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問題な王子様 32話 ネタバレ 原作 あらすじ マンガ 25、26話 効力のある呪文

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32話 花火が始まりました。

 

しばらくは、

威嚇するような音が怖くて

怯えていたエルナでしたが、

すぐに花火に

夢中になりました。

花火は、エルナの想像とは

比べ物にならないほど

華やかで美しく、

エルナは花火が上がる度に

無邪気に感心しました。

瞬きをする度に

新しい風景が広がるので

一瞬も夜空から視線を逸らすのが

大変でした。

 

ビョルンは、

花火を初めて見るのかと尋ねました。

ようやく、エルナは

一緒に船に乗っている王子を思い出し

「はい」と答えて微笑みました。

借金の重さと同じくらい

明るい笑顔でした。

「初めてです」と

恥ずかしそうに付け加えた言葉が

終わるや否や、エルナは

再び夜空に視線を移しました。

 

自分の存在を

すっかり忘れたかのように

振る舞う女を見守っていた

ビョルンは、少し虚しく笑いました。

慎ましく座って

おとなしくしていた淑女は、

どこへ行ってしまったのか。

浮かれている子供だけが残りました。

 

19歳だったっけ。

ルイーゼより若いけれど、

社交界では、ほとんど婚約して

結婚を準備する年齢でした。

 

そういえば、結婚式を行った年、

グレディスの年齢も、

目の前にいるこの女と同じだった。

ビョルンは、思いがけず蘇った

記憶を振り返りながら

夜空を眺めました。

 

4年前の夜はグレディスと一緒でした。

2人とも、このような遊びを

楽しむ方ではありませんでしたが

仲睦まじい新婚夫婦の姿を見せるという

大きな責務のため、

一緒にボートに乗りました。

 

ボートレースが行われた昼から

ずっと顔色がよくなかった

グレディスは、船の上で

殊の外、苦しそうな様子でした。

花火が始まった頃は、

病人のように顔色が青ざめていました。

 

しかし、グレディスは

最後まで自分の席を守り、

王太子妃に注がれる愛と声援に

応えました。

いかにも、立派な王妃として

認められるべき姿でした。

それは、ビョルンが、

グレディスとの結婚を快く受け入れた

最大の理由でもありました。

 

それから1週間後。

夏祭りの日、

王太子妃の体調が良くなかった理由が

妊娠だと明らかになりました。

王室の主治医は感激しながら、

もうすぐビョルンは父親になると、

お祝いの言葉を述べました。

ビョルンは、

かなり長い時間が経ってから、

それにふさわしい返事をしました。

じわじわと熱くなっている鍋の中に

閉じ込められた蛙になったような、

とても蒸し暑くて奇妙な午後でした。

 

ビョルンは花火が退屈になり

再びエルナを見ました。

まるで花が咲く瞬間を

眺めているような気分にさせる笑いを

浮かべる女でした。

 

本当に父親から逃げられるのか。

嘘をでっち上げたようではないけれど

果たして、この女に

それほどの度胸があるのか、

すぐには確信できませんでした。

ある瞬間、力なく意志が挫かれ

結局は、

父親が背中を押す所へ売られていく

「秋の花嫁」に

なるかもしれませんでした。

 

ビョルンは、

目に見えるものを信じませんでした。

うわさや評判、

あるいは外見のようなものは、

概して複雑で精巧に作られた

嘘に近かったからでした。

 

それなら真実はどこにあるのか。

一時は、必死に

悩んでみたりもしましたが、

そのような感傷的な時代が過ぎてから

長い時間が経ちました。

これ以上、

無意味な観念に執着しなくなると、

信心も疑心もなくなり、

人生は一層軽く爽やかになりました。

 

ビョルンは、そのような

軽い上っ面の日々を愛しました。

考えがそこに辿り着くと、

一瞬すべてが楽になりました。

目の前には美しい女がいて、

祭りの夜は楽しい。

そして彼は勝利した。

女が失ったトロフィーの

数倍になる賭け金を

女のおかげで

手に入れることができたので、

十分満足できる商売でした。

 

数年後には、

グレディスを回想するかのように、

何気なくエルナを

思い浮かべるかもしれない。

きれいな顔と突拍子もない行動で

大きな楽しみを与えて去った女。

一つの季節の興味の種であり、

賭けの勝利をもたらしてくれた

役に立つ手札。

 

終盤。さらに華やかになった花火に

すっかり気を取られたエルナは

頭を思いっきり

後ろに反らしていたため、

帽子が脱げてしまったという事実に

遅れて気づきました。

ボートの手すりに

ぎりぎりひっかかっていた帽子は、

エルナの手が触れたとたん、

水の中に落ちてしまいました。

 

当惑したエルナは

ボートの外に身を乗り出して

腕を伸ばしました。

帽子は取れそうで取れないので、

エルナは腹を立てました。

 

ビョルンは、

じっとしているようにと言うと

川の中に入りそうな勢いの女性の肩を

力強く握りしめました。

一斉に2人の体重が一方向にかかると

バランスを崩したボートが

大きく揺れました。

油断していたビョルンも

ボートと共に

バランスを崩してしまいました。

手すりと彼の体の間に

閉じ込められたエルナが

驚いてもがくと、

状況はあっという間に悪化しました。

 

しきりに、彼らの方を

チラチラ見ていた、ある女性が

悲鳴を上げました。

その他のボートに乗った人々の視線が

そこに集まったのは、王子の船が

半分ひっくり返った後でした。

 

事故が起きたと、助けを求める声が

船から船に伝わっていく間、

一つに絡み合ったビョルンとエルナは

川の中に落ちました。

エルナは、

絶対的な静けさと闇の中で

もがいていました。

息を吸おうとすればするほど

肺の奥底に

水が満ちるような痛みだけが

ひどくなっていきました。

 

助けてくださいと、

声を出せないまま繰り返した悲鳴さえ

消える頃、

固い何かにつかまれた体が

浮び上がりました。

大丈夫だと、

切羽詰まって荒々しいけれど

妙な安堵感を与える声が

聞こえてきたようでした。

大丈夫だと、

自分で唱えていた呪文より

はるかに効力がありました。

 

そうなんだと、

エルナは、ぼんやりと納得しました。

恐怖と苦痛は相変わらずだけれど

本当にすべて大丈夫そうでした。

意識がはっきりするまで、

その呪文は鮮明に残っていました。

一斉に降り注ぐ騒音の中でも

記憶の中のようなその声は

はっきりと伝わって来ました。

そして、自分の名前を呼ぶ声が

繰り返される度に、次第に

意識が明瞭になっていきました。

 

気がついたかと、

自分を見下ろしている王子が

投げかけた質問に、

エルナは頭を振って答えましたが

よりによってその瞬間、

激しい咳とともに、気道から

川の水を吐き出しました。

全身が震えて

涙が流れるほどの苦痛でしたが、

それよりも、羞恥心の方が

上回っていました。

 

ビョルンは大丈夫だと言うと

エルナの顔を横に向かせて、

水が気道に入らないようにしました。

咳が治まると、体のけいれんも

徐々に落ち着きました。

 

彼は、力なくぐったりとした

エルナを見下ろしながら

もう大丈夫だと言って

長い安堵のため息をつきました。

 

運が良いことに、

淑女と子供たちを乗せた大きな船が

近くにあり、

事故の知らせを聞いた人々も

直ぐに救助に駆けつけてくれました。

 

ビョルンは、

横になったエルナのそばに座り込んで

濡れた髪を撫でました。

もう一方の手は、

まだ青白いエルナの頬を

包んでいました。

 

まだ苦しい息とともに、

クスクス失笑が漏れました。

溺れた理由が帽子だなんて

考えれば考えるほど、呆れて

笑いしか出ませんでした。

 

ビョルンは、

顔を背けようとしたエルナの顎を

しっかりとつかみました。

身動きが取れなくなった女は、

なすすべもなく

彼の視線を受け入れました。

 

助けようとした時、

おとなしくしていれば

船がひっくり返ることはなかったはず。

痴漢にでも会ったかのように

振る舞っていたエルナを思い浮かべると

笑い混じりのため息が出ました。

トロフィーを盗んだその夜も

同じでした。

 

純真な田舎娘の

普通とは違った行動なのか、

卑劣で陰険なのか

区別する方法はないけれど、

色々と、厄介な女であることは

明らかでした。

すべてが終わった今は

どうでもいいことだけれど。

 

砕けるように握っていた女を放した

ビョルンは体を起こしました。

顔色を窺っていた人々は、

ようやく彼らのそばに

どっと集まりました。

 

婦人たちが大騒ぎしながら

エルナの面倒を見ている間に

ビョルンは、

びしょ濡れのジャケットを脱ぎました。

自分のジャケットを脱いだ熱心な侍従を

「大丈夫」と、

ビョルンは笑い混じりの声で

阻止しました。

ビョルンは、

船首の欄干にもたれかかって

息を整えました。

 

船はいつの間にか

船着き場に近づいていました。

噂を聞いて集まった見物人たちが

わいわい言う光景を見ると、早くも

耳が痛くなるような気がしました。

その群れにはグレディスと

ハルディ子爵夫妻、

さらにはビョルンの両親まで

含まれていました。

 

破格的に登場して

退場も、ぴりっとさせる淑女だ。

ビョルンは、

強烈な始まりと終わりを

プレゼントしてくれたエルナを

短く一瞥しました。

非常に苛立たしいことに巻き込まれて

滑稽な体たらくになりましたが、

女を賭けに利用した代価を

払ったわけだと考えれば

悔しくはありませんでした。

 

ビョルンは、

エルナに向かって頭を下げ

最後の挨拶をしました。

あの女が、計画通りに

夜逃げに成功するか、

あるいは諦めて、この都市に居座るか。

どちらになっても

自分たちはここまで。

適当に利用して利用されたのだから

このくらいなら、

かなり良い関係でした。

 

ビョルンは停泊している船から

大股で降りました。

彼は一度も振り返りませんでした。

 

遅れて知らせを聞いた

ペーターとレナードは、

ビョルンが

馬車に乗ろうとしているところへ

「大丈夫か」「ハルディさんは?」

と声をかけながら

慌てて駆け寄って来ました。

 

ビョルンは、

自分のお金を持って来てと、

賭け金を握っているレナードに

静かな声で囁きました。

その一言を最後に、馬車に乗った彼を

ぼんやりと眺めていた2人は、

ほぼ同時に舌打ちしながら

首を横に振りました。

びしょ濡れの王子を乗せた馬車が

走り出しました。

ビョルンはカーテンを閉めて

目を閉じました。

祭りは終わった。 もうすべてが

元の位置に戻る時間でした。

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王太子だった時の

ビョルンにとっての優先順位1位は

国なので、王妃を選ぶ基準も、

立派な王妃になれること。

だから、相手はグレディスでなくても

誰でも良かったのでしょうけれど

ラルスの国王は、

ビョルンと年齢が違いグレディスが

生まれた時から、彼女が

レチェンの王妃となることを夢見て

グレディスが子供の頃から

王妃を教育を施し、

将来、お前はレチェンの王妃になると

言い続けていたのかもしれません。

そんな風に育てられていれば、

そう簡単にレチェンの王妃の座を

諦められるわけがなく、

何としてでもグレディスは

ビョルンを王太子に返り咲かせ、

よりを戻す気満々で

レチェンに乗り込んで来たのだと

思いました。

しかも、国のために

ビョルンが自ら犠牲になったのに

それを利用して世論を味方にするなんて

グレディスへの怒りが増す一方です。

*****************************************

いつもたくさんのコメントを

ありがとうございます。

皆様の、白熱したコメントに力づけられ

記事を更新できています。

いつも本当にありがとうございます。

今日から2月。もうすぐ立春

とはいえ、まだ寒さが続きますので

皆様、お体ご自愛ください。

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