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泣いてみろ、乞うてもいい 54話 ネタバレ 先読み 原作 あらすじ 赤いインク

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54話 学校の評議員会議に来る予定でなかったマティアスがやって来ました。

 

会議がどのように進められたのか

レイラは

一つも思い出せませんでした。

頭の中が空っぽになったまま、

笑ったり、話したり、

動いていました。

そのすべての瞬間、レイラの神経は

ヘルハルト公爵に向かっていて、

他の何も意識することが

できませんでした。

 

一体どうして?

公爵をチラチラ見るレイラの目には

恐怖と入り混じった疑問が

濃く滲んでいました。

それを、あざ笑うかのように、

マティアスは、冷静沈着な表情で

会議に臨みました。

 

予定外の公爵の訪問に

大喜びした校長は、よく喋り、

マティアスは、

校舎増築への校長の熱望に

喜んで同意しました。

ブルブル震えながら顔色を窺う、

あの女以外のすべてが

彼の知ったことでは

ありませんでした。

 

「ルウェリン先生」

誰かが、その名前を呼ぶ声に

マティアスの口元が、

一層柔らかくなりました。

「ルウェリン先生?」

もう一度、呼ぶ声には、

若干の疑問が込められていました。

 

会議室に座っている皆の視線が、

一斉に、

その名前の主人に向かいました。

マティアスは、

最後に首を向けました。

レイラは、教室の片隅で、

罰を受けた子供のように、

苛立たしげに手を触り、

自分の足元だけを見下ろしながら

立っていました。

遅ればせながら、

状況を把握したレイラは

赤くなった顔を上げて謝りました。

 

マティアスは、

慌てて頭を下げる態度が

気に障りました。

自分には、よく不埒な言葉を口にし

臆面もないことをしておきながら

ここでは、

しょんぼりしているのが

情けないと思いました。

 

眉を顰めた校長は、一体、今・・と

レイラを注意しようとしましたが

それとほぼ同時に、マティアスは

話を続けるようにと、

淡々と提案しました。

そして、丸くなった校長の目を見つめ

とても寛大な笑みを浮かべながら、

増築計画について、

もう少し詳しく聞きたいと

促しました。

 

すでに新しい校舎を

手に入れたかのように

喜びに酔った校長は、

すぐに気にくわない若い教師のことを

忘れました。

 

校長の計画が

徐々に具体化していく間、

レイラは、グレバー先生を助けて

茶を運び始めました。

しっかりしなければと、

自らを励ましながら

神経を尖らせました。

 

これ以上、

馬鹿みたいに見えないように、

うまくやり遂げなければならない。

しかし、その切実な願いは

ヘルハルト公爵のそばに近づいた瞬間

再び跡形もなく消えました。

 

レイラの震えに伴って、

カップとソーサーが

カタカタと揺れました。

マティアスは、

だんだん近づいてくる音に

視線を移しました。

 

目が合うとレイラは、このまま、

泣き出してもおかしくないような

表情になりました。

怖がっていて、混乱していて

途方に暮れている顔。

望んでいたことでしたが、

いざ目の前にしてみると、

それほど嬉しくはありませんでした。

マティアスは考えを変え、

レイラから視線を外しました。

 

お茶でもこぼして、

先程より、もっと真っ赤になって

慌てるのは、

きっと面白いだろうけれど

ここではダメでした。

幸いにもレイラは、

マティアスの前に、

無事にカップを置きました。

彼女の手は、蝋人形のように

真っ白になっていました。

その後、レイラは教室の隅に戻り、

会議は続きました。

 

校長の長々とした演説と訴えが続く間

マティアスは、

細い指と、

その先で光る花びらのような爪。

夢中で彼を殴り、引っ掻いても

少しの痛みも与えられなかった

その手を握った夏の午後。

しっかりと指を絡めて握り締めた

その小さな手の感触の記憶を

ゆっくりと思い出しました。

 

そして、その手を

地面に押さえつけながら

飲み込んだ唇の感触が蘇る頃、

会議は終わりました。

 

後援者たちは、喜んで増築に同意し

マティアスもやはり、

誰よりも大きな後援金を約束しました。

貴族たちの上品な顔の裏は、

早く自分の家に帰りたいという願いで

いっぱいでした。

 

マティアスは、

少し教室を見回ってもいいかと

丁寧に尋ねました。

校長は、もちろんだと答えましたが

今は、他の後援者たちが帰るのを

見送っているところでした。

 

困ったように周囲を見回した

校長の視線が、

教室の隅に隠れるように立っていて

今は、最も役に立たない働き手である

レイラの上に止まりました。

 

校長は、

ルウェリン先生に、

案内を任せても良いかと

まさにマティアスが望んでいた

答えが返って来ました。

マティアスは快諾すると、

善良そうに頷きながら、

ゆっくりと席を立ちました。

レイラが担任をしている

低学年クラスの教室は

一階の一番奥に位置していました。

子供たちを早く下校させた後、

ストーブを消した教室は

寒くて湿っていました。

 

明かりを点けたレイラは、

強張った足取りで、

先に教室の中に入りました。

もう、この教室を見せれば

終わりでした。

 

これまでマティアスは、本当に

学校施設を見ることだけに熱中した

後援者のように行動したので、

レイラも逃げたり

気絶したりすることなく

公爵を案内することができました。

 

レイラは、

ここは幼い児童たちが勉強する・・と

形式的な説明を始めようとしたところ

ドアが閉まる音が聞こえました。

言葉を濁したレイラは

驚いた顔で振り返りました。

マティアスが、

閉じたドアに背を向けて

立っていました。

 

マティアスは、

教師用の机や所持品、

椅子の背もたれに掛けられた

コートを注意深く見ながら、

ここが、ルウェリン先生の

教室のようだと言いました。

レイラは、そうだと認めると

後ずさりして、

マティアスから最も離れている

窓辺に向かいました。 

窓ガラスを叩く雨の音のように、

胸も不安そうに

ドキドキし始めました。

 

マティアスは、

散歩でも楽しむように、

悠々とした歩き方で

レイラが広げた間隔を狭めました。

そわそわと

周りを見回したレイラは、

窓際に置かれた自分の机の横に

ぴったりと立ちました。

 

自分が何をしたというのかと言って

マティアスは笑いましたが、

レイラは、

少しも慰められませんでした。

彼は、

冷ややかな目で見つめながら

優しい笑みを浮かべた時、

最も残忍になりました。

 

レイラは、

ここは学校でアルビスではないと

訴えました。

マティアスは、

「うん、学校だ」と返事をすると

立ち止まることなく

近づいて来ました。

 

マティアスは、

自分はこの学校の後援者なので

来られない所ではないのではないかと

主張しました。

レイラは、

公爵は会議に出席する予定では

なかったのに、

どうして、こんな風に・・・と

尋ねました。

 

マティアスは、

レイラから二歩ほど離れた所で止まり

平然と後ろで手を組むと、

君は自分のことを

バカだと思っているのか。

もし、自分が出席するという意思を

明らかにしていたら、

君は、どんな手を使ってでも

逃げ出したはずだと主張しました。

レイラは、唇をパクパクさせるだけで、

否定できませんでした。

 

レイラは、

何か話したいことがあるなら、

アルビスで話して欲しいと訴えました。

しかし、マティアスは、

ここの方がいいと思うと答えました。

そしてクスクス笑ったマティアスは、

教師用の机の前に足を運びました。

レイラは助けを請うかのように

廊下に面した窓の向こうだけを

ひたすら見つめていました。

 

マティアスは、

机の上にきちんと並べられた

持ち物を見ながら、

ここにいるから、

自分たちは話ができると

何気なく言いました。

レイラの息を飲み込む音が

雨の音と混ざり合いました。

 

羽ペンと吸い取り紙。陶器の人形。

食べ終わったチョコレートの箱に

入っているペン先。

主人に似た可愛らしい物を見ていた

マティアスの視線が、

机の端に置かれたインク瓶の上で

止まりました。

 

黒。青、赤。

マティアスの口元に

笑みが浮かびました。

彼は、最も近くにある

赤を選びました。

 

レイラは止めようとしましたが、

ただ頭を下げました。

物を見て触っているだけ。

それに過敏に反応して

熱くなった顔を

見られたくありませんでした。

 

レイラは、見送りを終えた人々が

戻ってくることだけを待ちながら

祈るように手を合わせました。

その間、公爵は

インク瓶の蓋を開けました。

レイラは、机の上に

落ちる音が聞こえた後になって

ようやく、

そのことに気づきました。

 

どうもマティアスの変な行動が怪しくて

頭を上げたレイラは

「公爵者様!」と悲鳴を上げました。

椅子の前に近づいた公爵が

まるでワインを注ぐように

手に持った赤いインクを

レイラのコートの上に注いでいました。 

 

レイラは驚愕して

そこへ駆けつけました。

公爵は、インクが半分残った瓶を

軽く握ったまま後ずさりました。

レイラは、慌ててハンカチで

拭いてみましたが、

彼女のライトグレーのコートは、

すでにインクで

ぐちゃぐちゃになっていました。

 

今、一体何をしているのかと

レイラが涙声で叫んでも、公爵は、

責任を取ることと、

のんびり答えました。

 

その返事に、

あまりにも呆れたレイラは

一瞬、言葉が詰まってしまいました。

開いた唇は

熱気で赤くなっていました。

そのレイラのそばに

公爵は再び近づいて来ると

優雅な身振りで、さりげなく

レイラの肩の上にも

インクを注ぎました。

ブラウスとスカートはもちろん

靴まで汚されてしまいました。

 

最後の一滴のインクまで

レイラに注いだ公爵は、未練なく

インクの瓶を手放しました。

床に落ちたガラス瓶が

澄んだ音を立てて転がりました。

飛び散ったインクの滴が

よく磨かれた公爵の靴まで

飛びましたが、

彼は、少しも気にしていない

顔をしていました。

 

レイラは叫ぼうとしましたが

声を出すことができませんでした。

あまりにも驚いて、恐ろしくて、

まるで鮮血のような

インクをかぶった姿で、

まるで首が絞められた人のように

ただブルブル震えながら

息を切らすのが全てでした。

 

公爵は、

自分の手によって作り出した騒ぎに

眉間にしわを寄せながら

どうしよう、レイラ。

責任を取らなければならないと

言いました。

残酷に呟いた瞬間も、

公爵の笑みは穏やかでした。

後援者たちの見送りを終えた校長と

他の教師たちが、

急いで公爵のいる教室を訪れると、

彼らは、

誤って、ひっくり返したインクを

かぶって、めちゃくちゃになった

一番年少の教師と

彼女を心配している公爵を

発見しました。

 

校長は、

マティアスに付いて行きながら

ルウェリン先生のミスを

寛大な心で理解してくれて

本当に感謝していると

お礼を言いました。

 

しかし、マティアスは、

自分が落としたインク瓶を

ルウェリン先生が受け取って

持ち上げようとして起こったことなので

自分のミスだ。

自分がルウェリン先生に謝罪すべきだと

先ほどと同じ言葉を繰り返しました。

 

しかし、校長は、

初めて学校を訪問してくれた公爵に

もっと良い姿を見せることができなくて

心苦しいと告げると、マティアスは

十分楽しい訪問だったと

返事をしました。

 

玄関前に到着したマティアスは

戦々恐々とする校長に向かって

短く黙礼しました。

そして、校長の後ろに

ぼんやりと立っているレイラを見て、

ルウェリン先生は

自分と一緒に行こうと誘いました。

レイラが何とかしようと

努力すればするほど

インクが滲むばかりで、

彼女は、

大怪我でもした人のように見えました。

 

レイラは、

自分は大丈夫だと断りました。

無理矢理、怒りを堪えている声が

微かに震えました。

恐怖心が消えた目つきも、

とても鋭く光っていました。

気圧されて、

ブルブル震えていた姿より

ずっとマシでした。

 

校長は、

公爵があんなに謝っているので

この辺で受け入れるようにと

勧めました。

彼は、優しい笑みを

浮かべてはいるものの、

目つきは焦っていました。

 

そして、今日は雨が降って

自転車に乗って来なかったので

公爵の言うとおりにするようにと

勧めましたが、レイラは

傘があるから歩いて行けると

意地を張りました。

校長の顔から、血の気が失せました。

 

マティアスは、

ルウェリン先生の気持ちも分かるけれど

そんな姿で、雨の中を歩いて行く

ルウェリン先生を見て驚く

通行人たちにも配慮したらどうか。

警官が出動するかもしれないと

冗談を言うと、

皆、愉快そうに笑いました。

 

レイラは唇を噛み締めながら

自分の姿を見ました。

よりによって赤いインクなので、

まるで

血まみれになった人のようでした。

マティアスの言葉は

ただの冗談ではない気がしました。

 

校長が、それとなく合図を送ると

グレバー先生が、

頑固なレイラのそばに近づきました。

先に車に乗ったマティアスは、

のんびりと、

その光景を見守りました。

 

レイラは荷物のように

引きずり込まれて、

車に乗せられました。

マティアスは、少し横にずれることで

ひどく腹を立てている

レイラの席を用意してくれました。

まもなくドアが閉まり、

二人を乗せた車が出発しました。

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考えてみれば、ヘルハルト公爵家

学校の一番の後援者なので、

レイラが言うことを聞かなければ

増築費用を出さないなどという

子供じみた脅しはしないですよね。

でも、レイラにインクを注いだのも

十分、子供じみた悪戯ですが・・

インクを見て、

とっさにレイラのコートに

インクを注ぐことにした

マティアスの機転の良さは

素晴らしいです。

マティアスの

レイラの揚げ足取り作戦は

お見事でした。(半分皮肉)

マティアスは、戦争に行ったり

日々、事業を手掛けているので、

レイラよりも、はるかに戦術に

長けています。

並大抵の力では

マティアスには勝てないのに

レイラが彼に対してむきになるのは

DUNE様や、ペコちゃん様が

おっしゃっている通り、

マティアスのことが

好きだからなのかもしれないと

思いました。

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