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泣いてみろ、乞うてもいい 43話 ネタバレ 先読み 原作 あらすじ 気づかれることなく羽を切る

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43話 泳いでいたマティアスは木の上にレイラを発見しました。

 

泳いで戻ったマティアスは

服を着替えて離れを出ました。

夕焼けは、

さらに濃くなっていたけれど

レイラは、まだ木の上に座って

泣いていました。

彼の存在に気づかない点も

先程と同じでした。

 

マティアスは、

木の下で立ち止まりました。

しばらくして、レイラは

ようやく彼の方を見ました。

しかし、以前のように

驚いて目を逸らすことはなく

怖がったり、警戒したりする様子も

ありませんでした。

マティアスは、不思議に思いましたが

すぐにその理由に気づきました。

レイラの目は、

マティアスに向けられているけれど

彼を見ていませんでした。

そのぼんやりとした目が

向けられているのは、

遠くのどこか、

去っていった医師の息子が

いる所のようでもありました。

 

マティアスの唇が斜めに傾く頃、

レイラの目が焦点を取り戻しました。

やがて彼を捉えた緑色の瞳には、

すぐに当惑の色が浮かびました。

レイラは顔を硬直させ、

肩をすくめました。

マティアスが知っている、

まさに、そのレイラでした。

 

レイラの濡れた目を眺めながら、

マティアスは腕を組みました。

急ぐ必要のない暇な夕方なので、

あの女を、待てないわけでも

ありませんでした。

 

彼が去る気がないことに気づいたのか

レイラの目に、

露骨な警戒心が浮かび上がりました。

その挑むような態度に

マティアスは笑いました。

 

彼は木に一歩近づくと、

レイラが待っている

あの子が来ないことを

分かっているだろう?と

確認しました。

そして、

もう、君から離れた

あの子だと言えばいいのかな?

と尋ねると、

レイラの目を直視して微笑みました。

ひどい言葉を口にした瞬間にも、

彼は優しい声でした。

 

レイラは、虚しく笑いました。

もう鳥も去ってしまった夕空を見た

レイラの頬を涙が伝いました。

 

彼女は返事をすることなく

唇を噛みました。

あの残忍な男が去るのを待っていたら

夜が更けても、

この木から抜け出せそうに

ありませんでした。

 

レイラは、公爵の視線が届かない

木の後ろ側から降りました。

あまりにも多くの涙を流したせいか

めまいがしましたが、

幸い見苦しい姿を見せずに、

地面に降りられました。

 

レイラはエプロンで

濡れた顔を拭き、乱れた髪を整えて

姿勢を正した後、

帰ろうと思いましたが、

公爵は、まだ小屋への道を塞いで

立っていました。

 

レイラは、

逃げるように遠回りする代わりに

公爵に近づきました。

なかなか止まらない涙が

いつのまにか、

また顔を濡らしていましたが、

気にしませんでした。

あの男の意地悪に

巻き込まれたくないので、

どうせ隠すことができないのなら、

むしろ堂々としていようと

思いました。

 

彼と二歩ほど離れた所に

立ち止まったレイラは、

精一杯、礼儀正しく腰を下げ、

礼を欠いてしまったことを謝り、

別れの挨拶をしました。

 

しかし、レイラが

ちょうど横を通り過ぎた瞬間に

公爵がレイラを呼びました。

レイラはギョッとしましたが、

立ち止まりませんでした。

マティアスは、失笑するように

レイラを呼びましたが、彼女は

何も聞くことができない人のように

歩いてばかりいました。

 

一線を越えた挑発に

マティアスが眉を顰めた頃、

幽霊のように

ふらふら歩いていたレイラが

急に崩れ落ちました。

そのまま地面にしゃがみ込んだ

レイラは、

なかなか起き上がれませんでした。

小さく丸まった肩と背中が

震えていました。

 

短く舌打ちをしたマティアスは

みっともなく倒れて

泣いているレイラのそばに

ゆっくりと近づきました。

あの剛直な女の子が、

涙を流す時にも、

絶対に負けないと叫ぶような

不敵な目つきを失わなかった

レイラ・ルウェルリンが、

どうしようもなく崩れ落ちた姿で

泣いていました。

 

マティアスは、片膝を曲げて

レイラの前に座りました。

落ちた眼鏡を拾っているうちに

ようやくレイラは顔を上げました。

 

マティアスは、

自分をかなり楽しませてくれた涙に

今は、満足していませんでした。

カイル・エトマンのせいで泣いている

この女性を見る、この気持ちを

何と呼べばいいのか。

マティアスは少し遅れて、

彼の世界に存在したことのない

侮蔑感であることに気づきました。

 

マティアスはレイラの顎を掴んで

泣かないでと命令しました。

レイラは抵抗しようとしましたが

彼の握力に耐えられませんでした。

「放して!」と

レイラがもがきながら抵抗しても

マティアスは、静かに

同じ命令を繰り返すだけでした。

 

レイラは、

自分が泣いたら、

公爵は喜ぶべきではないかと

呆然として尋ねました。

どうしても

彼の手から抜け出すことができない

屈辱感に、レイラの涙の滴が

大きくなりました。

 

マティアスは、

絶望的にすすり泣くレイラを

前にしても、

いつから自分の楽しみに

関心があったのか。

自分が喜ぶのが嫌いではなかったかと

笑いながら尋ねました。

 

レイラは否定すると、

涙を堪えようと必死になり、

彼に捕らえられた顔を

微かに振りました。

 

レイラは、

自分の涙が公爵と関係ないように

公爵が楽しんでいても、いなくても

それは自分とは関係ないと

言いました。

しかし、マティアスは

自分は気にしていると反論すると

再び、泣かないでと命令しました。

レイラを見るマティアスの表情は、

もはや穏やかでさえありました。

 

レイラは、もう呆れて、

自分が流す涙にも

公爵の許可が必要なのかと尋ねると

失笑しました。

マティアスが「それなら?」と

聞き返すと、レイラは

なぜ、そうしなければならないのか。

公爵には、

そのような資格がない。

アルビスの主人だという理由で

自分まで所有されたわけではないと

言い返しました。

 

「そう?」と

聞き返したマティアスは、

しばらく眉を顰めましたが、

すぐに再び微笑みました。

そして、

今、持つことにしようかと言うと

一瞬、その微笑みが消えました。

何の感情も残っていない

その顔が与える恐怖感に

レイラの唇が震え始めました。

 

マティアスは、

「君の主人のように」と付け加えると

指先でレイラの唇に触れました。

その感触に、レイラは

去年の夏の記憶を思い出して

震え上がりました。

カイルを失った熱い悲しみに

飲み込まれていた心が

突然凍りつくようでした。

 

レイラは

「嫌です」と拒むと、

公爵の足元に崩れ落ちている自分の姿に

これ以上耐えられなくなり

死力を尽くして体を起こしました。

 

マティアスは、

興味を失ったおもちゃを捨てる

子供のように

快くレイラを手放しました。

 

レイラは、よろめきながら

立ち上がりました。

泥と涙で滅茶苦茶になった姿でしたが

瞳は、

本来の光を取り戻していました。

 

レイラは、

公爵と、婚約者のいる公爵の

このとんでもない行動の全てが

大嫌いだと言いました。

 

マティアスは

レイラの眼鏡をいじくり回しながら

自分が欲しがっているのに、

君の気持ちが、

自分と何の関係があるのかと、

いかなる悪意も含まれない声で

聞き返しました。

 

欲しければ持つ。 ただそれだけ。

そしてマティアスは

レイラ・ルウェリンを

欲していました。

欲しいから持つ。

持ってこそ捨てることができ、

君を捨ててこそ、

自分の人生が再び完全になるだろう。

 

マティアスは、

ぼう然としているレイラの顔に

そっと眼鏡をかけました。

「行け」と命じた彼の手が離れると

レイラはその場に座り込みました。

 

しばらく彼女を見下ろして

立っていたマティアスは、

まるで散歩を楽しむように

川辺を離れました。

彼の姿が見えなくなった後も、

レイラは、

さらにその場に留まりました。

小屋に戻って来たレイラを見たビルは

いつもとは違う浮かれた声で

早く来てと、レイラを呼びました。

レイラは微笑みながら、

ポーチに座っている

ビルのそばに近づきました。

こんなに滅茶苦茶な姿で

笑ったところで

おじさんを騙すことが

できないということを

知っているけれど、馬鹿みたいに

泣き顔を見せたくありませんでした。

 

レイラは、

どうしたのかと尋ねると、

ビルは、電報が来たと答えました。

レイラは首を傾げながら、

それを受け取りました。

その内容は、

このアルビスから、

それほど遠くない村の学校に

教師の席が一つできたので、

新学期から、隣の都市ではなく、

その学校に

出勤すればいいというものでした。

 

嬉しい知らせでしたが、

カルスバルには空きがないと

確かに聞いたので、

レイラは、なんとなく

面食らった気分でした。

 

ビルは安堵感のこもった目で、

レイラの頭をそっと撫でながら、

お前が遠くに行くかと思うと

気分が良くなかったけれど、

こんな幸運が訪れて

どれほど幸いなのか

分からないと言うと、

レイラは頷きながら笑いました。

 

ビルおじさんの言うとおり、

これは幸運でした。

下宿をしながら

隣の都市の学校に勤めても、

週末には、必ずおじさんのそばに

戻ってくるつもりでしたが、

それでも、

心に穴が開いたような気分でした。

しかし、

脳裏に浮かぶ公爵の顔のせいで

レイラは快く

喜ぶことができませんでした。

ビルおじさんと離れたくないけれど

愚かにも、公爵からは

逃げ出したいと思いました。

 

ビルは、

また何かあったのかと

慎重に尋ねました。

ようやく、レイラは

自分が固い表情をしていたことに

気づきました。

レイラは、

思いもよらない幸運で、

少し戸惑っているからだと

再び笑って答えました。

 

ビルは「そうなの?」と聞き返すと

レイラは、もう少し明るい笑顔で

「はい」と答えました。

そしてビルに

お腹が空いているだろうから

おいしい夕食を食べようと

誘いました。

ハサミとハンカチを持ったマティアスは

窓際に置かれた椅子に座り、指を弾くと

カナリアが手の上に座りました。

鳥が鳴くのも一種の訓練なのか、

カナリアは、ますます美しく

歌えるようになりました。

マティアスは微笑みながら

歌う鳥を眺めました。

 

その澄んだ歌声が止まると、

マティアスは持って来たハンカチで

そっと鳥を包みました。

飼育士は、鳥の羽を切る前に

必ず鳥の目を覆いました。

自分の羽を切った人が

誰なのかを鳥が知れば、

その人を恐れるようになるからだと

飼育士は話していました。

 

おとなしく身を任せた鳥の翼を

マティアスは上手に広げて

握りました。

しばらくは飼育士に任せたけれど

今では伸びた羽を切ることぐらいは

簡単にできるようになりました。

 

最初の数回は

短く切り過ぎてしまったせいで

血が流れたりもしました。

幸い大きな出血では

ありませんでしたが、

血に濡れた金色の翼を見るのは

あまり喜ばしいことでは

ありませんでした。

そのため、マティアスは

さらに慎重になりました。

 

切り取る羽を確認したマティアスは

膝に置いていたハサミを握りました。

鋭い刃先に沿って切断された羽が

ヒラヒラと舞い、マティアスの

きれいに磨かれた靴の上に落ちました。

反対側の羽も切ったマティアスは、

鳥の目を覆っていたハンカチを

取り除きました。

 

羽が切れた翼を

何度かパタパタしていた鳥は

マティアスの指の上に座りました。

カナリアは、

何事もなかったかのように

再び、美しくさえずり始めました。 

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レイラは、子供の頃から

家族同様に過ごして来たカイルと

不本意な別れ方をし、

以前のように

一緒に過ごす時間を持てないことを

悲しんでいるのに、

自分が欲しかった物を

手に入れられなかったから

悲しんでいるのだと誤解している

マティアス。

それに人間はおもちゃではないのに

飽きたら捨てればいいなんて

子供の発想。

マティアスは、ヘルハルト公爵家

唯一の後継者として、

然るべき教育を受けて来たけれど

肉親の愛情は

あまりかけられなかったのかも

しれません。

だから、マティアスは

男女間の愛も、肉親への愛も

よく分かっていないのだと思います。

 

今のマティアスは

レイラを手に入れたら

捨てるつもりでいるけれど、

それができなくて、苦しむ姿を

見せてくれるだろうと期待しながら

レイラに対する

マティアスの酷い仕打ちを

我慢することにします。

 

「おっしゃる通りに

うまく処理された。」

前話でヘッセンがマティアスに

伝えた言葉は、レイラを

近くの学校の教師に

させるというものだったのでしょう。

カナリアに気づかれることなく

羽を切っているように

レイラに気づかれないよう

彼女の羽も切って、

アルビスに閉じ込めたマティアス。

彼の行動が恐ろしいです。

*****************************************

いつも、たくさんのコメントを

ありがとうございます。

 

私も、マティアスが川で泳ぐ時は

何も着ていないと思います。

この後、戦争の話が出て来るので、

時代背景としては

第一次世界大戦(1914〜1918)

辺りではないかと

思いますが、その頃の男性用の水着が

ワンピーススタイルだったら

着るのが大変そうなので、

パッと脱いで、すぐ泳ぐなら

裸ではないかと、

現実的な発想をしてみました。

ちなみに、水着が

ワンピーススタイルだと思ったのは

「ベニスに死す」の舞台が1911年で

映画に登場する

ビョルン・アンドレセンの水着が

ワンピーススタイルだったという

単純な理由です。

 

それでは、

次回は月曜日に更新いたします。

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