980話 外伝89話 どんな意外なことが起こったのでしょうか?
◇不気味な本音◇
最初、ゲスターは
黙って酒を飲みました。
彼は疲れた表情をしていました。
ラティルはゲスターに
大量の酒を飲ませるために
グラスが空になる度に
酒を注ぎ続けました。
ゲスターが続けて姿勢を
3、4回変えた頃、
ラティルはゲスターに
大丈夫かと尋ねました。
ゲスターは「いいえ」と答えました。
ラティルは、
大変だったのではないかと尋ねると、
ゲスターは、
大変というより傷ついた。
ラナムンが、あんな風に
自分を裏切るとは思わなかった。
あれだけ証拠と証人を
準備するくらいなら
ラナムンとアトラクシー公爵は
自分が犯人ではないことを
知っているはずなのに
なぜそんな嘘をついたのかと言うと
ゲスターの目の周りが赤くなりました。
ラティルも、
もしラナムンとアトラクシー公爵が
本当にゲスターに、
濡れ衣を着せようとしているのなら
大きく失望するだろうと思いました。
しかし、アトラクシー公爵は
そのような人だけれど、
ラナムンは、そのような人には
見えませんでした。
ラティルはゲスターに、
さらに、お酒を勧めました。
ゲスターは、
酔っぱらうことを心配しましたが
ラティルは、
大丈夫。
ゲスターが酒乱になっても、
自分はそれを受け入れると
言いました。
ゲスターは心を痛めているのか、
なぜか、ラティルが渡す酒を
きちんと受け取って飲みました。
ラティルはゲスターが
グラスを空ける度に
彼に、あれこれ話しかけてみました。
そのように、
何回か試みているうちに、
ついにゲスターの内心が、
少し見え始めました。
ラティルはゲスターに、
ハラビー事件のせいで
ラナムンとの間が、
かなり拗れたのかと尋ねました。
ゲスターは、心の中で、
[すでに拗れたところから、
さらに拗れたというか、
そのままというか・・・]
と答えましたが、実際の口からは、
ラナムンは、そのようだ。
自分は今回の件で
プレラの肩を持ったけれど、
ラナムンから見れば
自分もロルド家の人間だからと
答えました。
しかし、心の中では
[こうなると分かっていたら、
娘が濡れ衣を着せられて悔しがっても
そのまま放っておいたのに]
と言いました。
ゲスターは完全に酒に酔ったのか、
本音が、とてもはっきり聞こえると、
ラティルは、もういいと思って
さらに酒を勧めるのをやめました。
しかし、ゲスターは、
自分で酒を注いで飲みました。
ゲスターは、
[自分がプレラの味方をして、
あの事態を、そこで止めなかったら
ラナムンの思った通りに
事が運んだだろう]と
心の中で言いました。
これは、どういうことなのか。
ラティルが
避妊薬の件について聞く前に
気になる話が現れました。
ラティルは堂々と、
「ラナムンの思い通りって、
何を言っているのか?」と
聞き返すところでした。
しかし、ゲスターが
酔いから覚めた後のことも
考えなければならないので、
本音で堂々と質問することは
できませんでした。
どんな質問をすれば、
「ラナムンの思い通り」が何なのか
答えてくれるだろうかと
考えたラティルは、
ゲスターがプレラの味方をしたのに、
ラナムンが怒った理由は
何だと思うかと尋ねました。
ゲスターは、
自分がロルド家の人間だからだろうと
答えました。
ラティルは、
それだけが理由ではないのではないかと
あれこれ遠回しに聞きましたが、
ゲスターは、「ラナムンの思い通り」が
何かについては
これ以上、考えませんでした。
結局、ラティルは、
その部分について、
さらに聞くことを諦め、
元々調べようとしていた
避妊薬の件について尋ねました。
ラティルは、
ゲスターが避妊薬を
使ったのではないよね?
数日前、ゲスターは、
ラナムンに狙われているようだと
言っていたけれど、避妊薬の件は、
ラナムンとアトラクシー公爵が
ゲスターに
濡れ衣を着せたんだよねと尋ねました。
ゲスターは「そうです」と答えると、
心の中で、
[くそったれのアトラクシー公爵。
引退して、どこか旅行へ行け。
馬車事故で、
死体も見つからないようにしてやる。
自分たちの計画が失敗したからといって
いきなり避妊薬を
自分のせいにするなんて]
と悪口を吐きました。
ラティルは、
とても複雑な感情が浮び上がって来て
唇をくねらせながら顎を撫でました。
やはり、避妊薬は、ゲスターが
濡れ衣を着せられていました。
しかし、これとは別に
ゲスターの本音も非常に不気味でした。
しかも、ラナムンの、その計画とは
一体何なのかと考えていると、
その疑問が解ける前に、
ゲスターの本音が
波のように押し寄せて来ました。
[自分が避妊薬を使うなんて
馬鹿げていてる。
自分がそんなことをするなら、
そんな安易な方法は使わない。
お前を完全に不能にしてしまう。]
この「お前」は
ラナムンの話だよね?と
ラティルが思っていると
[やはり、何年もの間、
あいつらを放っておき過ぎた。
計画通りに病気に偽装して
一人ずつ片付けてしまおう。
これ以上は
大目に見ることができない。
今日一番前で暴れた奴は誰だっけ?
あいつは病気にすることもない。
家に悪霊を放ってしまおう]と
本音が聞こえて来ました。
ラティルは質問を止め、
深刻な目でゲスターを見ました。
ラティルはゲスターの猫かぶりを
面白がっていて、彼が性質を抑えて
自分によく見せようと
弱いふりをする姿は、
それなりに可愛い面がありました。
しかし、ゲスターの、
あの率直極まりない計画を
生々しく聞いているうちに
会議の時とは違う方の頭が
ズキズキしてきました。
計画通りに
側室を一人ずつ片付けるって?
ラナムンに
復讐しようとしているわけではなく
計画通りに側室を片付ける?
避妊薬の件は、ゲスターが
濡れ衣を着せられたのは事実だけれど
避妊薬事件がなかったら、
ゲスターは、
他の側室を病気にさせて
追い出すつもりだったと
いうことではないか。
これを、一体
誰に怒らなければならないのか。
ラティルはゲスターの瞳が
ますます濁っていくのを見て、
彼が取ろうとする杯を先に取り
もう飲むのを止めた方がいいと
止めました。
◇ラティルが決めること◇
翌朝、
ラティルが食事をしようとした時
タッシールが慰めにやって来ました。
そうでなくても、
もどかしかったラティルは
タッシールと一緒に食事をしながら、
ある人が、ある家で、
宝石を盗もうと計画していたと
仮定する。
ところが、その人が宝石を盗む前に、
宝石の持ち主のせいで
万年筆を盗んだという濡れ衣を
着せられたと話しました。
タッシールは、
ゲスターとラナムンの話かと
尋ねました。
ラティルは口をつぐみ、
タッシールを恨むように見つめました。
彼は口を叩いて、目で笑うと
口は挟まない。
これは宝石の持ち主の話ですよねと
聞き返しました。
ラティルは、
気づいたのなら、そのまま話す。
自分が調べてみたところ、
ゲスターが避妊薬を使ったのは
確かではなく、濡れ衣だ。
けれども、ゲスターがラナムンを
他の方法で攻撃しようとしたのは
事実だと説明しました。
そして、昨日の当惑した感情が
浮び上がって来たので
ラティルは再びため息をつきました。
それに、タッシールには、
ゲスターがラナムンを
攻撃しようとしているとだけ
言ったけれど、
実はゲスターの攻撃対象予定者は
他の側室全員でした。
ラティルは、
タッシールなら、この件を
どう処理するのかと尋ねました。
彼は、曖昧だと答えました。
ラティルは、
大丈夫なので、正直に言ってみてと
促すと、タッシールは、
ゲスターが宝石を盗もうとしたことを
どうして知ったのかと尋ねました。
ラティルは、
あまり率直に言わないで、
少し気をつけて言ってくれと
言い直すと、
タッシールは笑い出しました。
彼があんな風に笑うと、
ラティルも少し気が緩みました。
最近、タッシールが
たくましい姿を見せると、
ラティルも一緒に
安心するようになりました。
タッシールは目玉焼きを切って
ラティルの口に運びました。
彼女が話ばかりして
全く食べ物を食べないので
心配になったからでした。
ラティルは口を開けて食べましたが
味を感じませんでした。
タッシールは、
心の中では、
ラナムンとゲスターの両方を
罰するように言いたい。
そうすれば、
恋敵二人がいなくなるので、
タッシールはとても嬉しい。
一番目の皇女と六番目には
自分が良い継父になってあげると
言いました。
ラティルは、タッシールに
ふざけないでと言いました。
タッシールは、内心、
本気なのにと思いました。
しかし、ラティルが信頼する夫として
残るために、本心は、ここまでしか
言わないことにしました。
それ程、
受け入れたいことではないけれど、
皇帝の側室に対する気持ちは
皆、似たり寄ったりだからでした。
タッシールは、
慎重に考えるふりをしながら、
会議の時に出た証拠を見た。
うまく、はめ合わせていたけれど
全て、直接の証拠ではない。
ゲスターが避妊薬を使用したと
推測できる証拠であって、
犯人だと確定する証拠ではない。
アトラクシー公爵の一派は
しきりに瓶を問題視しているけれど
ロルド宰相と
サーナット卿が言ったように
ゲスターの瓶に
聖水を入れようと提案したのは
自分だった。
アトラクシー公爵の方は、
ゲスターがそれも計算して
瓶を作ったと言うけれど、
このタッシールは
ゲスターに利用される人ではないと
話しました。
実はタッシールは、
ゲスターがくれた香水の香りは
とても良かったけれど、
使うのが、何となく気にかかり
皆一緒に捨ててしまおうという下心で
その瓶を使おうと言ったのでした。
今もタッシールは、
ゲスターがくれた香水が問題なら
香水が問題であって、
瓶の問題ではなかったと思いました。
誰も知らないうちに
ゲスターがあちこち歩き回って
瓶に避妊薬を詰め込んだという証拠は
全くない。
だから、アトラクシー公爵の一派が
どのように言い張っても、
このことでゲスターを
処罰することはできない。
実際、彼らも、ゲスターが
処罰されるとは思っていないだろうと
言いました。
ラティルは、
彼らが望んでいることは何かと
尋ねました。
タッシールは、
ゲスターが皇帝の寵愛を失い、
ゲスターの子供は
他の側室が育てることになることだと
答えると、
降伏を宣言するかのように
両手を上げながら笑い、
このタッシールはここまでしが
口を挟まないと告げました。
ラティルは、
もっと話してみてと促しましたが
タッシールは断り、
これには正解がない。
ラナムンとゲスターをどうするかは
皇帝が決めないといけない。
自分が皇帝に代わって
決定することはできないと
返事をしました。
◇アトラクシー派が優勢◇
その日の午後、国務会議が開かれると
アトラクシー公爵一派は、
再びゲスターに噛みつき始めました。
しかも、 今回、中立派が
アトラクシー公爵一派側に
集まったらしく、
ゲスターを非難する声は、昨日より、
さらに大きくなりました。
ゲスターが避妊薬を入れたというのは
憶測ではないか。
ゲスターが入れるのを見た人もいないし
避妊薬を作って使ったのを
見た人もいないのに、
ゲスターにしかできないから、
むやみにゲスターを罰しろと言うのか。
そのように考えるなら、
聖水を作った人こそ
避妊薬を配るのに最適だっただろうと
ラティルは苛立ちながら
話しましたが、大臣たちは、
当然、聖水を作ったのは大神官であり、
大神官は、そのような人ではないと
思いました。
ラティルも腹が立って反論しただけで、
ザイシンがそのようなことをしたとは
考えませんでした。
ロルド宰相は、
大臣たちを一人一人叩いて、
殴りたいと思いながら、
ゲスターはプレラ皇女が
柱を壊さなかったかもしれないのに
可能性があるという理由で
処罰されてはならないと主張した。
プレラ皇女を非難できないなら、
ゲスターも非難すべきではないと
叫びました。
長い間、そのように戦った後。
ついに、大臣たちの間で
タッシールが推測した話が
流れました。
ゲスターは黒魔術師なので
子供を育てるのに適していない。
ゲスターが、
よく部屋に閉じこもって
変な研究をしていると
証人たちが言っていた。
ゲスターが
赤ちゃんを育てることになれば、
赤ちゃんも
黒魔術を身につけるだろう。
ゲスターを罰することはできなくても
赤ちゃんは、他の人に
育てさせなければならない。
いっそのこと、赤ちゃんを
大神官に育てさせたらどうか。
話を聞いているうちに
ラティルは
胸が苦しくなってきました。
ロルド宰相とアトラクシー公爵は
力が似たり寄ったりなので、
会議の世論は
中立派が、どちらに傾くかで
決まったりしました。
今回は、その中立派が
アトラクシー公爵の方に
傾いたようでした。
初めから世論を潰すとしても、
ゲスターも
何かをしようとしているし・・・
しばらく悩んだ末、
ラティルは口を開きました。
◇公共の敵◇
あなたは絶対に、
自分を信じなければならない、
ラトラシル。
ゲスターは、
会議室から遠くないベンチに
座ったまま、微動だにせずに、
会議室の扉を見つめていました。
どれほど動かなかったのか、
会議室の前を守っていた
近衛騎士たちが、我慢できずに
ずっとゲスターを
チラチラ見るほどでした。
とても悔しいトゥーリは、
うちの坊ちゃんが
何をどうしたというのか。
坊ちゃんに
赤ちゃんができたから、
公共の敵扱いをするなんて
みんな本当にひどいと言って
ゲスターの後ろで
地団駄を踏みました。
しかし、トゥーリもゲスターに
部屋で待とうと言い出すことは
できませんでした。
きっと今日も会議室で
ゲスターのことを
話し合っているからでした。
ついに会議が終わって扉が開くと、
トゥーリは
思わずゲスターの腕を引っ張り
早く行ってみてと言いました。
ゲスターが立ち上がる前、
一番先に、扉の外に歩いて来た
アトラクシー公爵と
ゲスターの視線が合いました。
最終話まで、残り20話。
やっとゲスターの恐ろしい部分を
ラティルが知ることになりました。
ゲスターはラティルの味方だけれど
側室たちにとっては驚異的な存在。
ゲスターを何とかしない限り
真の平和は実現しないと思います。
恐ろしいゲスターの本音を知って
ラティルがどう出るのか。
楽しみにしながら、残りのお話を
読み進めて行こうと思います。