984話 外伝93話 ギルゴールの意外な返事とは?
◇1人で過ごしていた◇
ギルゴールは、
長く付き合っていない。
狐の仮面が
ロードと対抗者の戦いに介入したのは
ドミスの時が初めてだからと
答えました。
ラティルは目を大きく見開き、
それでは、その前はどうだったのかと
尋ねました。
ギルゴールは、
全然こちらのことは
気にしていなかったと答えました。
気にしていなかったって
どういう意味なのか。
ラティルは目をパチパチさせました。
ラティルは、
今まで長生きしていた人たち同士、
悪友であれ親友であれ、
とにかくある程度以上の関係は
あるはずだと考えていました。
ギルゴールは、狐の仮面が、
ロードと対抗者の戦いのことを
気にしていなかったと話しました。
ラティルは、
それでは、今まで狐の仮面は
何をしていたのかと尋ねました。
ギルゴールは、
親しくなかったから分からないと
答えました。
ラティルは、
そうなんだ、その通り。
狐の仮面と親しくない人は
彼の私的な時間を
知ることができないと思いました。
ラティルは、ぼんやりと
ギルゴールを見つめました。
そして、しばらくしてラティルは
そういえば、自分は、
あの数百年以上生きてきた
年寄りたちについて
知っていることが
あまりないということに
ようやく気づきました。
それだけではなく、
よくよく考えてみると、ラティルは
生まれてから今までの行跡が
比較的よく知られている
ラナムンとゲスターと
サーナット程度を除けば、
他の側室の過去について
知っていることが
多くありませんでした。
一方、ラティルは
ヒュアツィンテの過去については
よく知っていました。
秘密の恋愛をしていた時代、
彼に一つ一つ全て
聞いてみたからでした。
ラティルは、
ギルゴールの話を聞いて考えてみると
アリタルの時代にも
狐の仮面がいたけれど、
ギルゴールとアリタルとは
接点がなかったということだねと
意気消沈して呟きました。
もちろんアウエルとランスター伯爵と
ゲスターは同一人物ではないけれど、
完全に別人ではありませんでした。
一体、今、ゲスターは、
どこにいるのか。
いつも、猫をかぶっている姿を
見ていたので、
猫かぶりしない時のゲスターは
むしろ行動の予測ができませんでした。
ふと、ラティルの頭の中に
偽の未来で見た
ゲスターの狐の穴の中の
居心地の良い部屋が
浮び上がりました。
もしかして、そこにいるのかと
思いました。
◇遠い昔の記憶◇
ラティルの推測通り、
ゲスターは狐の穴の中に作っておいた
自分の部屋に閉じこもって
優雅にパンケーキを食べていました。
彼は、ラトラシルが
「帰ってきてくれゲスター」とか
「ごめんねゲスター」とか
「愛しているゲスター」という
言葉の中で、
一つでも言ってくれたら帰ろうと
とても固く決意していました。
自分の顔がラナムンの奴の顔より
どこが劣っているのか。
ラナムンの奴に、顔以外、
何の見るものがあって、
胸に抱いて偏愛するのかとぼやくと
ゲスターは蜂蜜も塗らずに
味気ないパンケーキを、
むやみに切って口に入れました。
しかし、短くため息をつきながら
フォークを下ろしました。
皿に残ったパンケーキのカスを
見ていたゲスターは、遠い昔、
ゲスター以前の、
とても遠い昔の記憶を思い出し、
眉を顰めました。
◇不運な幼なじみ◇
ランスター伯爵の時と今は、
貴族の少年と契約したけれど、
元々アウエル・キクレンは
山奥や田舎の少年たちと
より多く契約していました。
自分の存在を表に出さず、
静かに研究に没頭するためでした。
高い身分を持つ少年と
取引することになれば
どうしても人の目と耳が
自分に多く集中するし、
後継者問題なども、ひどく面倒で
子ども時代を脱した途端、
研究のために閉じこもることが
困難でした。
初めてロードと友達になった時も、
アウエルは、
普通の山奥の少年の体でした。
その時、一番仲良く過ごしたのは
隣に住んでいた少女でしたが
アウエルが、
その少女と仲良く過ごしたのは、
彼が体の持ち主と契約する前から、
元々2人は
幼なじみだったからでした。
体の持ち主は
アウエルと契約はしたけれど
その幼なじみとの友情を
継続することを望み、
ずっと平凡な子供のように
過ごしました。
最初、アウエルは
体の持ち主の幼なじみに
全く関心がありませんでした。
しかし、数ヵ月後、アウエルは、
その幼なじみが
あまりにも運が悪くて、
好奇心を抱くようになりました。
幼なじみは真面目な上に
性格もかなり良く、とても肯定的で
明るい性格でした。
その上、何をするにしても
最善を尽くして努力しましたが
いくら努力して何かをしても
土壇場で何かが起こり、
努力が無駄なるのが常でした。
ある日、アウエル・キクレンは
お前は適当に生きた方がいいと
年長者として真剣に助言しました。
しかし、幼なじみは
アウエル・キクレンに砂をかけ、
「そんなことを言うなんて」と、
抗議しました。
でも君は、何をしても
失敗するではないかと
アウエルが言うと、幼なじみは
そんな話をするなと抗議して、
アウエルの助言を
受け入れませんでした。
しかし、アウエルは
その友人を観察するのを
止めませんでした。
一人の人間が、
これほどまでに不幸に見舞われて
過ごす姿は、久しぶりに
アウエルの探求熱を刺激しました。
そうやって1年ほど過ごした頃、
アウエルは幼なじみの不幸よりも
大きな問題を見つけました。
幼なじみの不幸の半分以上は、
その親が原因のようでした。
アウエルの体の持ち主の親は、
アウエルを、
とても愛してくれました。
しかし、幼なじみの親は
子供を仇のように扱っていました。
そんなある日。
ずっと空家だった幼なじみの隣の家に
老婦人が孫一人を連れて
引っ越して来ました。
アウエルの体の持ち主の両親と
幼なじみの両親は、
引越しの荷物運びを手伝うために
その家を訪れ、
アウエルと幼なじみも
両親に付いて行きました。
老婦人は息子と嫁が
事故で亡くなったため、
自分が孫を引き取ることになったと
話しました。
彼女が悲しみながら。孫の手の甲を
しきりに撫でている間、
賢そうな少年は床だけを
見下ろしました。
アウエルは老婦人にも少年にも
彼らの事情にも
何の関心も抱きませんでしたが、
幼なじみは、その少年を見るや否や
一目惚れしてしまいました。
ある日、幼なじみはアウエルに、
彼は自分が見た中で
最高に素敵だと思うと
こっそり告白しました。
アウエルは、
幼なじみの目はどうかしている。
自分が目の前にいるのに
何の戯言を言っているのかと
非難すると、幼なじみは
「おえーっ」と吐く真似をしました。
アウエルが、なぜ吐くのかと尋ねると
幼なじみは、
アウエルは、ただの弟みたいなものだと
答えました。
アウエルは、
弟でもないのに弟みたいなものとは
何なのかと、からかいましたが
幼なじみは、ひたすら
少年に関心を示しました。
幼なじみは、アウエルと遊びに行く時、
いつも少年を誘いました。
そのため、時間が経つと、
引っ越してきた少年は、
アウエルのもう一人の友人に
なっていました。
アウエルは、
幼なじみが少年に片思いしても、
2人の恋は叶わないだろうと
思いました。
幼なじみは、望みを叶えたことが
一度もなかったからでした。
ところが、ついに奇跡が起きました。
少年も幼なじみを
好きになったのでした。
ある日、アウエルは、
幼なじみの長所は、
優しいところしかないのに、
少年は幼なじみのどこが好きなのかと
本気で尋ねました。
少年は返事の代わりに、顔を赤くして、
アウエルを殴って
逃げてしまいました。
アウエルは少年の趣味が
本当に特異だと思いましたが、
とにかく安堵しました。
彼がこの村を離れても、幼なじみは
一緒にいてくれる
他の人ができたからでした。
幼なじみと少年が、
初恋を育てながら成長する間、
アウエルは
村を離れる準備を始めました。
そんなある日。
山を歩き回りながら木の根元で
植物を採集していたアウエルは
緑色の平らな葉の向こうに
小さな虫の怪物がうずくまっているのを
発見しました。
なぜ、この怪物がここに現れたのか。
小さな虫の怪物は、
アウエルの手を避けて
木の中に逃げようとしましたが、
アウエルの手は、そのまま
木の中まで
虫の怪物を追いかけました。
そして、小さな虫の怪物を捕まえて、
種類と年齢を確認した後、
そのまま命を奪ってしまいました。
何度か、そのようなことが起こると
アウエルは、
以前ロードが現れる時の兆しについて
聞いた話を思い出しました。
先代のロードが消えてから
500年ほど経ち、 怪物たちは
人目のつかない所に忍び込みました。
聖騎士や黒魔術師や、
アウエルのような
人たちぐらいでなければ
怪物を見つけることが
できませんでした。
ここは山奥だけれど
怪物の侵入を受けたという記録は
ありませんでした。
それなのに近くの山に
怪物が現れたので。
アウエルは狐の穴を通って山里を離れ
様々な情報を集めに行きました。
数日後。 彼はこの町にロードが、
正確には
ロードになる人がいることに
気づきました。
そろそろ出発の準備をしていた
アウエルは、荷物を元に戻しました。
彼の好奇心が再燃したからでした。
この村の人口は少ない上、
歴代ロードたちが姿を現す時の
大多数の年齢を考えると、
今ロードである可能性が最も高いのは
幼なじみと少年でした。
まもなくアウエルは、
自分の幼なじみが
ロードである可能性が最も高いと
考えました。
かつて、彼が関心を示した、
あの震えるような不運だけを見ても
彼の幼なじみは、以前から
平凡ではありませんでした。
アウエルは悩みに陥りました。
彼はロードのライバル関係には
あまり関心がありませんでした。
しかし、
最近、調べてみたところによれば
ロードたちは、最強の存在だから
どうのこうのと
言われている割には、
どれも末路がいまいちでした。
アウエルは、
あの不運な奴を、ここに置いて
去っても大丈夫だろうか。
ごく平凡な2人の友人が、
これから訪れる危機を
乗り越えることができるだろうかと
久しぶりに真剣に悩みました。
しかし、結局アウエルは、
友人2人を置いて
村を離れることにしました。
この村は、あまりにも
人里離れた所に位置していたので
部外者が、
ここに入ってくること自体、
容易ではありませんでした。
その上、村の人同士、
皆、顔を知っていました。
見知らぬ人が現れて、
幼なじみがロードだと主張しても
信じる人はいませんでした。
何より、幼なじみも、
幼なじみの恋人になった少年も
この村の外に出るつもりが
なさそうでした。
アウエルは、
何も起こらないだろうと
思いながらも、去る前に、
幼なじみと少年に
若干の黒魔術が込められた玉を
渡しました。
アウエルは、
もし緊急なことが起きたら、
これを地面や敵に投げて逃げろと
言いました。
幼なじみは、
これは何かと尋ねました。
アウエルが、虫だと答えると、
幼なじみは嫌がって
受け取ろうとしませんでしたが、
アウエルは、
必ず持っていろと念を押して
ポケットに玉を入れました。
実は玉の中に入っているのは
虫ではなく、
強力な黒魔術の煙でした。
その後、アウエルは、
都市で勉強するという言い訳をして
村を離れました。
もちろん、アウエルが行った所は、
都市ではなく、
さらに深い山奥でした。
そこで数か月間、
彼は独りぼっちの家に閉じこもって
過ごしました。
幼なじみの誕生日になった時、
アウエルはプレゼントを持って
村に帰りました。
しかし、彼が戻って来た時、
事は、手の施しようがないことに
なっていました。
深い山の中にいるので、
人々はロードを探しに来ることが
できないという彼の予測は
間違っていました。
どうやって知ったのか、
誰かがロードを探しに現れました。
友人と幼なじみは、
ロードを迎えに来た吸血鬼と一緒に
村を離れた後でした。
そして、二人の痕跡を見つけた時、
すでに幼なじみは死んだ後でした。
幼なじみの命を奪ったのは
彼女が愛した少年でした。
少年は吸血鬼に変わっていました。
平凡な吸血鬼が
ロードの命を奪えるのかと、
アウエルは少年に尋ねましたが、
すでに彼は凶暴化し、
理性を失っていました。
アウエルは、
自分に襲いかかってくる
少年の首を握りました。
そして、
手に力を入れようとした瞬間。
白い服を着て、
槍を持った白髪の男が現れました。
男は、アウエルの手に握られた
吸血鬼を見ながら、
一歩遅れてしまったと呟きました。
「止めるのか?」とアウエルが尋ねると
白い髪の男は
「勝手にしろ」と言って
そのまま行ってしまいました。
アウエルは後になって、
その男が、対抗者の師匠である
ギルゴールであること。
そして、いつも不幸を引き連れていた
自分の友人が、とんでもないことに、
対抗者を吸血鬼にし、彼の手により、
死んだということを知りました。
友人とはいえ、一瞬の縁に過ぎず、
そのような縁は多かったため、
その後、アウエルは、
その時代のことを忘れて
生きていきました。
しかし、500年程度の時間が過ぎて
再びロードが現れる時期になると、
アウエルが、
一生懸命、守ってやったけれど、
彼が席を外した間に、
虚しく死んでしまった友人のことを
思い浮かべました。
ロードが転生するという情報を得た
アウエルは、転生したロードが
自分を覚えているかどうか
気になりました。
いつも、あちこち怪我をしていた
友人を守ると、
約束したこともありました。
アウエルは、
ちょうどすることもなく
新しい体を探す時期にもなったので
友人の生まれ変わりに
会ってみることにしました。
そうして、
ランスター伯爵になった彼は、
吸血鬼の騎士のカルレインと
ギルゴールと協力して、
ついに友人の生まれ変わりと
再会しました。
ギルゴールが
対抗者の師匠であることは
知っていたけれど、
アウエルが
対抗者の命を奪おうとした時、
そのまま行ってしまった姿を
覚えていたので、
それはデマだと思いました。
実際に会ったドミスという女性は
友人の痕跡が
全くありませんでした。
彼の幼なじみほど、本当に
苦労して生きてきたということを
除けば、本当に似ているところが
一つもありませんでした、
気乗りしなかったけれど、
せっかく始めたし、退屈だったので、
ランスター伯爵は
ドミスまでは助けることにしました。
しかし、次のロードの転生は
あえて探さないつもりでした。
彼が経験してみたところ、
転生した人は、
ただの別人に過ぎませんでした。
そんなある日。 ドミスの向こうに
彼女が現れました。
ゲスターの中に
入っていることは知っていても
どんな人物なのか謎だった
アウエル・キクレン。
ようやく、彼の過去について
少し明らかになりましたが、
ドミスと関わる前は、
そんなに腹黒そうでもないし、
純粋に黒魔術を
極めたがっているだけのように
思えました。
過去に戻ったラティルと
出会ったことが、
アウエルが変わったきっかけと
なったのでしょうか。
981話で、ゲスターは心の中で
ラティルに対して恨み言を
言っていましたし・・・
次のお話で、
謎が明らかになることを期待します。