませんでした。
昨夜、 使いの者が、
皇帝の妊娠している子供が
ゲスターの子供である確率が高いと
知らせに来たからでした。
このような状況で、
彼と彼の一派が
プレラ皇女のことで食い下がるなら、
怒った皇帝が、後継者を
今の二番目の皇女、三番目の皇子、
四番目の皇子の中で
決めてしまうかも
しれないからでした。
彼はアトラクシー家の人々に
まだ怒っていましたが、
全力を尽くして怒りを抑えました。
会議が終わると、
宰相はすぐに本宮の外に出て、
後ろ手を組んで
ため息をつきました。
彼に近い人々は、宰相を囲みながら
かえってよかった。
皇帝が妊娠の知らせを
一日か二日遅れて知っていれば
生まれる赤ちゃんが
後継者になる可能性が
完全に消えるところだった。
一番目の皇女は力が不安定で、
いつ事故を起こすか分からないので
また後で、
追い出す機会があるだろうと
慰めました。
ロルド宰相は頷くと、
その通りだ。
一番目の皇女を抑え込むより
うちの子が上に行くことの方が
もっと重要だと言いました。
ゲスター様の子供なら
事故も起こさず頭もいい。
きっと聖君の資質を持った
赤ちゃんが生まれると
しきりに良い話を聞かされると
ロルド宰相は、わだかまりを捨て、
冗談を言って笑うことができました。
アトラクシー公爵は、
その後ろ姿を遠くから眺めながら
目を細めました。
プレラを苦しめた悪友が喜ぶ姿を
見たくありませんでした。
侍従長は、公爵の傍らで
気をつけなければならない。
ロルド家の血を引く子供が生まれたら
彼らがどう出るか分からない。
これから少しも油断してはいけないと
静かに忠告しました。
アトラクシー公爵は、
当然だ。ロルド家には
少しも安心できないと言いました。
◇何かおかしい◇
まもなく、ラナムンも
国務会議での話を伝え聞きました。
機密会議でなければ、閣議の案件は
分かりにくくありませんでした。
ラナムンは
会議の内容を頭の中で整理し、
母親が送って来た
プレラのおもちゃを片付ける途中、
カルドンにプレラの様子について
尋ねました。
カルドンは、
少し落ち着いたけれど、
まだ三番目の皇子には怒っている。
資格が
剥奪されたわけではないけれど、
このことで、色々と良くない話を
たくさん聞いたからだと答えました。
ラナムンはため息をつき、
そうでなくても
二人の仲が悪いので心配だ。
むしろ、二番目の皇女と
さらに仲良くなって、
三番目の皇子と
さらに悪くなったと言いました。
カルドンは、
まだ幼いので、 時間が経てば、
今よりは寛大になるだろうと
肯定的に話しましたが、
ラナムンは簡単に
安心できませんでした。
結局、彼は
おもちゃを片付けようとしていた
手を止めて、
ソファーに腰を下ろしました。
カルドンは、
一人でおもちゃを片付け続け
ラナムンを覗き込みながら
ゲスターの子供ができたのが嫌かと
尋ねました。
ラナムンは、
今後、ロルド宰相がどう出るか
分からないと答えました。
カルドンは、
警戒しなければならない。
けれども、
今回、彼も運が良かった。
本当に一日か二日、
遅く知ることになれば、
自分の首を
確実に締めることになったから。
それでも、子供が
ゲスターの子供でなければ
良かったのに、
皇帝がゲスターの子供だと
すぐに断言したので、
その可能性は低いですよねと
尋ねました。
ラナムンは答えませんでしたが、
カルドンは一人で
本当に運もいい。数年間、
子供がずっとできなかったのに
突然、
ゲスターの子供ができるなんてと
ブツブツ言い続けながら
おもちゃの整理を終えて、
箱を持って廊下に出ました。
扉が閉まりましたが
ラナムンはそれでもソファーに座り
顎だけを触りました。
遅ればせながら、彼はおかしいと思い
頭を傾けました。
皇帝はロードの体なので、
とても健康で傷の回復も早い。
側室も若く健康なので、
皇帝が側室と
夜を共に過ごすようになると、
子供ができた。
しかし、ここ数年は、
皇帝が側室と夜を過ごしても
おかしいほど子供ができなかった。
その時は、皆一緒にできないから、
不思議に思いながらも、
皆、気に留めなかった。
すでに生まれた子供も多かったし。
ところが、突然、この時期に
ゲスタ一人に子供ができたので、
何か不思議なところがありました。
ラナムンはカルドンが戻って来ると
この不思議な点について
話しました。
最初、カルドンは、
何も考えずに聞いていましたが
後になって、
確かにおかしい。
ゲスターは黒魔術師なので、
もしかして何かしたのだろうかと
呟きました。
ラナムンは、
そんなはずがないと
言おうとしましたが止めました。
ゲスターでなくても、ロルド家も
その可能性がありました。
ラナムンは
父に相談してみなければと言うと
カルドンは、
人を送り、時間がある時に
立ち寄って欲しいとお願いすると
返事をしました。
◇子供を奪う◇
ゲスターの子供ができたという
知らせに、憂鬱になったのは
ラナムンだけではなく、
他の側室たちも、
それほど気分が良くないのは
同じでした。
ゲスターの評判が悪いだけに、
側室たちは、
他の側室たちに子供ができたと
聞いた時より、
特に気分が落ち込みました。
特にクラインは、数日前、
ゲスターとトゥーリが
我を忘れていたのが
このことのためだということを知ると
後になって、お腹が痛くて
食事も、ろくにできないほどでした。
クラインは、
とんでもない。
あんなにムカつく奴が
父親になるなんてと息巻きました。
アクシアンは舌打ちし、
これで、大神官とギルゴールと
皇子の三人だけが
子供がいないのですねと
現実を指摘しました。
クラインは「嫌だ!」と叫ぶと
両手で自分の頭を覆って
悲鳴を上げました。
バニルは、
苦しそうに歩き回っている
皇子を見ると、
ギルゴールは、
自分の甥だか親戚とかいう人を
ここに呼んで
一緒に過ごしていて、皇帝も、
とても良く面倒を見ているので
皇子も甥を
一人連れて来たらどうかと
息を殺しながら提案しました。
クラインは、両手を下ろして、
それとこれとは違うと
叫びました。
しかし、バニルは
シピサがラティルの
前世の子であることを
知らなかったため、何が違うのか
理解できませんでした。
バニルは、
できないことなんてない。
五番目の皇女も養女だけれど、
皇帝は皇女として
育てていると反論しましたが、
クラインは、
あの子は人間ではない。
そして、自分は、
皇帝と自分の子供が欲しいと
主張しました。
アクシアンは、
それは皇子が努力するしかないと
今回も断固として忠告しました。
もちろんクラインは
努力したかったけれど、
努力をしようとしても、
一緒に空を見て、
星を見る人がいてこそ
可能なのではないかと思いました。
彼はお腹を抱えて
ソファーに横に倒れました。
アクシアンは、ため息をつくと
ヒュアツィンテ皇帝の言う通り、
カリセンに戻ったらどうか。
このままでは、本当に
病気にでもなるのではないかと
心配だと提案しました。
しかし、クラインは
膨れっ面で拒否しました。
クラインは、
ヒュアツィンテやアクシアンが
何を考えているのか
分からないわけでは
ありませんでした。
彼も時々、自分が
ヒュアツィンテの後継者になる姿を
考えると、
未練がましくはありました。
しかし、クラインは皇帝の座に
大きな欲はありませんでした。
彼は朝から夜遅くまで
国事に明け暮れるより、
自由に過ごしたいと思いました。
それにクラインは、
もう半分不死も同然。
ここにいれば皇帝もいるし、
ずっと一緒に顔を合わせて生きる
敵のような奴らもいる。
しかし、カリセンへ行けば
長い人生を共に過ごす人もいない。
一人で離れて、
何をして暮らせばいいのかと
悩みました。
クラインはじっくり考えた後、
自分が、
あの切り干し大根の子でも奪って
育てることはできないだろうか。
カルレインが三番目の皇子を
育てているのを見ると、
大丈夫そうに見える。
自分が実の父親だと、
ラナムンが言っても、
三番目の皇子は、カルレインだけ
自分の父親扱いしていると
言いました。
アクシアンは「できる」と
すぐに答えました。
バニルは意外な返事に
心配そうに横を見ました。
アクシアンは、
念入りに磨いていた剣を下ろすと
ゲスターが問題を起こして
追い出されるとか、
皇帝に嫌われるとか、
そうでなくても、
皇帝の信頼を失えばいいと
説明しました。
しかし、バニルは首を横に振り、
もし、そうなったとしても、
皇帝は皇子ではなく大神官に
赤ちゃんを預けるのではないか。
自分はそう思うと反論しました。
その言葉に、アクシアンは、
こういうのは欲張らなければいい。
皇子が大神官と二人で
赤ちゃんを一緒に育てると言えば
皇帝は許してくれるだろう。
大神官は性格は良いけれど
神殿の仕事で席をよく外するからと
言いました。
クラインは、
二人の部下の話を聞いているうちに
表情が一気に明るくなりました。
クラインは、
二人で育てると言えば
魂胆も少なそうに見えるだろうと
言いました。
◇ラナムンの疑い◇
アトラクシー公爵は
カルドンの連絡を受けたものの
家の用事のために、
ラナムンをすぐに訪ねることが
できませんでした。
数日後、アトラクシー公爵は、
プレラが元気かどうかを先に確認し
子供が大丈夫そうに見えると
安心しました。
その後、彼は
ラナムンと昼食を共にしながら
話をしました。
アトラクシー公爵は、
今は良さそうに見えても、
ラナムンが、ずっと気を使うように。
子供の時に受けた傷は
意外にも長続きするものだからと
忠告しました。
ラナムンは、
言われなくても。老公爵の授業を
ずっと延期している。
このことで、
早く授業を受けたい二番目の皇女が
焦っている。
あの子は本当に・・・と呟くと、
アトラクシー公爵は、
レアン皇子によく似ていると
言いました。
続けてアトラクシー公爵は
二番目の皇女は
ラナムンの子供ではないけれど
良くして欲しい。
仲が悪いよりは良い方がましだと
言いました。
ラナムンは、
自分も二番目の皇女の面倒を
よく見ようとしていると
返事をしました。
アトラクシー公爵は頷くと、
自分が来る度に
面倒くさがっていたのに、
何の用事で来てくれと言ったのかと
尋ねました。
ラナムンは、この数年間、
誰よりも健康な皇帝が
妊娠しなかったけれど、
ゲスターの子供が突然できたのが
おかしいという話を
打ち明けました。
そして、
知っている通り、彼は黒魔術師だ。
もしかして、このことに、
彼の黒魔術が
関連しているのだろうかと
疑問を呈しました。
アトラクシー公爵は
じっくり考えた後、
目を輝かせながら納得し、
あえて皇帝に触れることはできなくても
他の側室に触れることはできる。
避妊薬を作って側室に飲ませたかもと
意見を述べました。
世間には避妊薬として
密かに流れている薬が
あることはあるけれど、
どれもが、とても危険でした。
しかも、全く効果がなければ、
お金を捨てることになりました。
そして、そのような薬は、深刻な場合
常だったので、
嫌な人にあげるのでなければ、
誰でも自分の口に
そのような薬を入れませんでした。
しかし、ゲスターは黒魔術師なので
副作用をなくした避妊薬を
作ることもできるのではないかと
思いました。
しかし、
いざ話を切り出したラナムンは
父親を呼ぶ時は、
ゲスターを疑ったけれど、
今考えてみると、
ゲスターがそんな薬を使うのは
難しそうだと言いました。
アトラクシー公爵は
側室たちは皆、同じ台所で
食事とおやつをもらうので
使えるのではないかと反論しました。
しかし、ラナムンは、
皇配は、
もう、ここで過ごしていないので
別々に食べているけれど、
皇配も子供ができなかったと
言いました。
公爵はしかめっ面をしましたが
ラナムンの言葉に頷きました。
ラナムンはため息をつくと
ほとんど食べていない皿を
押し退けました。
そして、気になるけれど、
このことは、
やはりそのままにしておくと
言いました。
ところが、アトラクシー公爵は
突然ラナムンの腕を握り
「ちょっと待って」と言いました。
なぜかと思ってラナムンが見つめると
公爵の目つきが
普段より冷たく沈んでいました。
ラナムンが、
どうしたのかと尋ねると、
アトラクシー公爵は、
このことは、高い確率で
誰かの手によるものではないかと
意見を述べました。
ラナムンは、
ゲスターだろうかと尋ねました。
アトラクシー公爵は、
それは分からないし
違うかもしれないし。
しかし、偶然起こった確率よりは
誰かが手を使った確率が
高そうに見えると答えました。
ラナムンはアトラクシー公爵が
あのように目を輝かせる意図を
推察できませんでした。
ラナムンは、
皇帝に話した方がいいかと
尋ねました。
アトラクシー公爵は、
そんなことをしても役に立たない。
犯人がいたとしても
証拠はすべてなくしただろうし
皇帝が知れば、事が大きくなり、
そうなると、よりうまく証拠を
隠すだろうと答えました。
依然としてわけの分からない
ラナムンに、アトラクシー公爵は
密かに、このことを
調査するようにしろと指示しました。
分かったと返事をするラナムンに
アトラクシー公爵は、
念のために、偽の証拠を作っておくと
言いました。
ラナムンは目を大きく見開きました。
クラインにとって、
他の側室たちと喧嘩して
過ごすことも
人生の一部になっているように
思えました。
もしかしたら、クラインは
カリセンにいた時、
腫物を扱うようにされていて
彼と真剣に向き合っていた人は
いなかったのかもしれません。
子供がいなくて寂しいけれど、
ラティルだけでなく
他の側室たちも、
離れ難い存在になっているのかも
しれません。
ロルド宰相は
他の側室の子供に良くしろと
言わないような気がします。
以前も、そう思いましたが
アトラクシー公爵の方が
善人のような気がします。